103
「わかった」
メアリーが代表してうなずく。これで問題は、一応の解決を迎えたわけか。俺はほっとした。
「じゃ、ジャスミンたちのところへ戻るぞ。くれぐれも喧嘩はしないようにな――」
俺が言いかけた瞬間だった。
「うわ! なんだこれは!?」
いきなりメアリーが苦悶の表情を浮かべて膝を折った。べつに俺は暴力を働いてはいない。もちろんほかの連中もだ。何かの発作か? 妙に思った俺が周囲に目をむけると、ほかのダークエルフたちも同じような状態になっている。頭を押さえて、何やらぶつぶつ言いだした。
少して、メアリーたちが立ちあがった。もう苦悶の表情からは解放されているが、ずいぶんと疲弊しているように見えた。
「――どうしたんだ?」
訳がわからないまま効いたら、メアリーが自分の額を指さしながらこっちを見た。
「いま、私のなかの、魔力を感じるセンサーをシャットダウンさせたんだ。いきなり、頭がおかしくなりそうな、とんでもなく巨大な魔力を感じたものでな。貴様にはわからないことだと思うが」
「うん、わからない。まあ、なんとなくの想像はつくけど」
たぶん、隣近所の騒音がうるさいので耳栓をした、みたいなことを、魔力の世界でやったんだろう。
「それで、事情はわからないけど、ダークエルフの能力で、ものすごい魔力を感知したってことはわかった。なんだそれは?」
「想像はつく。奴だ。いままで、むこうも魔力を抑えて、この町まで静かに近づいてきたんだろう」
メアリーが深刻な面持ちで俺を見た。
「あの巨大な魔力は間違いない。ドラゴンだ」
ドラゴン。
俺がいた世界でも、神話で、おそらく最強と言われる生物だ。確か、マーガレットの説明によると、巨大な魔力の塊で、その魔力で空を飛び、炎を吐き、あの巨体を維持しているとか。そして、そのドラゴンの脅威から身を守るために、ここの魔導士たちはナイトゴーレムを製造した。
「――は? ちょっと待ってくれ。各地にはナイトゴーレムが配備されているって聞いてるぞ。ドラゴンがここにくるはずが」
「それはたぶん」
「いまの魔力数値、見たか!?」
「メーターが振りきれて火を噴いたぞ! これはただ事じゃない!!」




