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「そんなはずはない。ナイトゴーレムが暴走など。というか、ナイトゴーレムは無敵の超兵器なんだ。万が一にでも暴走したら、あなたたちのようなエルフでも太刀打ちできないはず。襲われたという話が真実なら、どうしていま生きている?」
「Bが助けてくれたからです」
と言ってから、ジャスミンが俺のほうをむいた。
「ナイトゴーレムが私たちを襲ってきたって話をしたんだけど、なんだか信用してくれてないみたい」
「ふうむ」
俺はティーカップを口につけたままうなずいた。本当は俺が全部わかっているということをわかっていても、きちんと通訳して、わかってないふりを続行してくれるとはジャスミンも義理堅いエルフである。おかげでミーリアもレイリアも、俺のポーカーフェイスを疑うことはなかった。
「ちょっと待ってくれ。Bが助けた、だ?」
少ししてからレイリアが言いながら、とても信じられないという顔をした。考えるように首をひねる。
「確かに、昨日のBの腕前は素晴らしいものだった。だが、それでも普通の人間だったぞ? 怪力ではあったが、ナイトゴーレムどころか、普通のゴーレムと殴り合いをしても勝てるとは思えない」
黙って紅茶を飲んでる俺を見ながらレイリアが言う。まあ、気持ちはわからんでもなかった。あれは、人間とトラックが相撲するみたいなもんだったからな。
「その話が事実なら、教えてほしい。どうやってBがナイトゴーレムをたおしたのだ?」
「どうやってBがナイトゴーレムをたおしたのかって訊いてるわ」
またジャスミンが俺に通訳してきた。
「Bが獣化症だって言ってもいい?」
さて、どうするかな。俺はメイドの淹れる紅茶のお代りをガブガブ飲みながら考えた。
「うん」
少ししてうなずくのを確認し、あらためてジャスミンがレイリアたちにむきなおった。
「いま、Bが言ってもいいと返事をしたので説明しますが、彼は獣化症に侵されています」
「――なんだと?」
これで一気にミーリアたちの視線が俺に集まった。あ、やっぱり黙っておくべきだったかな。心のなかで後悔しながらも、あえて俺はキョトンという顔をして見せた。こういうときはカエルの面にションベン作戦である。
「ということは、このもの、獣人類だったのだな!?」
「そうは見えないから油断していた!」




