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吟遊詩人はアイドルではありません!(仮)  作者: ナガイヒデキ
1章「クレイジークレイジーは止まらない!」
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褒美はだれに?

 教会出口。

 洋平が憤怒している。頭から湯気がでてきそうな勢いだ。ことの発端は、私の無視が原因である。あかねの説明でことの収拾は終わったのだが、洋平の呼びかけに無視を決め込んだ私に対して怒っているのだ。

 洋平は埒が明かないとみて、「ビシージではソロで活動するからな」と捨て台詞を吐いて消えていった。


 ケッ、みみっちい、オトコだね。


 私が出口付近で突っ立っていると、


「ついに、キタ! ここがわたしの第2の戦場!」

 美和が教会出口から外を眺めて嘯いた。まあ、いつも偉そうなんだけどね。

 周辺には第2陣なのか、装備の整ったオークが埋め尽くそうかと言わんばかりに協会に集まってきている。

「剣盾を持っているのがオークトルーパ、斧もちがオークソルジャです。敵レベルはCランクに値するみたいですね」


 美和はファイア2、ファイアとリキャストごとに撃ちまくる。

 うん、さっきと戦法変わってないよね?

 ただ、違ったのはタゲっているのがタンクとか見境なしに撃ちまくってる点だろうか。

 あ、タゲっていた戦士が死んだ。もちろん、1匹オークトルーパが美和へとタゲ切り替えて襲ってくる。ただ美和は逃げも隠れもせずに――


 ポリゴンとなった。


 え? えーー、なにか秘策でもあるのか――と、


 近くにいた私にトルーパが剣を振るう。私はレイピアで相殺しようとするが、相手はCランク――STRがまったく足りずにそのまま床へ倒れこむ。再度、トルーパが止めを刺しに大きく振りかぶる。

 死を直感した私だが、ポリゴン化したのはトルーパだった。

 杖を構えている美和の姿が、そこにはあった。って、


 ゾンビアタックかいッ!


「ふふふ、いける! いけるわ、ここならMPも満タン!」


 私はこれは巻き込まれると、あかねを連れて出口付近より避難した。

 ツヴァイの攻撃力ならソルジャ相手でも相殺、いや打ち勝てている事実に私はご満悦だ。気分は姫を護るナイト。もちろん、姫はあかねちゃん。さすがに2匹相手だと無理そうなので、はぐれオークを二人で狙っている。あかねちゃんとハモッっていると、


「あれ、あのひと――」

「ほ、本当だ」


 なんだか周りが騒がしくなってきている。

 有名人でもいるのかね、と気にせず気分良く歌っていた。


「アサヒさんだ」

「生アサヒだ」

「アサヒさま」


 ほほう――同名のアサヒってのがいるのか……。って、私?


 なんか周りの視線が痛い。

 一人の少女が情景の眼差しで近づいてくる。

「あの私、アサヒさまのファンなんです」


 あれ? 私ふつうの高校生ですけど……。


 今度は 崇敬の眼差しで一人の少年が近づき、「リアルあさひ様だ」と拝んでくる。


 目を覚ませ少年A! ここは仮想世界だ!


「あの《メディカルカプセル》知っていますでしょうか?」


 そりゃもう。人気グループ歌手でオリコン1位になったやつだし、母が熱狂的なファンだよ。そういや、私が夏休み中にドーム公演行くとか言ってたな……。


 そうですかそうですか、と少女が私の手を握り言う。


 おい、少女A。なぜ、私のツヴァイを鞘に仕舞う。そしてなぜ、マイクを渡してくる……。


 急に伴奏が聴こえてきた。周りを見ると集まったPCがリズムを取っているので、脳曲では――ない?

 てか、このイントロ《メディカルカプセル》だよね?


「自室パソコンアプリより、吟職専用のBGMを選曲できるようになったそうです」


 こういう遊び心の仕事は早いよな……。

 運営、もっとやることあるだろッ!


 ――と、歌いだしが始まったので歌ってしまう私……。いや、つい。


 一曲終わると周りから盛大な拍手が……。


 おい、そこ! 攻撃喰らっているぞ、いいのか?


 なんだ、この――カラオケ感。というより、カラオケそのものじゃん。

 そういや、カラオケひさしく行ってないな……。

 ええい、ヤケだ! とことん歌ってやる!


「デュエットいいでしょうか?」と少年Aが拡声器を持ってきた。


 ――――


 ――


 このマイク借りたままでいいかな? いい? ありがとう。


 何曲か歌っているけど、あかねのハモリが小さい。


 人見知りのあかねちゃん……。


 私はあかねの肩を寄せ腕を回し、リズムを取りながら歌う。段々、あかねも大きなリズムを取り、硬かった笑顔も柔和になる。

 そう、私たちと一緒にいるいつものあかねに戻っていた。やっぱあかねちゃんは笑顔でないとね!


 オークの叫び声、PCたちの怒号に歓喜、武器が重なる金属音、そして歌、歌、歌……。

 それは一種異様な空間に包まれた。熱狂、粋狂、そんな奇異な状況が2時間ちかく続いた。


「やっぱBGMあると違うな!」

「スタミナがいつもより続くぜ!」

「なんか、ヌルヌルうごく!」

「それは気のせいでしょ」

「いつもより刃の入り方が違う!」


なんだろう、この私のVRMMOじゃない感が……。

武器振らずに、マイクを振るっているって――


どうしてこうなった……。



 ――は八忠将第二団長隊長マリアーヌによってオークキングが倒されました。あと5分でビシージ終了となります――


運営からのシステムメッセが響く。


「よーし、最後は《伝説の魔法少女》よ!」


 美和の耳がピクっと動く。そういや、INT系で歌ってあげてなかったな、よし!


 一小節歌い終わった頃、


 騒騒騒ざわざわざわ――


 数十名はいるのか魔術士が戸惑っている。


 あれ? なんだろう、この既視感デジャブ……。


 周りもなにか異様に気づいたのだろう。沈沈しんしんとしたこの場で、私の歌だけが虚しく響く。

 美和の杖に炎の龍が集約する。そして、


「フレア!」


 ハタハタとした魔術士共も一斉に、


「フレア!」

「フレア!」

「フレア!」



 教会周辺のモンスターもPCも跡形もなく消え去りましたとさ――。




 2時間後、運営からビシージ戦績発表があった。

「フレア一斉おもろっ」とキラが合流した時、腹を抱えて笑っていた。

 《教会前の喜劇》として動画が上がっていたのだ。


 戦犯は私じゃないよね?


 TOP10には、なんと美和が入っていた。やはり美和の睨んだ通りトータルダメージが効いてたのかもしれない。《教会前の喜劇》にいた魔術士が何名か入っていたようだしね。あかねもTOP30に入っていた。序盤の辻ヒールが結構稼いでいたのかもしれない。

 あとのTOP10には、マリアーヌと一緒にオークキングを討伐していたPCたちが主だったようだ。

 TOP3には報奨金と装備品一つ。美和とあかねは報奨金のみだった。

 もっとはやめにフレア連発できれば……、と小言を言われてた。

 私はというと――


 運営からビシージを盛り上げたと、特別賞:吟遊ユニーク《脱兎のフリアント》を授かった。


 ああ、あとTOP100にすら、ブラッド・リッジの名はなかった。


 ケケ。

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