表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
吟遊詩人はアイドルではありません!(仮)  作者: ナガイヒデキ
1章「クレイジークレイジーは止まらない!」
21/50

ユニスキの使い方

 拝啓 母上様


 私は元気にやっております。先日も、都市防衛戦ビシージで大活躍をした次第であります。

 そのおかげで運営から報酬を頂きました。吟遊専用ユニスキ《脱兎のフリアント》です。

 ただイラやしいのが、そのスキルが使えそうで使えないってことです。

 《効果:移動速度150%UP》ですが、内容を見ればすごくチートっぽく見えなくはないでしょう。

 問題は、速度が上がるからと言って攻撃力が上がる訳でも、ここ重要――攻撃速度が上がる訳ではないのです。効果の上げる歌は一種のみです。だったら、STR系詠えば底上げできるのですよ。つまりは名前の通りで、逃げる専用スキルってことなんです。


 全く使えないクソスキルだって?


 もちろん、私も思いました。が、最初にイヤらしいと言いました。そのスキルが使えないようで使えるってことなのです。

 話は変わりますが、

 母上様は某有名グループの出待ちや追っかけをやってませんよね?

 行き過ぎた行為はストーカーかと思われますし、本様も大変迷惑をかけているでしょう。

 できれば止めてあげれば賢明です。

 なぜこんな質問をと母上様は思われるでしょう。


 それは――



「お、アサヒ様だ!」

「アサヒ様ーー」


 現在、私が絶賛、追われているからです!


「あ、アサヒ、例の場所で待っているね」

 パーティメンバーと通り過ぎる途中で、美和が声をかける。


 なんでこうなってるかだって?


 話は少し遡りますけどいいよね……。




 朝、いつものギルド前にて待ち合わせ。もちろん、美和とあかねは宿屋にて合流だったが、こと男子2名はどこの泊まっているのかすら不明。

「おはよう、洋平」


「おはよ」

 何か眠たげな洋平。また朝まで狩っていたのか……。まあ仮想8時間がリアル60分程だからって、ムリせずにカラダ休めよ。てか、洋平は宿屋を取っているのか?

 ギルド前はPCで賑わっていた。昨日、死に戻りで結構なPCが戻っていたからなぁ。

 この時に、すでにオカシイことに気づくべきだったかもしれない。


「今日もギルドは繁盛だね」

 と洋平も加わる。ギルドの中にはPCが思ったほど少なかった。


 あれ? 外の方が多かったよな……。募集でもしてたのかな。いや、shoutは聞こえなかったよね?


 キラは掲示板からこちらに近づいて、「あれ?」と珍妙な声を上げた。


 む? 


「さて、緊急会議よ」と美和が2F酒場へ。私たちもそれに続く。


 緊急会議? なにか急することあったかな……。てか、私たち以外のPCもついてきたよ?


 少し奥にある壁際の席へ着く。上下にNPC席卓上が挟む感じになった。


「昨日のビシージが決定的だったわね」と美和は小声で言う。

「たしかに悪目立ちしすぎだったかな」キラは笑いを堪えきれてない。


 なぜ、笑う?


 悪目立ちって、ビシージでTOP30に2人、特別賞1人とパーティ内に計3名も名前が連なったからね。たしかに私たちのパーティは有名になったかも? でも、悪くないよね?


 あかねは残念そうな顔で首を横に振る。

「あのね、個人戦とはいえ、TOP30に入っているのはパーティプレイをしていた人たち。つまりすでにトッププレイヤーとして有名な人たちばかりよ」美和はため息を付きながら、「私たちの場合、パーティが有名になったと云うより――」


「――アサヒが有名になりすぎたのよ!」と私を指差した。


「《教会前の喜劇》が動画再生回数9000と云う、ほとんどのPCが見ているからね」


 ちょっと待って、あの戦犯は私じゃないわよ?


 あかねが更に残念そうな顔で首を振る。

「あのね、論点はそこじゃないのよ。アンタの歌声に問題があるのよ!」


 え、そんなにヒドかったかな?


「姉御の歌、僕は好きだよ」


 キ、キラ。す、す、す、す、好きって……。そ、そんな直球で――。


 ケっと露骨に嫌な顔をしている洋平。


 オイ、洋平。おまえには詠ってやんないよ?


「違うわよ、アサヒ。アンタの声は、すごく――」


 すごく?


「す、す、す――」と美和は苦しそうに喉に手を当て、見えない何かと闘っていた。そして、あかねにバトンタッチするように項垂れて、肩を叩いた。

「音程が少しの狂いはあるものの、それを越える躍動感があり、ライブ感を際立てています。声域に関しては低音から高音にかけて幅広く出せますし、さらに声量はすごく安定していて、低音になるとストンと胸に響いてくるのが特徴でしょう。音色は――」

「つ・ま・りは、すごくイイ歌声しているから――自覚しなさい!」美和は仄かに顔を赤くして叱咤する。


 キャー、ミワ! と抱きつく私。


 ガタッ


 数名のPCが席を立った音がした。

 ええい、気色の悪いと美和が杖で押し返す。ヒドくない?


「話を戻すわよ」

「さて、アサヒ。スレの確認した?」


「もちろん、したわよ。、一応、盾と遊撃スレをみて序盤のスキルは把握したわよ。あと専用アプリからBGMもダウンロード済よ」


「まあ1時間だとスレ確認はそんなもんね。うーん、上にでているスレ確認をしてほしいかったけど、アサヒにしては上出来なほうか」

「姉御は街からもう出てたのかと思ったんだけど」


 なぜ、私が街を出て行かないといけないんだ?


「アサヒには現実を見せないとね。まあ、朝にユニスキの効果を確認したから大丈夫よ」


 街中、フィールド、戦闘中、この全部に歌の効果が出た。てか、いったい、なんの話をしてるの?


「その顔は理解してないみたいね。つまりあの動画で熱狂的なファンがアンタにできたのよ! しかも予想以上のね……」と美和は目で周りを見るように促す。

 私は周りを眼球だけで確認する。うん、こっちをチラ見しているPCがたくさん……。


 えーっと、


「さすがに、ファンがついて来ては今後やりにくいよね」とキラが同意を求めると、うんうんとあかねが激しく頷いた。

「それにアサヒは遠目でもすぐに特定されるのよ」


 え?


「え、じゃない。アンタ、初期装備じゃない!」


 おう、私って初期装備だったわ。そりゃ目立つわね……。


「ということで、これから目的地まで別行動で」

 とミワはバミクロ(バーミリオンクローク)のフードを被りギルドを出て行く。あかねもそれに倣い出て行った。


 キラはどうぞと先に行くように手を広げた。洋平は何に怒っているのか外方を向いている。

 私が立ち上がると徐ろに数名のPCも立ち上がった。


 こ、これは――


 ギルド入口に行くと、外には出待ちのようにPCが大勢いる……。

 私はそっと《脱兎のフリアント》を小さく詠い、

 4秒後に猛ダッシュでギルドを出て行った。


 後ろを見ると、数十名のPCが追いかけている。

 角を使いファンを撒こうとするも、角を曲がる度に――


 なんで? 


 なんか増えていっるんですけど!


 だが、さすがに移動速度UP。追いつけるPC(もの)はいない。私はそのまま第一区画を何周か回り続け、ようやくPCを撒けたのであった。


 運営! これを見越してユニスキ与えたのか? なかなか先見の明があるじゃないか、このヤロウ!








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ