「特技をいかせ!」その3
四人は再び第一外郭迷宮へと足を踏み入れた。
降り立ったのは森の中だ。鬱蒼と茂る緑の迷路。その奥には洞穴があり、暗く深い闇の世界へと続いている。
外郭迷宮の主は、闇の底深くに潜んでいた。ユーマたちの最初の目的は、この迷宮の主――怠惰の王を倒すことだ。
四人は警戒しながら森の中を進み始めた。
デモダッテは箒に腰掛けるようにして浮いている。エリーがさっそく噛みついた。
「魔法力を温存しようって話をしたばっかりじゃない!」
「……歩いたら負けだと思う。コスト1なめるな。みんなが思ってる以上に使えないから」
エリーが不機嫌そうにユーマに詰め寄った。
「リーダーからも説得してちょうだ……はぁ」
うらやましそうにユーマはデモダッテを見上げていた。
「俺も乗ってみてぇ……ちょっとだけ! ちょっとだけでいいから!」
「……だめ。これはボク専用だから」
「なんだよケチー!」
「……じゃあ、今度みんながいない時に、こっそり……」
かすかに頬を赤らめ恥ずかしそうに呟くデモダッテに、エルフの少女が声を上げた。
「密談になってないわよ! っていうか、ユーマ。リーダーなんだから、きちんとしてちょうだい。今回のテーマはなんだったかしら?」
「魔法力をできるだけ使わないようにするんだろ?」
ユーマは魔法使いの少女に向き直って、腕組みするとしばらく考え込んでから、うんとうなずき目を輝かせた。
「お! 名案を思いついたぞ! デモダッテは魔法力で浮くだけにしてくれ。推進力に魔法力は使わなくていいから。箒にロープをくくりつけて、俺が引っ張ってやるよ」
デモダッテはうんと小さくうなずいた。
「……風船みたいだね。いいよ、それで」
エリーが目を丸くさせた。
「ちょ、ちょっとユーマ! 甘やかしすぎよ」
「デモダッテはまだ甘えたい年頃なんだよな?」
「……うん。可愛い子には甘えさせろっていうし、ボクって可愛いし」
ユーマがロープをくくりつけた箒を引っ張り始めた。デモダッテは得意のドヤ顔だ。
そんな侵入者たちの会話を聞きつけたのか、殺気を孕んだ気配が四人の行く手を阻む。
森の奥へと続く道に、オオカミの群が現れた。
ユーマがロープを手放すと剣を抜き身構える。
「まだほとんど進んでないってのに、もう戦闘か」
同じく剣を抜いて前に出ると、エリーがため息を吐いた。
「デモダッテは下がってって! ここはわたしとユーマでなんとかす……」
エリーが言い切る前に、シエンが箒につながれたロープを手にすると、前後に反動をつけて揺らし始めた。鐘突のように水平移動する箒の上で、デモダッテが震える。
「……まさか、勢いつけてオオカミの群の中に投げたりしないよね?」
シエンが目を細めた。
「このパーティでのデモダッテちゃんのあり方に、一石を投じる必要があるのよね。囮くらいにはなるでしょ?
あと、可愛い子には甘えさせろじゃなくて、旅をさせるべきなの。というわけで……行ってらっしゃい! 良い旅を!」
最後にブウン! と、勢いをつけて、シエンは箒を投げ放った。オオカミの群に向かって、デモダッテをのせた箒はまっすぐに飛んでいく。
カーリングの石のように、徐々にスピードを落として……箒は動きを止めた。
オオカミの群が輪になってデモダッテを取り囲む。
「……あっ……止まっちゃった」
エリーが悲鳴を上げた。
「早くこっちに戻ってきなさいよ!」
「……怖くて無理。箒に魔法力を集中できなくて、浮いてるのがやっとかも」
次の瞬間、オオカミたちが一斉にデモダッテに飛びかかった。
「た、助けるぞエリー!」
「手遅れっぽいんだけど……しょうがないわね!」
ユーマとエリーがオオカミの群に斬りかかった。デモダッテにかぶりつくオオカミたちを、次々に切り捨てていく。
全身血まみれで、ボロぞうきんにされながらデモダッテは地面に転がった。オオカミたちは無抵抗な餌から、殺意をユーマとエリーに向け直す。
「……ふふっ……ニート万歳……ニートは何度でも甦……る……」
地面に転がって、デモダッテが息絶え絶えにつぶやいた。
「最初の戦闘でいきなり死にかけないでよ!」
飛びかかってきたオオカミを、得意の剣術で切り払いながらエリーがツッコミの声をあげた。
ユーマが後方で待機しているシエンに声をかける。
「シエン。デモダッテを回復してやってくれ!」
「戦闘が終わるまでそのままにしておきましょ。今、中途半端な状態で立ち上がると、二人の足手まといになるでしょうし」
「そ、そんな……デモダッテは俺が守るから!」
ユーマの隣で、エリーが小さく首を左右に振った。
「デモダッテを守るのに手一杯になって、わたしたちの攻撃の手が止まれば全滅するかもしれないわ。今は我慢して戦ってちょうだい!」
「ちっくしょう……守るって約束したのに……強くなりてえええええええええ! うおおおおおおおお!」
叫びながらユーマは剣を振るい続ける。
「強くなって、嘘を本当にできるようにしましょう!」
ユーマは悔し涙を浮かべながら、エリーの背後に飛びかかったオオカミを叩き切る。
二人が倒したオオカミの肉体は、次々とガラス状の黒い小さな宝石に変わっていった。最後の一匹をエリーが得意の連続攻撃で仕留める。
「これでラストね。それじゃあ、シエンお願い」
後方で待機していたシエンが、地面に倒れ伏したデモダッテの元に歩み寄る。
「霊魂化してないから生きてるわね。じゃあ初級回復魔法」
みるみるうちにデモダッテの身体の傷がふさがって……いく途中で、回復の力は消えてしまった。意識を取り戻したデモダッテが目に涙を浮かべる。
「……痛いよ。死にそう。回復するなら全快させて」
シエンはにっこりほほ笑んだ。
「今回の課題は魔法力の温存でしょう? ほら、ぎりぎり動けるくらいには回復してあげたから、箒にのっていいわよ」
「……のったら、またさっきみたいに……」
「歩けないでしょ? ね? 歩けるほどには回復してないわよね? だったら箒に乗って浮いてなさい。また、敵の中に投げ放ってあげるから」
「……鬼、悪魔、外道、人でなし……それでも聖職者か……」
「それってあたしには褒め言葉なのよねぇ」
シエンはうれしそうに目を細めた。エリーが青ざめる。
「怖いんだけど。じょ、冗談よね?」
「あたしは本気よ。あっ! ユーマくん……こっそり初級回復魔法をデモダッテちゃんにかけようとしないの」
「いや、これはその……俺の魔法力くらいなら、使ってもいいと思って……」
シエンは首を左右に振った。
「ユーマくんの魔法力も、もちろん温存よ。死んでも復活できる外郭迷宮では、命は進んで投げ捨てなさい」
断言するシエンをよそに、デモダッテは呟いた。
「……死にたい。いっそ殺して。痛くなく殺して」




