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吟遊詩人はアイドルではありません!(仮)  作者: ナガイヒデキ
1章「クレイジークレイジーは止まらない!」
19/50

ビシージ

「キタわね!」と美和は興奮した面持ちで言う。


「え? なに?」


「アサヒ、公式フォーラムくらいチェックしときなさい。あと他職のアビだって覚えてないでしょ?」


 えー、と不満の声を上げると、


「さきの戦闘だって、もしアサヒに関係する連携なら一手遅く、失敗していた可能性だってあるのよ。支援職なら全ての、とは云わないまでも、主要アビくらいは覚えておいてよ!」と、キツく咎められてた。


「て、アサヒはログアウト中なにしてるのよ?」


 ――ご当地アニメからしべさんスレに常駐してますが?


「からしべってなに?」


 フフフ、よくぞ聞いてくれました! からしべとは――からしを基に作成された、かなりゲスいキャラクターだ。クズ中のクズ、キングオブクズ! いやー、からしマヨネーズになる回は熱かったよ。

 たしかにマイナー感はあるんだよね……。書き込まなかったら、すぐにスレが埋もれていくし……。って、


 おい、コラ。ミワ、人に聞いておいてどこへいく!


 他エリアから死に戻りしたであろうPC(プレイヤ)たちが、後ろからゾロゾロと移動し、大きな流れができていく。私たちもまた、そのまま流れに身を任せ、ギルドへと漂流した。


 ギルド前にはすでに多勢のPCが、ある人物を取り囲んでいる。

「八忠将のひとり、ガラルドってNPC(ひと)だわ」

「八忠将とは、王国防衛を遣わされた8人の将のことを云います。1~8まで王国軍隊が設立されており、ガラルドは、そのうちの第8王国軍隊隊長ですね。彼自身、平民と云う出自でありながら腕っ節ひとつで軍団長に上り詰めた英雄です。それゆえに、民から慕われる一番人気の隊長です。もちろん、わたしの一番人気でもあります」


 もう、あかねちゃん歩く生き字引になってるな……。


 まあ、ひと目でNPCって分かるわ。もう日本人離れ、てか背丈は190cm、筋肉隆々、顔は堀の深い銀髪。30手前のイケメン欧米人ってところだな。なかなか、眼福眼福。


「いいか、てめーら! オークキングの野郎がこのバリテウスに攻め込もうとしている!」

 ガラルドは熱いキャラ設定のようだ。

「その数は10万はくだらねぇ! だが、安心しろ。オレたち八忠将も参加する! オーク如きに遅れを取るな。いい働きをしたヤツには特別として褒美をやろう! いけッ! もうすぐ開戦だ!」


 おおぉと歓声が上がる。


 やっぱいいよね。こういう演説聞くと熱くなるね! と、テンション上がっていたら、


「これ、別に強制じゃないよね? だったら、僕は一旦ログアウトするよ」とキラが水を差してくる。

「えぇ、強制ではないわ」

「では、明日8時にギルド前で」

「OK」


 イヤイヤイヤ――ちょっと待って。勝手に話が進んでるけど、


「ちょっ、せっかくのPT戦、しかもイベント――」


「アサヒ、それは違うわ。これは個人戦なのよ。どういう基準で戦績が上がるか分かってないけどね。まあ、だいたいの予想はつくけど」


 そっか。個人戦か、個人戦なら仕方――なくなんかないよ! って、もうキラ行っちゃったし。たしか、彼は北海道組だったわね。なんだ、寒いとトイレにちかいのか?


 とりあえず、洋平に一緒に行動するか尋ねる。個人戦とはいえ、PT戦をしてはいけない決まりではない。


「別にオレはどっちでもいいぜ! オークキングか! 楽しみだな!」


 うん、こいつは戦闘狂アホだったわ。


 ミワは?


「わたしも一緒でいいけど、ちょっと試したいことあるから、途中で離脱するわ」と悪魔の笑みで答えるのであった。


 あかねちゃん? 拒否っても私は後ろから着いていきますけど!




 ――南門前。


「壮観ね」


 数万というオークが砂埃を撒き散らしながら行進している。結構近いぞ。このままだとあと数分で攻城戦が始まりそうだ。


 あ――、


 何人か待ちきれないPTが飛び出していった。先頭までいったが、何事もなかったようにオークの軍に飲み込まれていく。数の暴利だね。


 南無……。


 頭上からギシギシと音が聞こえたかと思うと、風を切る音がした。オークが弓の範囲に入ったのか、弓士たちが城壁から一斉に矢を放ったのだ。矢は放物線を綺麗に描き、オークに突き刺さる。ポリゴンになるオークたち。それが合図の皮切りにPCが平原へと雪崩込む。もちろん、私たちも多分に漏れず、平原へと繰り出した。


 都市防衛戦(ビシージ)開戦!


 美和は高火力なので、タンクがタゲっているオークのみ、それも魔法一発撃てばまた違うタンクがタゲっているオークへとヘイトを分散させている。

 私も洋平の相手している背後から大剣で斬り伏せていく。


 個人戦ならSTR歌でも誰も文句はない!


 鼻歌交じりで攻撃する。これでも最低限の範囲5mはでる! しかもビシージでは歌の効果が他PCでも出る嬉しい仕様。ただ、歌の効果は重複しない模様……。


 最初、結構いい感じに遣り繰りしていたが、多勢に無勢。ヒラのMPが尽きてきたころには、タンクが沈み、ヒラが消え、アタッカーも消えていく。洋平、あかね、美和の順でポリゴンになっていった。

 私? 私はまだ死んでない。なんせ吟遊は歌のヘイト自体が薄い……。

 結局、最後まで残って、オークに囲まれた。


 久しいけど、お約束は外さない!


「ク、コロッ」



 …………


 ……



 教会から出ると、3人はすでに集まっていた。

「もうすこしね」と美和は意味深なことを呟く。


 爆発音がする。見やるとギルド方面から戦火が上がっていた。


 ――もうそこまで侵攻されてるの?


 私たち4人は急いで前線へと駆ける。

 ギルド前近くの広場へ。

 PCも敵もいない。すこし開けた場所に出る。たどり着いた順は、洋平、私、美和――そして、かなり遅めにあかね。後衛職で美和とあかねは同じスタミナ設定のはずだが。


 なにか、やってたのかな? と勘ぐっていると、


「おい、そこ危ないぞ!」


 目と鼻の先に衝撃波を感じた。何事かと思い、その先に目を向けると、

 ガラルド様が刃渡り1mはあろう刀を片手に振り回していた。対するは、毛むくじゃらの青黒い3mはある大猿。

「あれはオーガですね――たしかBランク討伐依頼に載っていました」


 私たちでは勝てないね。


 ガラルドは雑魚オーク達が参戦してくるものなら、


「喰らえ! 偃月斬ッ!」


 雑魚が跡形もなく消え去る。ガラルド仕様のユニーク範囲攻撃スキル:偃月斬。

 通りで、あの一帯にだれもいないはずだ……。

 ガラルドとオーガとの一騎打ちに巻き込まれないよう近接は周囲の雑魚オークを相手にしている。遠距離できる弓士・魔術師はオーガを攻撃。ただ両職ともガラルドの範囲に注意しながら戦っていた。

 ガラルドが偃月刀を横にねかせ、後ろへ引く。それを見たPCは蜘蛛の子散らすように逃げ去った。


「喰らえ! 偃月斬ッ!」


 なるほど、さっきの動作が範囲攻撃に移るパターンみたいだ。慣れてくると、なんか他PC同士でも声掛け合って、回避できるな。と、

 あかねは後ろを振り返ると、ソワソワしだした。そして、私の裾をソっと摘んだ。後衛はいつもならもっと離れているが、こと攻城戦での雑魚の多さから離れると余計に危険とのことで私とあかねはピッタリとついてたのだ。

「あ、あのさきに謝っておきます。ごめんなさい……」

 私は何事かと振り向く。

 オーク4匹が血相を変えて、こちらに走っているではないか! いや、角からもう5匹飛び出てきた。


 こ、これは――

 あかねちゃんが、広場へ遅れてきた理由って、


「あかね! 辻ヒールかけまくってたでしょ」

 何らかの理由でヒールかけていたPCが死に、タゲが切れたのがこちらへ押し寄せてきたようだ。


「ご、ごめんなさーい!」


 私は裾と掴むあかねの手を握ると、猛然と助けを求めて洋平の元へ走り出す。


「今日から辻ヒール禁止!」


「もうしませーん!」


 洋平は私たちの声に気づいたようだ。「おい、どうし――」と私たちを襲いかかるオーク達を見て絶句し、


 そして逃げた!


 逃げるな、洋平!


 私とあかねは必死に追いかけた。


「コラ、離れろッ!」


「仲間を見捨てるのッ?」


「今は個人戦だろ! 仲間だったら迷惑にならんよう端っこで死んでくれッ!」


 ムカっ!

 アッタマキタ! 絶対に道ずれにしてやる!


 なんか本末転倒してるが、どうでもいい――こうなったら、


「お、おい! そこ危ないぞ!」


 私たち3人とオーク数匹は、ガラルドの範囲攻撃に巻き込まれ綺麗にポリゴンと化した。


 消えゆくなか、ガラルドの台詞が無情に聴こえる。


「フン! 雑魚め!」




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