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「もう捨てた。こっちにきて、人生をやり直そうって決めたんでな」
そういえば、俺の本名ってなんだったっけ。あんまり呼ばれないままだと、本当に忘れてしまうもんなんだな。ま、いいさ。考えてる俺の前でジャスミンがレイリアに通訳した。レイリアが納得したような顔をする。
「○○○○」
さらにレイリアが何か言ってきた。ジャスミンが俺のほうをむく。
「そういうことなら、それでいい。誰にだって知られたくない過去くらいある。もし都で仕事に困ったら、私のところにきてほしいって言ってるわ」
『アリガトウ』
俺はサーバナイト語でレイリアに返事をした。さすがにこれくらいは三日で覚えている。レイリアも笑顔をむけた。
『ドウイタシマシテ』
レイリアも日本語で俺に話しかけたときだった。
どがん! と音がして、歓声があがった。なんだと思って振りかえったら、酔った顔の男たちが殴り合いをしている。何が原因かはわからないけど、酒場にありそうな光景だな。ほかの男たちが遠巻きにしながら拍手をしていた。ここじゃ、喧嘩は止めないのが礼儀作法なのか。じゃ、俺もおとなしくしていようかなと思って見ていたら、男同士が組みつき、ひとりが投げ飛ばされた。
「きゃあ!」
という黄色い悲鳴があがったのはこの直後だった。投げ飛ばされた男が、給仕をしていた女性店員と激突したのである。男が起きあがり、女性店員に謝るどころか、一発張り手を打っておとなしくさせた。女を殴っただと!?
「おまえ、何すんだ!」
だめだ、見過ごせない。俺は男に怒鳴りつけながら膝をついた。背中のローズを床に下ろしてる最中、俺の脇をすり抜けて、白い細身の影が男たちにむかって走り寄る。
レイリアだ。早口のサーバナイト語で何か叫びながら、女性店員に張り手をくらわした男へ殴りかかる。大振りじゃない。ボクシングのジャブからストレートへ繋ぐ動きに似ていた。あれは、どこかで訓練を受けた動きだな。
「ここで待ってろ」
俺はジャスミンにローズを預け、同じく男たちへ駆け寄った。女風情がでしゃばるな! とかなんとか、たぶん言ってるんだろうけど、ほかの男たちや、さっきの喧嘩の相手までもが何やらわめきながらレイリアに襲いかかる。これは話にならないな。いくらレイリアが訓練を受けていても、多対一なら勝負は見えている。
「ちょっと待ておまえら!」




