新たな始まり (さくら視点)
あーもう何なのよ。
どうなってるのよ!
どうして私じゃなくてあの女なの?
ありえない、ありえない、ありえない!!!
もうめちゃくちゃじゃない!
ビルの屋上から飛び降り、真っ逆さまに落ちていく中、強いビル風が吹くと、体がフワッと浮きホテルのベルコニーへと運ばれる。
まるで私を助けるように風が動き、怪我一つなく着地すると、私は憤慨しながらホテルの一室を出て外へ向かった。
この世界で私と彩華は死なない、いえ死ねない。
現に彩華だって首を絞めても死ななかった。
それが分かっていたからこそ、あの高層階から飛び降りられたの。
今日は彼と出会う貴重なシーンだったのに。
パーティーに誘われないから来てみれば、まさか彩華がパートナーとして参加しているなんて。
そこは私の場所だったはずなのに。
私と誠也様との運命的な出会いを果たすはずだったのに!!!
壇上に立つ彩華の姿が頭を過ると、地団駄を踏んだ。
何の為にここまでやってきたと思っているのよ。
全ては誠也様と出会う為。
興味のない彼らに近づいて、最低限の条件はクリアしたはずだったのに……。
彩華の予測不能な行動のせいで、歯車が狂ってしまった。
どこから間違ったのか、それを見つけ出せない。
だけど私は彼に会うために、彼との未来のためにやってきたの。
今更後戻りはできない、できないのよ――――――――
だけど今回ばかりは少し派手に暴れすぎたわね。
暫くは大人しくしておかないと。
冬休みが明けても、あの学園に戻ることは出来ないだろう。
まぁ~必要なことはやり終えているから問題ないけれど。
エレベーターに乗り込み1のボタンを押すと扉が閉まりゆっくりと下りて行く。
音と共に扉が開き歩き始めると、ホテルの従業員たちが慌ただしく走りまわっている。
そんな彼らを横目に、私は一人波に逆らうように出口へ向かった。
そのまま何食わぬ顔で扉を開けると、外にはパトカーと救急車が集まっている。
騒ぎを聞きつけた野次馬どもが道を塞ぎ、辺りはごったがえしていた。
スマホを片手に写真を撮る人々、騒ぎを聞きつけてやってきたマスコミ。
彼らの視覚になるよう身を隠すと、ざわざわと騒ぐ野次馬どもの声が聞こえた。
(なになに、なんの騒ぎ?)
(誰か飛び降りたらしいぜ)
(え~怖い……自殺かな、事件とか……?)
ホテルの周辺には[KEEP OUT]と書かれたテープが張られている。
サイレンの音と赤いランプが渦巻く様を眺めながら、私は人が少ないだろう裏手へと足を進めた。
「君、ちょっと待ってくれるかな?今ホテルから出てきたよね?」
腕を掴まれ振り返ると、そこには警察官の姿。
彼は空いている手で警察帽を上げると、困った表情でこちらを見下ろした。
「悪いが、ここで事件があってね、ホテルからの出入りは禁止されているんだ。関係ないのかもしれないけれど、戻ってくれるかい?」
私はスッと警察官を見据え、体の向きを変えゆっくりと口を開く。
「その手を離して戻りなさい。振り返らずにね、私に会ったことは忘れるのよ」
じっと目を見つめると、警察官の瞳がじわじわと赤く染まっていく。
すると彼は掴んでいた手をサッと離し、無言のままホテルの入り口へと戻って行った。
モブは簡単に操れるから楽だわ。
この力があれば、捕まる事なんてありえない。
さてと……誠也様には別の方法で近づくしかない。
チャンスはまだある、だけど貴重な出会いを潰した罪は重いわ。
あの子が一番傷つく方法で、この舞台から消えてもらいましょう。
このまま野放しにしておくと、何をしでかすかわからないしね。
そのためには彼の力が必要だわ。
テープを潜りそっと街路時へ出ると、私はカバンからスマホを取り出し電話帳を開く。
一番上に出てくる名前をタップすると、耳へ押し当てた。
プルルルル、プルルルル、プルッ。
「もしもしお久しぶりですぅ~。彩華について良い情報があるんですよ、こっちへ戻ってきませんか?」
「突然何かと思えば……何だか怖いな、君からそんな話を振ってくるなんて。何か裏でもあるのかな?」
「ふふふ~安心して下さい、裏なんてないですよ~!あっ、でも準備にちょっと時間かかっちゃうんで、二週間後ぐらいに戻ってきてください。始業式の当日が理想です!」
短い沈黙が続くと、息を吸い込む音が耳に響いた。
「ふぅ……また急だね。何を企んでいるのか知らないけれど、まぁいいよ、何とかしよう」
「やったぁ~!きっと欲しい物が手に入りますよ。ふふふっ、じゃぁまたメッセージ送りますね。それじゃぁ」
あははは、これでバッリチだわ。
彩華が一番傷つく方法は、今日見せてもらった。
後は実行に移すだけね。
さぁ~明日から忙しくなるわぁ~ルンルンルン~♪
大人しくする前に最後の大仕事、あはははは。
気づく彩華の顔が早く見たいわ~。
私はスマホをカバンへ片付けると、軽い足取りで繁華街を歩いて行った。