「あいつに任せろ!」その4
セリーヌに先導されて、ユーマたちは地下五階の中央広間にたどり着いた。ダークホビットとの戦いから、敵と出会わなくなったのだ。
おかげで四人とも一切消耗していない全快状態だった。
通路を抜けると、お椀をひっくり返したようなドーム状の空間に出た。そこはまるで闘技場のようだった。ドームの天井付近にある魔力灯で、広間は照らされている。
エリーがぶるっと武者震いしてから呟いた。
「この場所なら、怠惰の王の突進攻撃や転がり攻撃を避けられそうね。う、腕が鳴るわ!」
シエンがユーマに確認する。
「あたしは蘇生魔法を使わない方がいいのかしら?」
「そうだな……えっと……これまでの戦いで、シエンが狙われた時って二回とも、デモダッテを蘇生させた時だったから……」
ユーマの言葉を遮って、セリーヌが高笑いした。
「おーっほっほっほ。あらあら、そんな心配無用でしてよシエンさん。強力な魔法力に敏感な第一外郭の迷宮の主の倒し方。お手本を見せてさしあげますわ!
といっても、戦えるのは一度きりですし、倒してしまうから参考にして再戦はできませんでしたわね。ともかく、高レベル助っ人を排除する能力を、使われる前に倒してしまえば楽勝ですのよ。この雑魚は」
グルウオオオオオオオオオオオオオオオ!
空気を揺らす咆吼が、ユーマたちが進んできた通路とは逆の、迷宮の奥から響き渡った。黒い塊が、通路の闇の中からゆっくりと姿を現す。
デモダッテが魔法のステッキを掲げ、ユーマとエリーが剣を抜く。シエンも、すぐに回復魔法が使えるよう、身構えた。
セリーヌがほほ笑む。
「ですから、わたくしが手本をお見せすると言ったでしょう? 大元帥の能力……戦陣速攻!」
セリーヌの足下に魔法陣が発生した。怠惰の王が、水の中にいるようにゆっくり、のっしのっしとユーマたちに向かって歩いてくる。
青年が声を上げた。
「な、なんだ!? すごくゆっくり動いてるぞあいつ! 調子でも悪いのか?」
「違いますわ。わたくしたちが加速していますの。その魔法陣の外に出てはいけませんわよ。では、改めて光属性自己強化魔法。続いて光属性弱体化魔法!」
セリーヌが女神の聖剣を掲げると、彼女の身体とその剣に光の魔法力が宿った。さらに、切っ先を迫り来る怠惰の王に向ける。
瞬間、太陽のように温かい光が怠惰の王の身体に降り注ぎ、その厚く硬い外皮を氷のように溶かしてしまった。
鎧を脱いで、青い地肌をみせる巨人――怠惰の王。
セリーヌが足下の魔法陣を消すと、女神の聖剣に全ての魔法力を込める。
時の流れが元に戻り、通常速度で突進してくる怠惰の王に……セリーヌは正面から走っていったかと思うと、その脇をすり抜けた。
「聖十字刻印剣……貴方もう、終わっていますわよ?」
脇をすり抜けたセリーヌに向き直ろうとした怠惰の王。その上半身と下半身が……分断された。さらに、唐竹割に身体を四分割される。
すれ違いざまに、セリーヌは十文字に怠惰の王を切り裂いたのだ。
エリーはセリーヌの太刀筋に息を呑んだ。
「速すぎてほとんど見えなかったけど……まったく別の太刀筋を超高速で放つ二連撃……あんな離れ技……どうしたらできるのよ……」
グルオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
断末魔の声とともに、迷宮の主の姿が煙のように溶け始めた。
ユーマが剣を握ったまま、きょとんとしている。
「あれ? えっと……なにがどうなったんだ?」
「あいつが一人で全部やっちゃったのよ!」
エリーの言葉に、ようやくユーマは状況を理解した。
「ありがとう……って、言っていいのか?」
剣を鞘に収めると、セリーヌは微笑を浮かべた。
「ええ。どういたしまして。それにしてももったいないですわね。ユーマさん、せっかくですし、わたくしと女神の元にご一緒しませんか?」
「あー。女神さまにもお礼言わないとな」
「そういうことではございませんの。わたくしたちの仲間にならないかというお誘いでしてよ? コスト80の貴方の才能は、相応の環境がなければ開花しませんもの。正直、もったいないですわね」
ユーマは困ったように眉を八の字にさせた。
「悪いんだけど、それはできないな。エリーたちと一緒にいたいし、うちの神さま、頼りにならないから、俺がいてやらないといけないんだ」
セリーヌはあきれ顔をすると、肩をすくめさせた。
「それは残念ですわね。では、失礼しますわ。気が変わったら、いつでも連絡してくださいまし。お待ちしていますわ」
セリーヌは道具袋から、帰還の宝石を取り出して使用した。宝石が魔法力を解き放つと、彼女の足下に魔法陣が生まれる。光の柱が立ち上り、聖十字魔法大元帥の姿は光の中に溶けて消えた。
次の瞬間、ユーマたちの視界が真っ白く染まった。
なにもない白い空間に、両手でつかめるくらいの光の玉がふわふわと浮かんでいる。
そして、その足下に白い獣――バッファーがちょこんと座っていた。
「やあ、どうやら最初の迷宮の主を倒したみたいだね」
ユーマは首を左右に振った。
「いや。倒してない」
「別に助っ人の力を借りて倒すのは、問題ないんだよ?」
「そういうことじゃないんだ。うちの神さまの気持ちが、ちょっとだけわかった。なあバッファー。この先の迷宮にも、怠惰の王みたいな主がいるんだよな?」
「そうだよ。さあ。この光の玉に触れて、封印するって念じるんだ。そうすれば、次の迷宮への道が示されるようになるから」
「そこにいるのは、もっともっと強い魔物たちなんだよな?」
「当然そうなるね」
ユーマはエリーたちに振り返った。三人は何かを決意したような眼差しで、ユーマに頷き返す。話し合うまでもなく、全員が同じ気持ちだった。
「封印はしない。俺たちの力だけで怠惰の王を倒す」
バッファーはユーマの足下でくるりと身を翻した。
「じゃあ、今回はそのまま外に転送するよ。本当にいいんだね?」
「ああ。男に二言はない!」
バッファーに転送されて、ユーマたちは攻略街に舞い戻った。帰還して早々、エリーが鼻息もくユーマに進言する。
「ユーマの代わりに、わたしがあの貧乏神に文句を言いたいんだけど!」
「ここはリーダーの俺に任せてくれ。じゃあ、行ってくる!」
青年はそのまままっすぐに、伝奏師の元へと走るのだった。
白い空間に、神の姿が浮かび上がった。
「おい神さま! 今日の助っ人……強すぎるって!」
「悪い。あいつ……課金しまくってたんだ……いや、こっちの話だ気にするな」
「せめて、俺たちと同じくらいの力の助っ人っていないのかよ?」
「それがその……ごめん。いません」
「あっ……こっちこそごめんな。神さまって基本的には、ぼっちだもんな」
「うるせぇ! まあ、お前の選択……自分たちの力でクリアしたいっていう気持ちは、俺にも痛いほどわかる。だから……」
「神さま! まだ持続聖って残ってるか?」
「ああ。あと一回くらいなら迷宮に潜れるぞ」
「今日は正直、消化不良な感じなんだ。俺たちだけで行かせてくれ!」
「わかった。行ってこい!」
ユーマたちは再び、外郭迷宮第一層へと飛んだ。
そしてこれまで通り、苦戦しつつも地下五階へに到着する。
グルウウウオオオオオオオオオオオ!
倒されたはずの怠惰の王は健在だった。その雄叫びに、ユーマたちはかすかにうれしさすら感じながら……。
――パーティーは全滅しました――




