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そういえば、無茶苦茶長生きする種族だもんな。俺たちの世界の江戸時代と、まったく同じってわけにはいかないようだ。
「私は、これからだって、好きに恋愛ができるんですからね」
むっとした顔のまま、ジャスミンが近づいて俺を見あげた。
「それが、たとえ、エルフじゃなくて、普通の人間でも問題ないだろうし」
「は?」
俺は聞き流すことができなかった。
「ちょっと待ってくれよ。それは問題なんじゃないか? ほら、そういうことすると、子供はハーフエルフになるから」
俺が言ったら、ジャスミンが、なんだという顔をした。
「そういう差別をするなって、昨日、Bが言ったんじゃない?」
「――あ、そうか」
俺は自分の言葉をひっこめることになった。そうか。じゃ、いいのか。前にも都へ行ったことがあると言っていたし、ジャスミンには好きな人間がいるんだろう。
「好きな相手と、うまく行くといいな」
励ますつもりで言ったら、どうしてかジャスミンが苦笑した。
「それはB次第だけど?」
「わかった。じゃ、なるべく協力するから」
とかなんとか話をしていたら、俺の視界の隅で、ローズの両親の表情が変わった。視線もである。俺の背後を見ていた。
振りむくと、マーガレットと、ほかの村の住民が歩いてきていた。
「では、旅立ちですね?」
俺にむかって、笑顔で言う。いよいよだな。俺の第二の人生が、本格的にはじまるらしい。
「ママ、馬車は?」
「村の入口まで誘導しておきました」
言ってマーガレットが背をむけた。ついてこいってことなんだろう。俺とジャスミン、ローズがマーガレットのあとを歩いていくと、開けた場所にでた。なるほど、何かの映画で見たような感じの馬車がある。
ちなみに馬は二頭だった。二馬力だな。かなりの荷物も運べそうである。
「俺、本物の馬って見るのはじめてなんだよな」
なんとなくビビりながら、俺は馬車に近づいた。――ここで気がついたが、馬車のなかには、昨日、俺が振りまわしたナイトゴーレムの大剣が置かれている。確かに、かなりの重量だったからな。懸垂したときよりきつかったから、俺の体重より重いわけだ。我ながら、よく振りまわせたもんだよ。獣化症万歳である。




