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「あの、わたくしは途中で名前を変えたのです」


 あわてたようにマーガレットが弁明した。


「Aに会う前、わたくしは、べつの名前で生活していました」

「もちろん、その可能性もあるだろう」


 俺は笑顔のままうなずいてみせた。


「ただ、それでも説明できないことがあるんだよ。具体的に言うと、いままでの会話だな」


 俺はマーガレットの言い訳を受け入れながらも突っこんだ。女性相手に、ちょっと態度が悪かったかもしれないが、これも事実を知るためだ。少し声音に重圧をかける。


「さっきから聞いてれば、セラミクスとか、AI搭載とか、フラグが立つとか、あきらかに俺の時代でしか通用しない言葉がポンポンでてくる。100年前にきたAが言うはずない。あとは、この食事だ」


 俺は、マーガレットと俺をはさんでいるテーブルの上にある料理を指さした。


「この、何かの芋みたいなのと、魚を油でいためたのが一緒に皿に乗ってる奴。これはフィッシュアンドチップスと言って、俺たちの世界では、イギリスで唯一まともに食える代表的な料理だ。それからこっちの」


 俺はべつの皿に乗っている、ふにゃっとした、緑色の野菜を手にとった、口に入れてみる、しょっぱい。ちょっと意外だった。ピクルスだと思ってたんだが。


「これは塩を漬けてもんだな? 俺たちの世界では浅漬けと言う。話を聞きながら食事もしていたんだけど、これはおかしい。ここって、俺たちの文化がとりいれられすぎてるんだよ」


 いったん言葉を区切り、俺はマーガレットを見つめた。マーガレットは無言である。


「再確認しよう。100年前にAがきた。そして現在、Bを名乗る俺がきた。しかし、それだけではない。それ以外にも、かなりの人間がここにきてるはずだ。そして、どういうわけだか、あなた方はそれを俺に隠そうとしている。――どこまであたった?」


 マーガレットは無言のままだった。追い詰めすぎてしまったかな。少し反省し、俺は自分の表情から緊張を解いた


「そんな堅い顔をする必要はないだろう。俺はここで歓迎を受けた。ほかに行くところもないし、ここで、あなた方の期待に応えて生きていくしかない。ただ、信頼関係は必要だからな。隠しごとはなしにしよう。理由を聞かせてはくれないかな」


 少しして、マーガレットがため息をついた。


「いいでしょう。隠していても、いずれは知られることでしょうし」


 マーガレットの視線は下をむいていた。俺の目を見て言えないことなのか。


「確かに、100年前のAと、B以外にも、あなたの世界の人間が、多数、こちらにきています。それでわたくしたちは、あなた方の言葉を知り、文化も知りました。その文化が、気づかないうちに混じっていた可能性もあります。Bはそれを見過ごさなかったのですね」

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