ユニスキの使い方
拝啓 母上様
私は元気にやっております。先日も、都市防衛戦で大活躍をした次第であります。
そのおかげで運営から報酬を頂きました。吟遊専用ユニスキ《脱兎のフリアント》です。
ただイラやしいのが、そのスキルが使えそうで使えないってことです。
《効果:移動速度150%UP》ですが、内容を見ればすごくチートっぽく見えなくはないでしょう。
問題は、速度が上がるからと言って攻撃力が上がる訳でも、ここ重要――攻撃速度が上がる訳ではないのです。効果の上げる歌は一種のみです。だったら、STR系詠えば底上げできるのですよ。つまりは名前の通りで、逃げる専用スキルってことなんです。
全く使えないクソスキルだって?
もちろん、私も思いました。が、最初にイヤらしいと言いました。そのスキルが使えないようで使えるってことなのです。
話は変わりますが、
母上様は某有名グループの出待ちや追っかけをやってませんよね?
行き過ぎた行為はストーカーかと思われますし、本様も大変迷惑をかけているでしょう。
できれば止めてあげれば賢明です。
なぜこんな質問をと母上様は思われるでしょう。
それは――
「お、アサヒ様だ!」
「アサヒ様ーー」
現在、私が絶賛、追われているからです!
「あ、アサヒ、例の場所で待っているね」
パーティメンバーと通り過ぎる途中で、美和が声をかける。
なんでこうなってるかだって?
話は少し遡りますけどいいよね……。
朝、いつものギルド前にて待ち合わせ。もちろん、美和とあかねは宿屋にて合流だったが、こと男子2名はどこの泊まっているのかすら不明。
「おはよう、洋平」
「おはよ」
何か眠たげな洋平。また朝まで狩っていたのか……。まあ仮想8時間がリアル60分程だからって、ムリせずにカラダ休めよ。てか、洋平は宿屋を取っているのか?
ギルド前はPCで賑わっていた。昨日、死に戻りで結構なPCが戻っていたからなぁ。
この時に、すでにオカシイことに気づくべきだったかもしれない。
「今日もギルドは繁盛だね」
と洋平も加わる。ギルドの中にはPCが思ったほど少なかった。
あれ? 外の方が多かったよな……。募集でもしてたのかな。いや、shoutは聞こえなかったよね?
キラは掲示板からこちらに近づいて、「あれ?」と珍妙な声を上げた。
む?
「さて、緊急会議よ」と美和が2F酒場へ。私たちもそれに続く。
緊急会議? なにか急することあったかな……。てか、私たち以外のPCもついてきたよ?
少し奥にある壁際の席へ着く。上下にNPC席卓上が挟む感じになった。
「昨日のビシージが決定的だったわね」と美和は小声で言う。
「たしかに悪目立ちしすぎだったかな」キラは笑いを堪えきれてない。
なぜ、笑う?
悪目立ちって、ビシージでTOP30に2人、特別賞1人とパーティ内に計3名も名前が連なったからね。たしかに私たちのパーティは有名になったかも? でも、悪くないよね?
あかねは残念そうな顔で首を横に振る。
「あのね、個人戦とはいえ、TOP30に入っているのはパーティプレイをしていた人たち。つまりすでにトッププレイヤーとして有名な人たちばかりよ」美和はため息を付きながら、「私たちの場合、パーティが有名になったと云うより――」
「――アサヒが有名になりすぎたのよ!」と私を指差した。
「《教会前の喜劇》が動画再生回数9000と云う、ほとんどのPCが見ているからね」
ちょっと待って、あの戦犯は私じゃないわよ?
あかねが更に残念そうな顔で首を振る。
「あのね、論点はそこじゃないのよ。アンタの歌声に問題があるのよ!」
え、そんなにヒドかったかな?
「姉御の歌、僕は好きだよ」
キ、キラ。す、す、す、す、好きって……。そ、そんな直球で――。
ケっと露骨に嫌な顔をしている洋平。
オイ、洋平。おまえには詠ってやんないよ?
「違うわよ、アサヒ。アンタの声は、すごく――」
すごく?
「す、す、す――」と美和は苦しそうに喉に手を当て、見えない何かと闘っていた。そして、あかねにバトンタッチするように項垂れて、肩を叩いた。
「音程が少しの狂いはあるものの、それを越える躍動感があり、ライブ感を際立てています。声域に関しては低音から高音にかけて幅広く出せますし、さらに声量はすごく安定していて、低音になるとストンと胸に響いてくるのが特徴でしょう。音色は――」
「つ・ま・りは、すごくイイ歌声しているから――自覚しなさい!」美和は仄かに顔を赤くして叱咤する。
キャー、ミワ! と抱きつく私。
ガタッ
数名のPCが席を立った音がした。
ええい、気色の悪いと美和が杖で押し返す。ヒドくない?
「話を戻すわよ」
「さて、アサヒ。スレの確認した?」
「もちろん、したわよ。、一応、盾と遊撃スレをみて序盤のスキルは把握したわよ。あと専用アプリからBGMもダウンロード済よ」
「まあ1時間だとスレ確認はそんなもんね。うーん、上にでているスレ確認をしてほしいかったけど、アサヒにしては上出来なほうか」
「姉御は街からもう出てたのかと思ったんだけど」
なぜ、私が街を出て行かないといけないんだ?
「アサヒには現実を見せないとね。まあ、朝にユニスキの効果を確認したから大丈夫よ」
街中、フィールド、戦闘中、この全部に歌の効果が出た。てか、いったい、なんの話をしてるの?
「その顔は理解してないみたいね。つまりあの動画で熱狂的なファンがアンタにできたのよ! しかも予想以上のね……」と美和は目で周りを見るように促す。
私は周りを眼球だけで確認する。うん、こっちをチラ見しているPCがたくさん……。
えーっと、
「さすがに、ファンがついて来ては今後やりにくいよね」とキラが同意を求めると、うんうんとあかねが激しく頷いた。
「それにアサヒは遠目でもすぐに特定されるのよ」
え?
「え、じゃない。アンタ、初期装備じゃない!」
おう、私って初期装備だったわ。そりゃ目立つわね……。
「ということで、これから目的地まで別行動で」
とミワはバミクロのフードを被りギルドを出て行く。あかねもそれに倣い出て行った。
キラはどうぞと先に行くように手を広げた。洋平は何に怒っているのか外方を向いている。
私が立ち上がると徐ろに数名のPCも立ち上がった。
こ、これは――
ギルド入口に行くと、外には出待ちのようにPCが大勢いる……。
私はそっと《脱兎のフリアント》を小さく詠い、
4秒後に猛ダッシュでギルドを出て行った。
後ろを見ると、数十名のPCが追いかけている。
角を使いファンを撒こうとするも、角を曲がる度に――
なんで?
なんか増えていっるんですけど!
だが、さすがに移動速度UP。追いつけるPCはいない。私はそのまま第一区画を何周か回り続け、ようやくPCを撒けたのであった。
運営! これを見越してユニスキ与えたのか? なかなか先見の明があるじゃないか、このヤロウ!