十五話
放課後、結ノ介と翠と夜子は、屋上に集まっていた。
夜子が切り出す。
「そろそろ、ミスコン当日の衣装と自己PR決めないとね」
結ノ介は軽く頷き、
「衣装とPRか、重要な問題だな。写真は制服だったけど、コンテスト当日の衣装は各々が誂えるんだよな。衣装って普通どんなのなんだ?」
「基本的には何でもいいんだよ。あ、でも過度な露出とか、過激なものはダメ。あくまで学生らしくね」
そりゃそうか、と納得する。
「扇情的だったり、グロテスクだったりするものはダメってことだな」
翠に視線を移し、どんな格好が似合うだろうかと何気なく考える。
すると、翠は両手で体を隠すようにして、
「あなた、……その、えっちなこと考えてなかった?」
「は? 考えてねーよ」
「うそ、いやらしい目で見てた」
「いやいや、見てないって、自意識過剰だ」
灰半の前で、なんてこと言うんだ。
「見てたじゃない」
「どんな衣装がいいかなって考えてたんだよ。冤罪だ」
夜子が仲裁に入る。
「もう翠ったらダメでしょ。五野くんは年頃の男の子なんだから、そういうことだって考えるよ。それが当たり前なんだから」
結ノ介が「そこをフォローするの?」と慌てると、翠は釈然としないながらも、
「夜子ちゃんがそう言うなら……、あなたが妄想してたことを許すわ」
「おいおい、事実が捻じ曲げられてるぞ。俺は妄想を許してほしくて怒ってたんじゃない。そもそも妄想してないんだよ」
「でも、夜子ちゃんが妄想されるなんて、私耐えられないよ」
「俺は別に……!」
言葉に詰まる。
夜子で妄想なんて、もう数えきれないくらいしている。
「やっぱり妄想してたんじゃない」
「だから違うって、」
と抗うが、もはや何の説得力もない。
勝機がなくなったため、話を戻す。
「PRって、具体的には何がいいんだろ」
夜子が答える。
「簡単な自己紹介とアピールする時間が与えられるの。持ち時間は前にも言ったけど一人五分、特技とかが多いかな。学校のホームページに少しだけ去年のミスコンの写真があって、それを見た感じだけど。PRも危険だったり、公序良俗に反していたりするとダメ」
「衣装もそうだけど、過度な露出とか過激、危険なものって、判断基準が難しくないか」
「ミスコンの委員会の人皆で話し合われるんだよ。二週間前までに衣装とPRですることを写真と書類で委員会に提出して、それから会議で話し合われるんだと思う。そこで引っかかった人は、委員会から連絡があって、再度考え直さなきゃいけない」
「二週間前には衣装は考えるだけじゃなく、用意しとかないといけないわけか」
どちらかというとそっちを優先しないといけない。
「クラブやってる子は、どっちも決まりやすいかもね」
「見てる方も分かりやすいしな。黒凍は帰宅部だよな。何か人前でできる特技ある? 例えば習い事とか」
思い当らないのか、長い時間考え込んでいる。
それからようやく、
「……一発芸みたいなものなら。校長先生の『えー』っていう口癖の真似」
「学校で一番偉い人をイジるんじゃないよ」
「じゃあ日本史の先生が近代の話をするときに、ちょっとだけテンションが上がる瞬間」
「誰が分かるんだよ」
ダメだ、独特過ぎると、結ノ介は嘆息し、
「他の参加者が何やるか気になるよな。聞いたら教えてくれるかな」
夜子は少し難しそうな顔をする。
「人によるかも知れないね。教えてくれる人もいるだろうけど、皆基本的には敵同士だから教えないかも」
「敵に塩を送るような真似はしないか。でも、できれば被るのは避けたいし」
被った時点で、後の方が二番煎じの様相を呈する。
「PRの順番ってどうなるんだ?」
「抽選会があるの、一週間前だったと思う」
抽選ばっかりはどうにもならない。運次第だ。
「過去の資料とかないのかな」
「委員会室とかに保管してるかも。皆で行ってみる?」
「そうだな。ここでこうしてても仕方ないし、そうするか」
夜子の提案に、結ノ介と翠は首肯した。
三人でミスコンの委員会室に行く。
生徒会室の隣にあり、結ノ介とは普段縁のない場所だ。
何となく少し緊張する。
翠はかなり緊張しているようだが、夜子は来たことがあるようだった。
「この辺りに来たことあるみたいだな」
「クラス委員会が、この階の大教室で行われるから」
「そうなのか。その委員会って頻繁にあるの?」
「一週間に一回だよ」
「大変そうだな」
「全然そんなことないよ」
目的地に着き、結ノ介がノックすると、中から「はい」という声が聞こえた。
パタパタという足音が近づいてきて、ドアが開く。
おとなしそうな女の子が、顔を出した。
夜子が自己紹介をし、
「過去の資料を見せてもらえませんか」
「少々お待ちください」
と、片側の壁に設置されたステンレスの棚に駆け寄った。
いろいろな色のファイルや大きな茶封筒が並んでいる。
資料や必要書類が、まとめられているようだ。
他に誰もおらず、彼女一人のようだ。
室内は狭く、隅にたくさんの段ボールが積まれている。
その段ボールから何かの飾りや、用途がよく分からないものが雑多に溢れている。
とにかく物が多く、また雑然としているせいか圧迫感を覚える。
倉庫という印象だ。
委員の女の子は、随分手間取っている。
「すいません。私一年で、まだここのことを把握仕切れてないんです」
彼女はもう一度、すいませんと謝った。
結ノ介は「全然いいよ、ゆっくり探してよ」と言い、夜子も、
「無理を言っているのはこちらですから。どうか気にしないで下さい」
翠も頷くと、委員の女の子は頭を下げた。
「でも一人で大変だね。上級生の人とかは来ないの?」
「時間を決めて、委員が持ち回りで業務の当番をしているんです。放課後は皆さんやはり忙しいですし、業務と言っても必要種類を受理したり、質問に回答したりするくらいなので。扱いきれない問題の場合は、一旦預かって会議になります。あ、ありました」
ようやく、過去の資料を見つけた。
ファイリングされていて、十冊ほどある。
資料は過去十年分のミスコンの氏名の一覧、出場者の学年、順位、獲得票数、他にはタイムテーブルもある。
肝心の衣装とPRについても書かれていた。
不許可のものも書かれていて、再考し、許可されたものが横に書かれている。
「どうですか? 役に立ちそうですか」
「うん、ありがとう」
結ノ介と夜子はお礼を言ったが、翠はあまり喜んでいないようだった。
「どうした?」
翠はおずおずと委員の女の子を見て、
「資料ってこれだけですか?」
「そうですけど、もしかして不十分ですか?」
結ノ介はわずかに、眉をひそめた。
「これだけあれば、充分だろ」
「そうね。これより前のものはないのかなって、思っただけだから」
翠はそう言ったが、何か心残りがあるようだった。
ここにあるのは過去十年分の資料で、翠はそれ以前の資料のことを言っているらしい。
委員の女の子は申し訳なさそうに、
「もう少しお時間いただけますか、探してみますね」
再び資料を探し始めた。
夜子は資料に目を通しながら、
「これって持ち帰ったり、コピーしたりできるんですか?」
「それはちょっと……、私の一存では。他に見たい人がいるかもしれませんし」
「そうですか。無理言って、ごめんなさい」
夜子はにこやかに謝った。
三人で、必要に応じてメモをとり、資料をチェックしていく。
衣装はやはり、ドレスが多い。
明るい色で瀟洒なものだ。
仮装大会のようなものもあるが、結果を見ると奇をてらうのは、良くないようだ。
その他にも衣装はさまざまで、市販と自作に関わらず、自由度の高さが窺える。
中には、ウエディングドレスもあった。
お金はあまりかけられないから、大規模なアパレルショップで多くの種類を見て、金銭的に見合うもので、かつデザインも良さそうなものを選ぶことにする。
PRは分かりやすいものが、好まれるようだった。
特にダンスやお芝居など、見栄えがするものが良いらしい。
マニアックなものや、地味なものは評価されにくそうだ。
その後結局、ここにあるもの以上の資料は見つからなかった。
「すみません、お役にたてなくて」
「いやいや、手間かけさせちゃって、ごめんね」
「そんなとんでもないです、本当にすみません。資料は責任を持って探しておきます」
翠はお礼を言うが、依然として浮かない顔だ。
「そんなに古い資料が見たいのか?」
「そういうわけじゃないけど、」
「歯切れが悪いな。何だよ、考えてることがあるなら教えてくれよ」
翠はなかなか切り出さない。
「何でもないの。本当に、気にしないで」
追及しようとして、結ノ介はやめた。
自分だって、黒凍に言ってないことがあるだろ。
委員の子は夜子を見て、
「ミスコン、頑張って下さい」
作業の不慣れさから、出場者の把握もしていないと考えられる。
出場者同士が仲良くしているとは考えにくいから、片方は付き添いだと思ったのだろう。
結ノ介が小声で「気にするなよ」と言うと、翠は「だいじょうぶ」と笑った。
三人はお礼を言って、委員会室を後にする。
歩きながら夜子が、
「衣装のことなんだけど、明日三人で見に行かない? 大きなショッピングモールに行けば洋服屋さんがあるし、衣装になりそうなものあるんじゃないかな」
結ノ介は首肯によって快諾を示したが、翠は「そうだね……」と力なく頷いた。




