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吟遊詩人はアイドルではありません!(仮)  作者: ナガイヒデキ
1章「クレイジークレイジーは止まらない!」
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罠クエスト

「洋平はブラックウルフ、ソウはシルバー! いける?」


「いけるかって? いくしかないんだろ!」と洋平は黒狼に勢いよく突撃した。

 ボスの連動ヘイトか眷属も一斉に洋平に襲いかかる。が、ソウが上手く纏まったところを一気にヘイトを持っていく。


 洋平 対 黒狼、ソウ 対 白狼の図式になった。


 事前情報と少し違った為に混乱は見られたが、なんとか私たちが最初に描いた戦闘に持ち込んだ――かのように思われた。


「クソっ、眷属の割に個々が強いぞ!」とソウは吐き捨てる。

 もしかすると、PT人数で敵のランクも上がっているかもしれない。よほど、運営はこのクエストをクリアさせたくないようだ。

 ソウは白狼の攻撃を相殺してモーションを無力化するが、武器の攻撃間隔からか2匹が限度みたいだ。絶対防御型の弱点が早速露骨に表れた。欠点は2つ――


 1、自分より強敵だと攻撃を相殺できない。ボスにはMT不向き。

 2、自分より攻撃間隔の狭い敵だと相殺できない。多数の敵には不向き。


 だが、これで盾にならないかというと、タンクとしては成り立つ。ダメージゼロではないだけの話だからだ。相殺さえすれば受ける攻撃ダメージを減らせる。もちろん、失敗すれば大ダメージは喰らう。そしてボスクラスの攻撃だと一瞬で溶ける可能性だってある。


 キラの絶対回避にだって弱点は思いつくだけで2つある。強敵だと攻撃が通らないという点。そして最大の弱み――本人自体にヘイト維持ができないということ。この場合は回避盾と考えた時に起こる問題だ。


 ソウはそれでも2匹の噛み付きやら突進を回避も混ぜつつ耐えている。残りの4匹の攻撃を喰らいながら。さすがにVIT全振りだけあって、なんとか持ちこたえている。だが、盾ガードの特性――前方からの攻撃のみダメージカットを付与する――が効いていない。タンク二人のスピードが狼について行けてないのだ。

 それをカバーしているのは、あかねだ。あかねはヒラとしての役割をよく熟知している。きっとヒラスレなどで情報を熟知しているのだろう。初心者とは思えぬ知識量。洋平には上位ヒールを唱え、ソウにはリカバリーで補っている。これは下位ヒールの中でもヘイトが一番低い。徐々にHP回復する魔法だが、回復量は下位と上位の間なのだ。そしてMP効率もいい。眷属8匹のヘイト量が分からないため、ケアルヘイトでタゲを取らないようにしている。時折、おっかなびっくりで下位ヒールを当ててるのが見て取れる。

 キラはなにも行動していない。ただただ戦況を見据えている。親指の爪を噛んでいる様を見ると、その予測は芳しくないようだ。私もその見通しには首肯せざるを得ない。


 この場合、何を詠えばいいのだと――

 無難にVITか、いやそれだと……。


 美和の魔法が当たった瞬間、白狼が反転して標的ターゲットを変えた。

「なんなのよ、このロシアンルーレットみたいなのは!」


 まさに、美和の放った不満がこのクエストのギミックなのかもしれない。きっとソウすらも波状攻撃でどの狼にヘイトを入れているか確認できていないはずだ。かなり器用なヘイト感覚があるタンクなら均等に分けれそうだが、ソウはそういうタイプには見えないし、現に魔法一発でヘイトが飛んでいる。


 白狼より素早く(・・・)キラが――


 上手い!


 ヘイトを美和より奪い取った。そして、そのヘイトを返そうとソウに近づこうとする。が、


「姉御、これはちょいとヤバい! スピードが僕より――」


「速い!」


 そう、ヘイトを取る行為は《早い》だが《速い》ではない。位置的にキラのほうが美和に近かったに過ぎない。キラの速度は狼共に劣っている。キラが一歩を踏み出そうにも、そこへ襲いかかる狼。避けながら攻撃するあたりはさすがと言うべきか。だが、そこから移動はさせてもらえない。美和はさすがにもう一発撃つ勇気はないようで、静かに傍観しているだけだ。ソウも7匹相手に頑張っている。無常にも時間だけが過ぎる。むしろ、この戦闘クエストで敵の速度についていけるPCはいないのではないだろうか。

 この現状では、ヒラのあかねが均衡を保っているといっても過言ではない。ケアルヘイトの見極めがなければ、すぐにでもこの緊迫した状態が一気に決壊したであろう。だが、このままだといずれケアルヘイトが限界まで突破してしまう。


 やはりスピードが問題なのか……、だったらアレ(・・)をやるって決めてたじゃないか!


 私は詠いだす――


「お、VIT系ならこっちに届くように近づいてくれ」と洋平。

「VIT? あぁ防御力を上げるヤツかよぉ。たしかにそりゃいいわぁ。この現状を間延びさすにはよぉ!」

 とソウは嫌味っぽく文句を垂れた。


 たしかにVITで防御を上げても、このまま行けばジリ貧だ。


 キラは膝を指で叩きながら、「いや違うよ、この歌は――」


 だから、私が詠っているのは……


 《脱兎のフリアント》だ!


「この風が周りを漂う感じ――」

 移動速度が上がったことで、ソウは最初こそ不慣れな動きだったが前方で攻撃を受けれるようになっていった。呑み込みが早い。

「だがよぉ、これだと防御力を上げるのとよぉ、なんら変わんねぇじゃねーか?」


 もちろん、そんなことは百も承知だ。だが、盾で受けれるようになったということは、狼のスピードについて行けいるということだ。私の狙いはもっと別だ。つまりは――


「キラ!」と私が叫ぶと、


「5匹……、5匹ならいける!」と私の意図した答えが返ってくる。なら、


「ソウ! 3匹だけタゲとりお願い!」


「おい、なんのこと――」ソウが聞き返すヒマなく、キラが近づき、


「そのヘイト貰い受ける」


 ソウのヘイト7匹全部引っこ抜く。そしてその場から一旦離脱するかのように距離を置くキラ。ソウはあわてて、追いすがろうとする狼3匹のヘイトを奪い返し、「3匹でいいんだよなぁ?」と、そういうことやるなら先にいっておけと言わんばかりに睨みを利かしてきた。


 おう、ちょっと喉が震えてきた。詠えなくなっちゃうよ?


 キラは? 私はさすがに5匹はと思いつつ、引き連れていった先を見やる。

 キラは5匹相手に避けまくっていた。


 おう、マジで避けれるのね……。アイツ化物なの?


 3匹になったことでソウは、2匹同時の攻撃もソウのモーションキャンセルで攻撃を無力化。さらに避けながら、攻撃ヘイトを入れ蓄積ヘイト、スキルによるヘイトを混ぜ、完全に白狼の敵視を安定させていった。

 絶対防御が作動している。


 こっちも化物よね……。


 これで戦況は、

 洋平 対 黒狼、絶対防御 対 白狼、絶対回避 対 白狼の図式に変わった。



 さぁ、反撃クリティカルの開始だ!



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