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「その、俺たちの日本語を、なんでそこまで自然に話せるんだ? ほかの、中国語や英語やフランス語も、同じレベルでペラペラなのか?」
「いえ、そういうわけでは。ハローくらいなら、なんとか話せますが」
「じゃ、どうして日本語だけ、そこまで上手なんだ?」
「あなた方が一番差別をしなかったからです」
あたりまえのようにマーガレットが言う。――なんとなく、俺は胸を張りたくなった。
「友好的で、温和で、まったく差別をしない民族。それが日本人でした。それで、わたくしたちにも親密に話しかけてくるので、自然の流れで、わたくしたちも日本語を覚えるようになったのです」
「まあ、そういう教育を受けているからな」
俺はニヤリとしたくなるのを抑えながら普通に返事をした。というか、いまだったら、むしろ人間よりもエルフに親密な態度をとる日本人の方が多いだろう。考える俺の前で、マーガレットが話をつづける。
「都でも、報酬さえきちんと払えば、非常によく働く民族として、日本人は高く評価されています。それどころか、忌まわしい混血どもを見かけても、いやな顔ひとつすることなく」
「それはハーフエルフのことを言ってるのか?」
ご機嫌から一転、反射でマーガレットの言葉を遮り、俺は詰問した。マーガレットが、はっという顔をする。
「言ってるんだったら、もう話は平行線だな。今後とも、俺と仲良くしたいとか、俺の力が借りたいなんて思ってるなら、そんな言葉は二度とつかわないでくれ」
「――わかりました」
少ししてマーガレットがうなずいた。
「都でも聞いていました。日本人は、人間よりも、なぜかハーフエルフに紳士的な態度をとると。聞いてはいたのですが、やはり本当だったのですね」
「私も驚いた」
ジャスミンも言葉をつづけた。やっぱりエルフ族ってのは、どうしても、そういうところがあるらしい。
「いいか? ものすごく簡単に説明するけど、そういう外見の差別が戦争を生むんだ。少なくとも、俺のいた世界ではそうだったからな。あんたたち、戦争をして楽しいか? 森が火の海になるんだぞ?」
「とんでもない!」
いままで温和な調子で話していたマーガレットが叫ぶのを、俺ははじめて聞いた。エルフは森を愛する妖精と聞いていたが、なるほどこれは効くな。
「森が火に包まれるなど、あってはならないことです!」




