第二十六話 秋の森再訪への遠い道 ~資金不足の対策を考察する~
秋の森への旅程は、一度経験したおかげで、ある程度計算できるようになっていた。
かかる日数、危険箇所、必要な装備の目安もだいたい把握できた。
季節が夏から秋に移り変わる頃合いも考慮すれば、装備の調整も難しくはない。
問題は、ただ一つ。予算だ。
前回の反省を活かし、保存食や予備の水筒、簡単な野営具などをしっかり買い込んだ結果、手持ちの金はあっという間に底を突いた。
次には、いつあるかわからない護衛依頼を待つのではなく、自費でしっかり準備をして行くつもりだ。
パーティのみんなに護衛料を払う形になるだろうが、それでも構わない。
自分から動ける状態にしておきたい。
でもそのためには予算が必要……
「ラセリア、今日はダンジョンは?」
酒場で杯を傾けていたラセリアは、顔をしかめて手をひらひらさせた。
「トンネルが崩落したらしい。Aクラスパーティが調査に行ってるけど、それが終わるまで何日か閉鎖だってさ」
ドルガンが不機嫌そうに、木製のジョッキを置いた。
「当分、貯金を切り崩す生活になるな……」
ミランダも小さくため息をつく。
「占いのアルバイトでもしようかしらね」
「占い、できるの?」
リリーシャが珍しく身を乗り出す。
「まあ、嗜み程度にはね。恋愛運でも観てさしあげましょうか?」
「れっ……!」
リリーシャの顔が一瞬で真っ赤になり、両手をぶるぶる震わせながら慌てて拒否のポーズを取った。
何を慌ててるんだか。なんだか可愛いけど。
しかたない、ここは……
「……実は俺も、少しできますよ、占い。」
「えっ!?」
一同の視線が俺に集まった。
いつも冷静なヤミカまで、わずかに目を見開いている。
リリーシャへの助け舟になったろうか。
「師僧から教わった宿曜経や三元九星です。」
ミランダが興味深そうに食いついてきた。
「へえ……フート教にもそんなのがあるのね」
ドルガンが続ける。
「ウチの宗派では聞かないな。いわゆる密教ってやつか?」
「ええ、まあ。と言っても基礎知識だけです
本格的な占いの修行はしていませんから、期待はしないでください」
ミランダが意味ありげに言う。
「ふふ、二人で占いのお店を開こうかと思ったんだけど、
初級者と初心者じゃカッコつかないわね」
からかってくるような彼女に、その手はくわじと冗談で返す。
「ハハハッ、残念ですね」
と愛想笑い。するとリリーシャが。
「……へー。残念なんだ?」
と、ジョッキの果汁をすすりながら尖ったトーンの声で。
……冗談に決まってるだろ、なにマジにツッコんでんだ?
対応に困っていると今度はラセリアから助け舟。
「なんなら、私と組んで商売しないかい?」
「どんな商売を?」
「広場で棒杭を立てて、お前を縛り付ける。
頭の上に果物を載せて、銅貨1枚で弓矢や手裏剣を射ってもらう。
果実に当たったら5枚お返し……どうだ?」
「危険が危ない! 俺に当たったら危険が危ない!」
「南無ラトナ仏……」
ドルガンが絶妙なタイミングで合掌した。
すると、リリーシャの機嫌が急に上向いたような声が飛んできた。
「それ、あたしも射ちたい!」
「リリーシャ……」
おまえ、助けてやったのに恩を仇で返すのか……?
俺、彼女に何か恨みでも買ってるんだろうか?
ミランダが意味ありげにクスクス、
ミルカもナッツをかじりながら考え事でもしてるように
俺とリリーシャを見比べてる。
ドルガンは
「リリーシャには弓のスキル、あったっけか?」
リリーシャは笑顔で首を横に振る。
「リリーシャ、そんなに俺をお浄土へ送りたいの?」
何とか冗談でオチをつけようと言ってみたが、
彼女は急に不機嫌そうな顔になり
「女ったらしの破戒坊主は地獄落ちに決まってるでしょ」
「身におぼえ無いんだけど……」
一同がまた大笑い。
なんなんだよ……ミルナのことか?
「じゃあひとつ、提案」
ミランダが笑いながらも切り出す。
「漫才、なんかどう?」
「漫才?」
「そう。若いのとリリーシャでコントやって、投げ銭を集めるの」
「俺と、リリーシャで?」
おもわずリリーシャと目が合った。
彼女の頭上にも「?」の文字が浮かんでるみたいに見える
ラセリアが、ポロッと言う。
「……ああ、夫婦漫才か」
また大爆笑。
「ちょ、ちょっと待ってください。なんで夫婦?」
俺も驚いたがリリーシャも混乱し手板。
顔を真っ赤にし、意味不明な挙動で両手を振り回してる。
「自覚なし、かよ!」
ラセリアがさらに膝を叩いて大笑い。
笑いが収まってくるとミランダが呟く。
「まあ、マジなこと言えば
お坊さんだし、戒律で結婚は無理よね?」
「え……」
リリーシャの謎反応に、すかさず俺が
「あ、正式な出家はしてないから、不可能ではありません」
と答える。
するとと、ヤミカがミランダに何か耳打ちした。
「ああ、それでね」
ミランダは納得した風だ。
「???」
意味が解らず俺が困っていると、
今度はミランダが俺に耳打ちしてきた。
「憶えてないと思うけどね、若いの。
あんたが寝言で『験の巫女』様にプロポーズしてるのを
聞いたことあるんだって、ヤミカが」
今度は俺が目を白黒、顔を赤青。
「なに? どうしたの?」
リリーシャが身を乗り出す。
「私にも教えてよ」
「あんたは知らないほうがいい。
世界の平和のために」
めずらしくヤミカも目が笑っている。
「冗談はともかく」
ここでラセリアが話題を変えてくれた。
助けてくれた恩はいつか返さなきゃな。
「当分はダンジョンが使えない以上、何か別の稼ぎを考えないとね」
俺は静かに頷いた。
生きのびること。
それがすべての前提だ。
秋の森再訪という目的を達成するためにも、
まずは資金を稼ぎ、生きのびられるようにしなければならない。
酒場の喧騒の中で、俺は改めて覚悟を固めた。
(第二十六話・了)




