38
都を覆う壁を見ながら、俺はため息をついた。三日間、ただ馬車のなかで揺られているのが、これほど退屈だとは。おかげでローズたちエルフの言葉も、ある程度はわかるようになっていた。逆に、ローズも日本語を学習することになったほどである。勉強ってのは暇つぶしだったんだな。いままで知らなかった。スマホも携帯ゲームもない世界っていうのは、こういうときに不便である。
「それにしても、都ってのは厳重な警備をされてるんだな」
俺は馬車から顔をだし、目の前の壁を見あげた。石を組んでつくりあげた、なんとも頑丈そうな壁である。どこかの映画で見たような――少し考え、俺は思いだした。これは城壁と言うのである。俺の目の前にあるのは、都じゃなくて、城下町の一種だったらしい。
「なんだか厳重すぎる気もするけど、巨人の進撃でもあるのか?」
城門まで、俺たち以外の馬車も列をなして並んでいる。歩きの旅人らしいのもずいぶんいた。皆、城門前の兵士と会話をして、それから城下町へ入って行く。
「いつ戦争があるかわからないし、スパイが入ってくる危険もあるからね」
ジャスミンが言い、軽く鞭を撃って馬車を進ませた。しばらくして、俺たちの前の馬車が城下町へ入る。いよいよ俺たちの番だ。
「○○○○!」
「○○○○」
馬車のなかでおとなしくしていたら、ジャスミンと兵士の会話が聞こえてきた、早すぎて、まだ俺には聞きとれない。
「B、中国人? 言ってる」
俺の横にいたローズが、片言の日本語で俺に説明してきた。なるほどな。ま、数の問題で、そうなるのは仕方がない。
「あの、B? ちょっと馬車から降りてくれない?」
考えてる俺に、ジャスミンが声をかけてきた。
「なんだ?」
まさか、日本人というだけでぶっ殺されたりはしないだろうと思いながら、俺は馬車の後部から飛び降りた。そのまま前方にいるジャスミンのほうへ歩こうと思ったら、
「ドラえもん!」
突然、背後からそんな声がした。ドラえもんだと? 訳がわからないまま振りむいたら、そこにも、べつの兵士がいた。忍び足で近づいてたらしい。
「わははははは! ○○○○」
その兵士が、なんでか俺を見て豪快に笑い、早口のサーバナイト語でジャスミンに何か言って、背をむけた。ジャスミンが、ほっとした感じで俺を見る。
「もう大丈夫よ。Bが日本人だってことは証明できたから」




