表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悠久ラビリンス  作者: 手乗文鳥
本章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/28

絹のクロスと占いの再現

-20-


部屋に入ると空調の匂いと、部屋に染み付いたタバコの匂いがうっすらと鼻をくすぐる。


ソファに座り、赤と黒と鏡だけの部屋の内装を眺め、宏はしばらく部屋の歴史について思いを馳せた。


鏡を見ていると、パラレルな世界に迷いこんだ気がしてくるが、そんなことはなく、普通に現実が歪んでいるのだろう。


しばらく後、ドアがノックされ、開くと前と変わらずベルボトム気味のパンツでゴールドブラウンのエクステを盛り過ぎ、ブランドカバン二つを肩から下げ、これまたブランドの黒スーツの細面のマリーが立っていた。


シャツは茶色のモノグラムが沢山入った白の光沢あるどこかのブランドものだった。


ディープブルーのカラーコンタクトの深い瞳の奥から「フフフ」とまた含みのある笑みを浮かべ、


「やっと正直になられましたか聖者様」


というと部屋に入りケーキの入った紙袋と、アップルティーのペットボトルを二本テーブルに置いた。


紙袋にはオレンジ色の文字で


「甘味タルト専門処 カッパのお皿」


と書かれその下にはファンシーでポップな河童のイラストがこれまたオレンジで描かれていた。


マリーはソファに座ると、


「とりあえず開けましょう」というと


ケーキの箱を開けた。

中には小さなブルーベリータルトが二つ入っていた。

取り出すと、プラスチックのフォークを添え宏に勧めた。


マリーはアップルティーを少し飲むと


「少し静か過ぎますね」


というと、ベットの方に行き、スマートフォンとスピーカーの接続を確認すると小さな音で音楽を流し始めた。


Jesus and Mary Chainの「Some Candy Talking」が流れ始めた。


宏はマリーがなんでこの曲を知ってるのか怪訝に思いつつ。


タルトに手をつけながら


「色々あったんだけど、河童が見えたり、シャム猫が現れたり、デジャヴに襲われたりね、あなたはなにかしたのかな?」


と尋ねた。


「フフフ、それはどうでしょう?

暑いと感覚も少しおかしくなります。


シャム猫はどこでも居ますし、エジプトの壁画風にポーズもします。

このあたりは河童の多い所なのでここに来るまで三回、河童をみかけたはずです」


宏はそこまで詳しく説明していないのにマリーは宏の状況をよく知っていた。


それからマリーは宏が聞く前から聞こうとしていた事に答え始めた。


「お店ですか?まぁ、何店舗かありますよ。お客さんはだいたい外国人が半分位ですね。夫婦か、カップルか...


一組で何個か買ってく人もいますね。自分達で使うか、頼まれてるか、転売するのか、わかりませんけど」


「実家のスナックは最近はカウンターには入ってませんね」


「母の副業ですか?

うーん、まぁ、あれは、結局胴元次第ですね」


と少し神経質な顔をした。


マリーは話す都度インカムから聞こえてきたセリフを確認して復唱する時の様な間と表情をした。


おまけにかかる曲は宏に耳馴染みのある曲ばかりで、とてもマリーの趣味とは思えない。


しまいにスティーブ・ライヒの「18人の音楽家のための音楽」がかかり、この時に宏は完全に頭の中がハッキングされ抜き取られていると確信した。


マリーは更に宏に


「フフフ、私もAB型で〇〇銀行の口座は二つ持っててどっちも休眠状態なんですよ。暗証番号は✕✕✕✕です」


と言った。


それは宏の個人情報だった。


-21-


しばらく話したあとマリーは


「まだしばらくお話したいですか?それとも...」


といいつつ宏を見ると。


「まだ、しばらくお話しましょうか。時間は特に気にしていないので...」


というとバッグからタロットカードを取り出し、


「宏さんの運勢をみてみましょう」


と、星空模様の入った絹のクロスをテーブルに敷き、よく混ぜたカードをまとめると

宏に三列に分けてから好きな順番で一つの山にまとめるように言った。


宏が手順に従ってそれを行うとまとめた山の中から三枚選ばせると左から右に並べさせた。


表に向けていくと過去を示す一枚目は「月」だったが、現在を示す二枚目は「愚者」で未来を示す三枚目は「吊るされた男」だった。


マリーは上着を脱いで、結果について何も言わず、もう一度カードを混ぜると同じ手順を繰り返させた。


過去、現在はともかくも三枚目の未来は「吊るされた男」だった。


マリーはシャツを脱ぐと上半身の肌をあらわにした。右の肩には薔薇のタトゥーが入っていて大きくカーブした腰のあたりにユリのタトゥーが入っていた。


何度やり直しても、三枚目は「吊るされた男」になり、しまいにそれが逆位置になった。

マリーは占いの結果を説明しなかった。


やり直すたび身に着けていたものを外していき、最後は下着だけになった。


ライトグリーンの光沢ある下着がそれぞれ、薔薇とユリのタトゥーの枝やプランターの様に見えた。


宏は以前にも別の状況でタロット占いをしてもらった事があった。

何度やり直しても「吊るされた男」ばかり出るといった事があった。

状況が再現していた。


マリーは


「フフフ、まぁ、コレはあくまで占いですからね。それに普通はやりなおしません」


と笑うと宏をベットの脇に連れて行き、勢いよく突き飛ばした。


宏がベットに倒れ込むと、自分が身につけていた残りの下着も全部とってしまうと


「私は先に入りますが、どうされますか?」


とバスルームの方を指さした。

それからまた「正直に」というと宏の手を引っ張るとバスルームの方に歩き出した。


-22-


時間がどれほどたったか分からないけれど宏が目を覚ますと、横でマリーは胸をはだけたまま、寝息を立てていた。

宏が肩のタトゥーを眺めていると目を覚まし、目をこすると


「お気は済みましたか?」


と尋ねると宏の腹の辺りに人差し指で爪を立てると少し上に押し上げた。


その時、宏のその辺りから記憶の泥を突き破るように産まれてからこれまでの喜怒哀楽全ての感情が胸の辺りまで突き抜けた。


ほんの一瞬の出来事であったがそこには宏の記憶の始まる以前の感情も含まれていた。


宏は自分の体がビルの吹き抜けの様に感じた。


マリーは不思議な笑みを浮かべたまま宏の方を見ながら言った。


「全ては記憶、記録されていますがそれを思い出すのは容易ではありません」


宏が無言でいると起き出し、


「もう、いいんですね?」


というとヴァイオリンの様な背中を宏に向け下着をつけた。


そして、アップルティーを飲みながらベットに座るともつれている髪を直しながら話し始めた。


「土地には記憶があります。それを抽出して読み解くことができます」


と言った。


「人の体にはわずかに電気が流れています。どこかの場所に強い意識が向けられると、向けられた場所には少しづつそれが流れて行き蓄積されます。


向ける力が強いほど、向けた人の数が多いほど、向けられた時間が長いほど多く蓄積します。空にも滞留します」


と言った。


宏がうなずくと


「土地とは別に意識も別の場所に蓄積します。それはそれで一つの大きな領域を形成します。時には土地と結びつくことがあります」


一息ついてからマリーは


「いずれの領域も長い時間の中でかなりセンシティブな部分が発生してきます。

それはモニタされ、管理されています。異常がないか、侵入してくるものがいないか」


と言った。

宏は怪訝な顔をした。


マリーはまるでサーバー管理者が「これは仕様です」と言う時の様な顔で


「そういう設定なんです。運用する際の」


と言った。

それから肩と腰を指さし、

「このタトゥーはシールです。気づいてましたか?」


と尋ねてきた。


宏は「いや」と答えるとマリーは


「その時々で柄を選べた方が便利なんですよね。腕の内側のだけは本物ですけど」

と付け加えた。


そして、また服を全部身につけると


「フフフ、また呼んで下さいね」


とバッグからカードを取り出すと宏に渡した。

カードの表にはヨーロッパのどこかのサッカーチームが円陣を組んでるようなイラストが描かれ


その下には「カトリックのクソ野郎」と明朝体の白抜きの文字で印刷され、その下の角丸四角形にはピンク色のペンで電話番号がかかれ最後にハートマークが描かれていた。


裏面はまたコミック調にプロビデンスの目が描かれ、その下には「1963 Dallas, Texas」と白抜きで印字され、紳士風の腕が正面向きに握手を求めて手を差し出すイラストが描かれていた。


宏は腹の底からこみ上げるどこかから召喚されてきたような不気味な可笑しさをこらえ、過剰な隠喩が詰め込まれたファンシーでポップなカードを受け取った。


マリーは黒とピンクのブランドもののバッグをまた肩から二つ下げると


「フフフ、今度はその文言で呼び出してくださいね。絶対ですよ」


と言うとドアに向かい


「今日のカトリックゲームは楽しかったですか?今度はプロテスタントモードがいいですか?ではまた近いうちに」


と言うと宏の返事を待たず、手を振り帰って行った。


マリーが居なくなると、部屋の中は祭りの後の様に静かになった。


宏はしばらく気分を落ち着けてからテーブルの上にあったアップルティーを飲むと、支度を整え部屋をでた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ