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「だって、髪の色や肌の色が違う子供を背負ってるから、だって」
「――ああ、そうか」
俺はうなずいた。ローズは金髪で白い肌。俺は黒髪で黄色い肌だ。それが、そういう目で見られるとは。もう少し、事前に考えておくべきだったかもしれない。
「説明してやってくれ。俺は犯罪者じゃない」
「あ、それは、もう説明したから。というか、もうわかったって言ってるわよ」
「は? なんでだ?」
「あなたが日本人だから、だって。サザエさんって言葉に反応したから」
「あ、それは、まあ、笑って見せたけど。それがなんで」
「日本人は、夏の虫みたいに働いて、妙なところで頭がいいけど、悪いことは考えつかない。だから大丈夫と思ったって言ってるわ」
「――あ、なるほどね。誉められたんだか馬鹿にされたんだかわからないけど、とりあえず光栄だよ」
納得はしたけど、ひどい言われようだな。確かに日本人は悪知恵が働かないことで世界的にも定評があるが。
「○○○○」
考えてる俺の前で、さっきの女性がしゃべりだした。ジャスミンがこっちをむく。
「働いてる日本人はチップも受けとらない。あれはどうしてだって訊いてるわ」
「俺たちは、ああいうのをだされると、かえって困るんだよ。ちゃんと働いた分の金さえもらえたら、それでいいんだ」
「B」
今度は背中からローズが声をかけてきた。首をねじ曲げて振りむくと、眠そうに眼をこすっている。どうも、俺たちのやりとりがうるさくて目を覚ましてしまったらしい。
「ほら、せっかくローズが寝てたのに」
俺が文句をつけたら、即座にジャスミンが通訳して、直後に目の前の女性が軽く膝を曲げて身体を低くした。たぶん、こっちの世界の謝罪のポーズなんだと思う。南北戦争の時代の、貴婦人のあいさつに似てるな、なんて、ちらっと俺は思った。
で、女性があらためて立ちあがって、何かしゃべりだした。
「○○○○」
「悪かった。謝る。私の名前はレイリアだって」
「俺はBと呼んでくれ。ニックネームだ」
で、ジャスミンが通訳。
「○○○○」
「Bの本名を聞いてるわよ」




