「あいつに任せろ!」その3
ユーマたちに襲いかかる魔物の群を、セリーヌがたった一人で撃破していく。青年たちが剣を抜き身構える間に、敵の大半が倒されてしまうのだ。
迷宮四階の強敵、ダークホビットの集団相手にも、セリーヌは単独で突貫した。
軽装なエリーよりも素早く敵に肉薄し、聖剣に光の魔法力を込めて放射しながら切り払う。魔法剣士の上級技を、セリーヌは惜しげもなく使った。
彼女が討ち漏らした敵を、ユーマとエリーがおこぼれを狙うハイエナのように、ちまちま倒す。
セリーヌが剣を鞘に収めた。
「あとはお任せいたしますわ」
「おう! 任せろ!」
良い返事のユーマと裏腹にエリーは終始、不機嫌そうだった。
返事をして敵から視線を外した拍子に、ユーマがダークホビットに殴られる。
「痛ッ! このやろおおおおお!」
「うっかりしすぎよユーマくん」
すかさずシエンがユーマに回復魔法を使おう……と、したところで、ユーマの体力が全快した。
セリーヌが投げキッスをして、ユーマの傷を癒やしたのだ。
「わたくし、キスのモーションで単体上級回復魔法を使うことにしてますの。ウィンクには石化や毒を治す力がありましてよ」
シエンが掲げた錫杖を降ろしてぽつりと呟いた。
「悪趣味ね。まったく……」
回復したユーマはダークホビットを倒すと、セリーヌに向き直って手を振った。
「ありがとーな! 助かった」
「ユーマさんって子犬みたいで、素直で可愛いですわ。あのみすぼらしい格好を綺麗に整えてあげれば、もっと素敵になりますのに。はぁん……洗ってさしあげたくてよ」
その一言に、デモダッテがほおを膨らませた。
「……ユーマって、ボクよりも可愛い?」
「ええ。そうですわね」
「……ショックかも。ボクの取り柄って、可愛さだけだから」
「そういう性格が、あんまり可愛くありませんわ」
「……うう」
半べそをかいて、デモダッテがエリーとシエンに合流した。
三人で小さな円陣を組み、ひそひそと声を殺して話し合う。
「なによなによなんなのよあの女! さっきのもわざと討ち漏らしたわよ!」
顔を真っ赤にさせたエリーに、シエンが同意して頷く。
「しかも、わざとダークホビットにユーマくんを殴らせて、投げキッスしたり色目をつかったり、最悪ね。ああいうのを悪女っていうんだわ」
デモダッテも、うんうんと首を縦に振った。
「……ボクの可愛さを理解してくれないなんて、あり得ない」
遠くでユーマが三人を手招きした。
「おーい! 行くぞみんな!」
そんなユーマの腕をセリーヌがとって組むと、並んで歩く。
「行きますわよユーマさん」
「三人とはぐれるのはまずいって」
「少し距離をとって、あとから来ていただけばいいですわ。三人は秘密兵器として温存しておきましょう。怠惰の王まで、わたくしが雑魚どもを蹴散らしてさしあげますから」
「うーん、温存……そういう考え方もあるのか」
「大元帥の指揮能力を持つわたくしが、それがベストだと申し上げているのに、お聞き入れくださいませんの? 三人を危険な目に遭わせたくないでしょう?」
「それは……そうだけど……」
「でしたら、先に参りましょう」
「じゃあ、とりあえず怠惰の王のところまで、セリーヌが先行してくれ。俺はやっぱりエリーたちが心配だから」
腕をそっとほどいて、ユーマはエリーたちの元に戻った。セリーヌが青年の背中に微笑を浮かべる。
「あら、つれませんのね」
セリーヌは表情こそ落ち着いているものの、肩を怒らせながら先頭を行く。
「わたくしの勇姿を披露しても落ちませんのね。なら、引き立て役は不要ですわ」
聖十字魔法大元帥は女神の聖剣を適当に振るった。
その剣に込められた光の魔法力が、洞窟内を乱反射しながら走り抜ける。彼女の進む先に潜んでいた魔物たちは、自分たちがなにをされたのか気づかぬまま、光の雷に貫かれ倒された。
こうして、彼女が機嫌を損ねたばっかりに、地下四階の魔物は掃討されてしまうのだった。




