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吟遊詩人はアイドルではありません!(仮)  作者: ナガイヒデキ
1章「クレイジークレイジーは止まらない!」
24/50

FULLPARTY

「ねぇ、ソウちゃん、ソウちゃん」

 大男はあかねの声掛けと甲を覗く行為にも、背を向けて対応する。まさに鉄壁、いや絶対防御だ。


「知り合い?」


「ソウちゃんはね――幼馴染なのです」


 ほほう――ミワ、見えないヨダレを拭くな!


「二人は付き合っている?」

 キラの不躾な質問に、「んなわけねーだろ!」と大男はすぐさまキラに振り返り否定する。が、キラの横にはあかねが居た。キラは笑みを浮かべる。してやったり顔だ。

「あ、やっぱりソウちゃんだ」

 ソウちゃんこと大男は諦めて甲を脱ぐ。

「ソウちゃんがゲームに興味あるなんて思わなかったよ」

「ハァ、センコーがよぉ、ケンカばっかしてるなら、ここにでも行ってこい! って、指定された場所が施設ココだったんだよぉ」

「ソウちゃん、昔っからよく絡まれてたよね」

「不可抗力なんだがなぁ――」とソウは長いため息を再度ついた。


 なんだ? このケンカする元気あるなら、その有り余る力を部活ボクシングに打ち込め的なコッテコテの展開は……。


「ソウちゃん、一緒にパーティ組もうよ、ここの人たち全員ギフトもちと云う異色のPTよ」

 とあかねは目を輝かせていたが、

「お、あかねもギフトもってるのか?」の問いに、

 目を伏せて、わたしは――とくに、と紡いだ。


 むぅ――PTで一人だけギフト持ってないことに気後れしてたのかな……。私はヒラがあかねで良かったと思ってるよ! 自信持って、あかねちゃん!


「そ、そうなのか。オレも持ってねぇからよぉ」


 お、意外だな。なんかチートっぽいの持っていそうだったんだが。


「ソウちゃんソウちゃん」

 ああぁん? と睨みで返すソウ。

 気後れもしないキラが、「ソウちゃんってSTR全振り?」と。なにげにキラも空気よめない質、というより無神経な、もしくは怖いもの知らずな性格だよな。

「テメェにソウちゃんって呼ばれる理由がねぇんだが?」


 おい、メンチを切るな。


「もうソウちゃんでいいんじゃないですか」

 いたって涼しい顔のキラ。

 ソウは徐ろに右拳をキラの顔めがけて放つ。ほとんどノーモーションにも関わらず、キラはサラりと避けた。右拳自体はキラの顔に当たる直前に止めている距離だった。つまりは当てる気はさらさらなかったのだろうが――ソウは躱されたことに心外そうな顔をした。

 そして、そうだよなぁここはゲームだんもんなぁと自分に言い聞かせるようと、今度は当てる気満々の左右のコンビネーションを繰り出す。ただ、これもキラは一発目の顔面パンチを傾げるだけで躱すと、2発目のフックを屈伸しながら前移動しながら躱し、相手の懐に入り込むと同時に切り込んだ。

 ソウは舌打ちをして、キラのククリをパーリングで弾いた。

 これにはキラが驚いた。なるほど、さすが絶対防御かと呟く。一瞬――


 出し抜けにソウの足が跳ね上がる。


 け、けりぃぃい?


 私はヤンキーからの更生ボクシングという勝手な図式と先の戦闘から拳以外の攻撃にビックリして叫んでしまった。


 キラは予想の範囲か器用に蹴り上げる脚を蹴り、後方へ飛び着地した。

 これって囚人戦で魅せた技。ならキラにダメージ判定が――


「VIT全振りっと」とキラは何事もなかったように立ち上がった。武器の使用がない攻撃判定ならSTRは互角ということか。てか、なんの確認してんだ、キラは?


「お、VIT振りならオレと一緒だわ。ソウちゃん」


 そういや、空気読めないヤツが他にいたわ……。


「あああ、もう――なんなんだよ、テメェ等は……」とソウは髪をくしゃくしゃと触った。

 あかねはその様子をみてプッと笑い、「ね。いいパーティでしょ」と首を傾げた。

 ソウはその笑顔をみて、今度は頭をポリポリと掻き、「わぁったよ。パーティに入ればいいんだろ」ともう投げやりだ。


 うん。このヤンキーのリアル事情は分からんが、いいヤツっぽい。まぁ、なんか苦労してそうだけど……。人を見た目で判断してはいけない! ごめんねヤンキー。


 ソウは、変わった連中だぜぇと呟いてる。


 いやそこは、個性的なパーティだと言ってよね。



「何やってるの? いくよ!」

 と、すでに美和は騎乗していた。


 さすが唯我独尊のミワ。他の追随を許さない個性の持ち主……。


 洋平もそれに続いて自馬に乗る。馬を持っていなかったようで、ソウとあかねは一緒に騎乗する。二人乗りにソウはかなり抵抗していたが、天然系のあかねちゃんに押された形となった。私も手綱を引き寄せ、馬にまたがる。と、キラが横で――


「あかね()――か」

 ――誰ともなく呟いた。





「見えたわよ」


 美和の声で前方を目視すると、

 ポーチ程の石が精密に円を描くように並んでいる。その中央には、トリガーを設置するのであろう焚き火の跡が残っていた。私は焚き殻まで行くと、手で合図を送った。即POPということもありパーティにも緊張が走る。タンク2枚とあって、あかねの近くに洋平、美和にはソウが護衛する陣となった。パーティが配置に入るのを確認して、トリガーアイテムをセットする。一瞬にしてモクモクと煙が立ち登り、やがて周囲を包み込んでいった。その紫色の煙は仄かに甘い匂いがした。すると、煙の中からイヌ科特有の喉を震わせた濁した音が聴こえてくる。濃度の高い紫煙から黒い影が出てくる。


 ブラックウルフ?


 いや、もちろん表示している名前などない。情報すらなかったのだから。一際デカイ黒い狼といった印象だ。最大の特徴としては隻眼だということか。そして――

 複数の威嚇する先ほどより小さい鳴き声が耳に入ってきた。私たちは黒狼に意識しながら周りを一瞥する。

 背後から囲んで現れた一回り縮小された狼に、私たちは慄いた。


 ブラックウルフを主とする眷属――こちらは真っ白い狼。

 シルバーウルフの登場だ。


 これが氷結都市近郊エリアなら雪に埋もれて見えなかったであろう綺麗な艶のある毛皮。ただ私たちが驚愕していたのは、その装美を目にしたからではない……。


 その数――なんと



 8匹!



「おいおい、4匹じゃなかったのかよぉ」

「PTの人数で眷属の数が変わる仕様ね……」


「なるほど、こりゃあ――たしかに罠クエだわ」

 と、洋平は愚痴った。


 私は出もしない冷や汗を手で拭う仕草をした。



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