【第十六話 覚悟】
僕とロビンはとある街道を早馬に乗って走っていたんだ。馬にはリジェネレーションをかけて走らせると休憩無しで走れるもんで、割と距離を稼げるんだわ。それでも空腹はどうにもならないから、何度か馬の食事休憩を取りながら、ゲルマ伯爵の領地——要塞都市ゲルマルに到着したんだ。
要塞都市というだけあって、城門の検問も厳しかったよ。持ち物も全てリストアップされて、所持金も全てリストアップされるんだ。ゲルマルに入るためにも割と高めの入場税がかかるから、難民とか貧乏人は入れないようになっててね。僕もロビンもお金だけはあるからね、すんなりと入れたわけさ。
ゲルマルの街並みは超都会! まあ、人口密度も高いから街中では馬は歩けないのよ。城門で馬宿に預けなくちゃならないんだよ。もちろん預かり料もかかる。都会では何でもかんでもお金がかかるんだよ。
でも、僕とロビンは老人ホームのお婆さんの使いで、この街にある老人ホームにお届け物を届けに来たという大義名分があるからね。多少の税金は取られるけど、誰からも怪しまれることなく街に溶け込むことができたわけ。
早速、お婆さんの幼なじみだという老婆へ御歳暮の海苔の詰め合わせを手渡してるってわけさ。
「ゴラムルのお婆さんからの御歳暮だよ」
老婆はそれを有難く受け取ると、すぐに箱を開けて二重底になってる部分も開けて、中に入ってる金貨を確認してニヤリと微笑んだんだ。
「二日後なら街外れの古井戸から難なく入れるよ。二日後は屋敷で乱行パーティがあるからね。マスカレードでもして行けば怪しまれないさ」
こっちの老人ホームの老婆もなんでも知ってたよ。これが、俗に言う年の功ってやつなんだなぁ〜と感心したよね。
そして、二日後。
僕は古井戸の避難口から領主の屋敷に難なく潜入出来たんだ。この街はゲルマの息子のゾルマが代官をしているのさ。僕のターゲットはそのゾルマ。ゾルマ自身にはなんのムカつきも感じてないけど、ゲルマには近づけないんだから仕方ないよね。こちらも領主をとられてるんだし、おあいこだろ? ゾルマという代官をとって初めておあいこなんだよな。
僕は早速、乱行パーティーで乱れまくってる屋敷内を探したよ。すぐにゾルマは見つかった。大勢の美女を囲ってたからすぐにわかった。僕はゾルマに近づいた。急に男の僕が近づいたら、普通は警戒するだろ? ところがゾルマは男もいける口だったのか、僕を見て手招きしてくれたのさ。だから、僕は簡単にゾルマの膝の上に乗ることが出来たってわけ。そして、僕はゾルマに耳打ちをしたのさ。
「二人きりになれませんか?」
ってね。そしたら、ゾルマは鼻息を荒くして僕をお姫様抱っこに抱えあげて密室へと飛び込んでくれたのさ。僕をベッドに荒々しく放り投げて覆いかぶさってきたからさ、僕は出刃でゾルマの心臓を一突き。すぐにゾルマは絶命したよ。
僕は悠々と避難口から出てくるとロビンがランタンを持って待っていてくれてさ。
「流石だぜ。相変わらず人を殺すことに特化してるな」
「まあね、僕の唯一の特技だしね。さあ、やる事やったし、さっさと帰ろうか!」
「ゲルマのリアクションが見れねぇのが残念だぜ」
「いや、ゲルマ程のドロドロの貴族社会で生きてきたゲルマなら、ノーリアクションだと思うよ? ただ、今の自分がターゲットになってるって事を自覚するだけさ。たった五十人で籠城する事しか出来ないゲルマは息子の死を聞いて、息子の死の事よりも自分の事を真っ先に考えるはずなんだよ」
「そうか、それはかなり美味そうな魂が採れそうだぜ!」
僕とロビンはゾルマ殺害が発覚する前の深夜のうちに街を出たのさ。
自宅に帰ってくると、領主の屋敷の包囲網に変化があったんだ。
ゲルマ側は最初からたったの五十人しかいなかったんだけど、勇者がいたから憲兵も手を出せずにいたんだよ。僕とロビンが留守中に、その最大戦力である勇者が憲兵に宣言したんだって。
『自分は中立の立場から、ゲルマ殺害は許さない』
ってね。はぁ? それってゲルマの味方をしてるじゃんね? 勇者は常に中立なのよ。本来ならクローバー伯爵の殺害も許しちゃいけなかったんだよ。でも、クローバー伯爵は殺害されたわけさ。クローバー伯爵だけじゃなく、長男も次男も殺されたのよ。
なんか、変だな? って思ったからさ、僕は老人ホームのお婆さんに聞きに行ったのさ。また、銀貨を沢山持ってね。
「勇者がゲルマに肩入れしてるようにしか見えないんだけど?」
「勇者とて金がなくちゃ生きていけないだろ? ゲルマ派閥は勇者の最大のスポンサーなんだよ。腹の中じゃ勇者が一番、ゲルマの事を煩わしいと思ってるのかもしれないよ?」
「なるほど。それなら、いざとなったら勇者はゲルマを守らないかもしれないですね……」
「まあ、アンタならゲルマを殺せるんだろ? 期待してるよ! 早くモニカお嬢さんを助けてやっておくれ」
「はい。まだ生きていれば、助けますよ……まだ、生きていればね……」
僕は、あの小生意気なワガママ娘が生きてるわけないと思ってるわけ。三男や四男みたいにゲルマへの忠誠を誓うような女の子じゃないんだよ、あの子は。全ての発言で他人を怒らせる天才なんだもん。ゲルマ相手にも容赦なく「気持ち悪っ!」って言ってるはずだもんね……。
さてと、さっさとゲルマを終わらせに行こうかな? 勇者が邪魔だけど、それは何とかなりそうだしさ。
「さあ、ロビン。久しぶりの黒いローブと鎌を君に返すよ!」
ロビンは久しぶりに死神衣装を纏って、大きくて不気味な鎌を担ぎ上げたんだ。
「ケケケ、やっぱり俺はこうじゃなくちゃな!」
「うん! マジで死神らしいよ! 本当に美しい。死の象徴だね!」
僕とロビンは街の共同墓所へ来ていたんだ。僕はその不特定多数の墓に向かって唱えたわけさ。
「リザレクション!」
かつてヤンキーBが白骨のまま生き返ったように、多くの白骨化した骨が地面の中から次々と這い出てきたんだ。ざっと三十体の白骨死体の軍勢の出来上がりだね。
そんな白骨傀儡に向かって、僕は命令を出したんだ。
『ロビンを守って勇者を殺せ』
ロビンは白骨傀儡と共に領主の屋敷へと歩き出した。三十体の白骨死体に護られながら、死神が歩いている光景は不気味そのものだったよ。やがて、ロビンが屋敷の包囲網へたどり着くと、憲兵達は恐れおののき道を開けたんだ。誰もアンデッドの軍勢とは戦いたくないわけさ。ロビンは難なく屋敷の門を通過できたんだ。ゲルマの兵隊も恐れおののき、完全に怯んでたんだよ。
だから、勇者が先頭に出てきたのさ。
さすがの勇者もアンデッドの軍勢を見たのは初めてだったようで、ボスキャラのロビンに何やら交渉を始めたらしいよ。このことは後日、ロビンから聞いた話だね。僕はこの時、既に避難口から屋敷内に潜入してたから、勇者とロビンの駆け引きを見れなかったのさ。
勇者はロビンに対して、勇者は光属性だから白骨傀儡達を浄化できるんだと宣言したそうなのさ。ロビンは怪しくほくそ笑んで「やってみよ!」とカッコつけたんだって。
まあ、勇者=光属性ってのはお婆さんから教えてもらってたしね。今さら、僕もロビンも驚かないわけ。んでもって、当然、勇者は光属性の浄化魔法を白骨傀儡に唱えたんだってさ。でもね、僕も馬鹿じゃないからさ。白骨傀儡とロビンにはリフレクトを掛けておいたんだよ。
まあ、当たり前だよな。
浄化魔法は白骨傀儡を浄化することなく反射したみたいだね。炎とか氷とか電撃で普通に攻撃してくれれば熱や寒さや電流を食らったのかもしれないけど、浄化魔法はただ眩しいだけだったから、ほぼノーダメージ。ロビンは不気味にケケケと笑ってやったんだってさ。
勇者の浄化魔法がノーダメージだったことは勇者だけじゃなくゲルマの兵士にも戦慄で、涙目の兵士も多かったみたいだね。んでもって、白骨傀儡はと言うと、ロビンを護りつつ勇者に攻撃をしようとするわけさ。当たらないけどね。勇者は浄化魔法が効かなかったことで完全にアンデッド兵を強敵認定してしまったから、かなり距離を取り白骨傀儡のただの物理攻撃を必死に交わしてたんだって。
白骨傀儡の物理攻撃なんて子供が殴る程度の力しか無いんだぜ? ダサすぎるだろ?
そんな滑稽な勇者を見ながらロビンは最初から最後までケケケと笑っていたそうだ。
一方、僕はと言うと屋敷内の兵士を次々と殺していったのよ。
本来なら、ゲルマだけ殺すつもりだったんだけどさ、屋敷内でムカつくものを見てしまったんだわ。
屋敷のロビーの一角に、物置くらいの大きさの氷の部屋が鎮座してたのよ。その氷の部屋を作っていたのは、雪ん子のお雪だったんだ。
中にはモニカがいるみたい。
その氷の部屋をこじ開けようと、兵士達が氷をガンガンと壊そうとしてたんだよ。
お雪は——意地でもその氷の部屋を守ろうとしていたんだ。
小さな身体で、兵士から殴られようと、蹴られようとも、その場を一歩も動かなかったんだよ。自分には薄い氷の結界だけ張って、ただひたすらそこに立って、モニカを守り続けてたんだ。
どれだけの時間、そうしてたんだろうな。
足元には溶けかけた氷の破片が散らばっていて、お雪の小さな足は震えていたよ。でも、倒れなかった。蹴られても、突き飛ばされても、倒れなかったんだ。
僕がそんなお雪を殴っていた兵士達を背後からアイスピックで次々と刺していくと、お雪はようやく僕の存在に気づいたんだよ。疲れ果てた顔でこちらを見て——それでもニコッと笑ったんだ。
その笑顔を最後に、お雪はそのまま静かに崩れ落ちたんだ。魔力切れだよ。
お雪が気を失った瞬間に、氷の部屋は音を立てて崩壊した。中にいたモニカは寒さで震えていたけど、無事だったんだ。
僕は二人にリフレッシュとリカバリーを重ねがけしてあげたよ。倒れたお雪を抱き上げると、本当に軽くてさ。こんなに小さい身体でずっと戦ってたんだなぁ、と思ったら、何とも言えない気持ちになったよ。
「なんでもっと早く助けに来ないのよ! お雪があと少しで死ぬところだったじゃないの!」
モニカの相変わらずの口調を聞いて、僕も安心したよ。
「遅れてすいません。モニカ様」
「なんなのよ! 私の方が年下なんだからモニカでいいわよ! いつもいつも様なんて付けて気持ち悪っ!」
「わかったよ、モニカ。あと少しだけ待っててくれ。最後の仕上げをしなくちゃならないからね。屋敷内の兵士は全員殺してきたから、お雪とここで待っててくれるかい?」
「ダメよ。ゲルマは私が殺るわ。貴方のそれを貸してちょうだい」
僕はモニカにアイスピックを手渡して、お雪を抱き抱えてからモニカにリジェネレーションを唱えてあげた。そして、領主の部屋の扉をモニカが勢いよく開けると、ゲルマが大人しく椅子に座って待っていたんだ。
「ゲルマ!」
モニカはそれだけ言って、ゲルマの元へツカツカと歩み寄りアイスピックをゲルマの喉元に押し当てたんだ。
これを見て僕は、嗚呼、ダメだなって思ったよ。殺しの前に躊躇うやつは、人を殺せない。首元に押し当てるまでが彼女の限界なんだ。僕はそんなハッタリを今まで沢山見てきたからね。人を殺せるやつはそこで止まらない。そこで止まるやつは、そこらのヤンキーと一緒。胸ぐらを掴んで終わるんだ。殴りもしないのがヤンキーの限界。決して手を出さないんだ。捕まりたくないから、手を汚したくないから、就職できなくなるから、親兄弟に迷惑をかけるから、断末魔が耳から離れなくなるから——色んな理由で人を殺せない奴らは、いつもそこで止まるのさ。
モニカも普段はあんなに憎たらしい言葉を話してる割に、土壇場ではやっぱり止まった。ゲルマもそれを知っていたのさ。
「ようやく氷の中から出てきたかと思えば、やはり、貴様には貴族社会では生きていけんな!」
「うるさい! この状況で偉そうなこと言わないで! 気持ち悪っ! 本当に殺すわよ!」
「やってみろ! 本当に貴様に殺せるのか? そんな細い針のような武器で本当に人が死ぬのか?」
モニカは必死でゲルマの喉にアイスピックを突き刺そうと頑張ったんだけど、ボロボロと泣き出して無理だったんだ。な? そこらのヤンキーと一緒だろ? 胸ぐらの掴み合いしかできないもんなんだよ。
だから、僕が出刃でゲルマの脳天に突き刺したんだ。ゲルマは即死したよ。
僕は領主の部屋の窓からロビンに指笛で合図を送ったんだ。すると、ロビンは速やかに白骨傀儡を置き去りにして一人だけ逃げ出したんだ。白骨傀儡は勇者を殺せという命令の元、延々と物理攻撃を仕掛けていたよ。
僕も速やかに撤退したんだ。一応、お雪とモニカを両肩に担いでさ、エッホエッホと逃げたんだ。二人ともまともに走れるような感じには見えなかったからね。
ほとぼりが冷めるまで、モニカとお雪を老人ホームのお婆さんに預けてから、僕とロビンは自宅に帰ってきたんだ。
「お疲れ様。死神」
「本当に疲れたぜ。勇者の浄化にはマジでビビった。ビビった! でも、リフレクトのお陰でただ眩しいだけのなんの痛みもないアホ丸出しの魔法だったぜ! 俺は笑いが止まらなかったぜ!」
「あの名も無き白骨さん達にも後でちゃんとお供えしなくちゃね。本当にいい仕事をしてくれたよ」
「ゲルマを殺したあとのこの街はどうなるんだろうな……。俺の憲兵の仕事はなくなるよな?」
「まあ、それも次の領主次第だろ? たぶん、大丈夫だとは思うけどね」
僕とロビンは夜中までこの街の今後について議論を交わしていたんだ。
ふと、さっきのお雪の笑顔を思い出したよ。殴られても蹴られても、倒れるその瞬間まで笑ってたあの子のことをさ。
あんな小さな身体で、誰かを守れるんだな。
僕もロビンもこの街が好きなんだなぁとシミジミ感じた夜だったよ。
【第十七話へ続く】




