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俺はレイリアを囲んでいる男のひとりに手をかけた。そいつが振りむく。
「○○○○」
たぶん、なんだてめえはとか言ってたんだと思うが、俺はお構いなしで腹に一発お見舞いした。目や鼻を狙わなかっただけ、我ながら親切である。
「ぐううう」
これだけは万国共通なもだえ声をあげ、俺の前にいた男が膝を折って倒れた。すぐそばにいた、ほかの男たちが俺に気づき、殺気だった顔で殴りかかってくる。肌の色が違うから、余計に嫌悪感や怒りも増幅されているんだろう。俺は殴りかかってきた男の拳をよけながら頭を下げ、男の両足に抱きついた。そのまま、男が仰向けに倒れるのもかまわずに身体を起こす。
「おーらよっと!」
プロレスのジャイアントスイング――でわからなかったら、陸上競技のハンマー投げの要領で、俺は男をぶんまわした。まだ変貌していないとは言え、獣人類の俺のパワーでだ。周囲にいた男たちが、ボコボコと吹っ飛ばされて行く。ちなみに俺の武器として使われた男は白目をむいて鼻血を吹いていた。遠心力で鼻血を吹いたのか、どこかにぶつかったのか。まあ、そんなことはどうでもいい。
「まだまだ行くぞー!!」
あんまり調子に乗って死なれても困るので、適当なところで俺は男を離し――回転しながら離したので、男はすっ飛んで壁に激突して動かなくなった――目についたテーブルに手をかけた。上に料理が載っている。もったいないとも思ったが、周りにまだ敵はいるんだからやるしかない。俺は料理をぶちまけながらテーブルを持ちあげた。妙な予感がして背後をむくと、さっきの攻撃を受けなかった男がナイフを持っていやがる!
「てめ、それはシャレにならないだろうが!!」
言いながら俺はテーブルを投げつけた。どかん。男がテーブルの下敷きになって、軽く痙攣してから静かになった。持っていたナイフで自分を傷つけていても、それは自業自得ってもんだろう。
「○○○○!」
荒くれ男たちのひとりが何か叫んだ。たぶん、このへんのボス格だと思う。そいつが言うと同時に、ほかの男たちが後ずさり、俺から距離を置いていった。なんだ? もうやめる気か。――と思ったのは間違いだったらしい。俺を囲む男たちの形相は敵意にとり憑かれていた。
「こっちにきたら、おとなしくしておこうと思ったのにな」
日本語の愚痴なんて、連中にわかるわけもない。男たちは俺を凝視しながら、それぞれ、自分の背後に手をまわした。
あらためて、男たちが手を前にだす。その手を見て仰天。みんな刃物を握っていた。俺は本格的に殺されるらしい。




