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魔法少年を解放しろ!  作者: アブ信者
夏休みへ
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目覚め

「安らかに眠ってるわね」


「言いたいことは分かるけど言い方が悪いと思う」


 と、朝から縁起でもないことを言う姉さん。


 目の前には、姉さんのベッドで眠る会長がいた。ボロボロなことと、袖だとか裾だとかから血の跡を覗かせていることを除けば、概ね安眠していると言って差し支えなかった。


 昨夜は結局起きることのなかった会長を、姉さんがウニョウニョ君を使って部屋まで運びんで寝かせていたのだ。それはもう丁重に、この間までの険悪な関係性はどこへ行ってしまったのかと思わず問いたくなるような扱い方であった。


 まぁ、実際に聞くワケにもいかないので、何か心境の変化でもあったのだろうと思うことにした。


 しかしそうなると、今度はその代わりに姉さんが俺と寝ることになり、この人は抱き着く癖でもあるのか、夏の夜ということも相まってクソ暑かった。


 どうせ誰かと寝るならこっちで寝ればよかったな。


 会長を見下ろして思案していると、横から頬を抓られた。


「いひゃいひゃい…!」


「何考えてたの?」


「え、いや、姉さんが客人にこういう配慮できるんだなって──いひゃいいひゃいいひゃいいひゃい!!」


 言い訳しようと言葉を紡いだ瞬間抓る力が倍増した。何かが気に食わなかったんだろう。それか朝ごはんを食わないうちにこうしているから、空腹で苛立っているのかもしれない。


「あんたちょいちょい私のことバカにしてるわよね?」


「バカにしてるっていうかそもそもバカっていうか…あ、何でもないです仕舞ってください」


 また余計なことが口から洩れていたのか、伸びてきたウニョウニョ君が刃物のような形に変化し、俺の首に迫った。


「あぁ……楓さん、多分颯くんは改めて楓さんの事を知っている最中なんだと思いますよ」


「……私を?」


 エルゼが横から入れてきた一言に、姉さんが確認を取るようにこちらを見た。それに対して俺は全力で頷いた。ここで迷いを見せたらもう取り繕えなくなると、そう直感して。いや、この場合は経験則というべきだろうか、どちらでもいいのだが、とにかく首が外れてしまうのではというような勢いで、ひたすらに首を振り続けた。


「そ、そう?……とはならないわよ。さっきあんた言ったわよね?言いたいことは分かるけど言い方が悪いって。まんまそれじゃないの」


「うぃ……すみません」


 シュルシュルと戻っていくウニョウニョ君を見て、何とか許されたのだと確信する。


「君達は、仲がいいね」


 そこに、いつの間にか目を覚ました会長が入った。


「あ、会長起きた」


「やっと起きたわね…何時だと思ってるのよ」


 などと姉さんは言うが、現在時刻は10時を15分程回ったところ。


 やっとと言うほどでもないと思うが、姉さんでさえ起きているのにも関わらず眠りこけていたのだから、まぁ確かに寝坊と言って差し支えないのだろう。


 頬を抓られながら、俺はそう思ったのだった。


 △▼△▼△▼△▼△


「昨日は……すまなかった」


 部屋を出た会長は俺たちと共にリビングに降りると、開口一番にそう言って謝った。


 ただ俺は、何を謝っているのかが分からなかった。


 俺や姉さんをあの2つの拠点へと差し向けたことを言っているのだろうか。姉さんと会長の間に一体どのような会話がなされたのかは俺の知るところではないが、もしそのことで何かを言うのなら、俺にまで謝ることも無いのだろうし、考えられることとしてはそれくらいのモノだろう。


「君達を利用するような真似をして、悪かった」


 会長はそう言って、謝りなおした。


 姉さんから大体のことは聞いている。詳しいことまでは分からなかったけれど、何でも勝つことに拘る様子を見せていたとのことであった。しかしそのせいであわや死に掛けていたという話を聞いたときはどうしてと驚いた。


 それが会長なりの正義感というものなのかもしれないが、だからといって自分の命との等価交換はできないと思う俺である。


 姉さんはまだ少し複雑そうな顔をしていたものの、俺としては別に許すも許さないもなく、その謝罪は謝罪として受け取ることになり、会長は会長で、俺が拠点内で見つけた資料を受け取ることで終わった。


 その後会長はシャワーを浴びに行くと、俺達と朝食をとることとなり、始めこそ遠慮していたものの、とうとう腹の音を誤魔化すことも出来ず、リビングに戻ってきた。


「血が乾いてて取るのが大変だったよ」


 そう言って席に着いた会長は、普段と違って見えた。湯上りというものはそういうものなのだろうか?


 昨日は姉さんが寝る前に見えるところの血を頑張って落としていたが、それでも大変だったそうで、手首を少し痛そうに擦っていた。個人的にはそういう時こそウニョウニョ君を使えばいいんじゃないかと思ったが、後から言っても怒られる気がしたので言わなかった。


 普段の姉さんならそういう大変な作業は総じて俺に投げっぱなしにするものだから少し期待──じゃない、警戒したのだが、流石に投げていいものとそうでないものは区別したうえで投げているらしい。 


「助かったよ。流石に血塗れで帰ったら屋敷の人達を怖がらせただろうから」


 屋敷…!この人がどこに住んでるのかは知らなかったけど…屋敷!


 それに屋敷の人間と言っていたことからも、恐らくはメイドとかがいるのだろう。


 メイド……メイドか……以前までの俺なら我が家に1人くらいは欲しいとか思っていたのかもしれないが、文化祭を経てか、あまりそうも思わなくなっている自分がいる。それは少しだけ、悲しいことなのかもしれない。


 俺は皿への盛り付けが終わると、会長と姉さんの下に運ぶ。やはり腹が減っていたのだろう。姉さんは渡すなりなんなり、さっさと食べ始めてしまった。


「ありがとう。いただくよ」


 少しは見習ってみろ。そんな目を姉さんに向けると、糧にありついた獣のような目で睨み返されたので、俺は台所に引っ込み、自分の分を運び出す。


 ベーコンの上に卵を落として焼いたものだが、作ってみると意外と楽なもので、その上何となく食べた感じがするからという理由で両親がいない間の朝食にしていた──楽とは言っても、学校があればわざわざ作りたいとは思わないし、そういう意味で母さんには頭が上がらないのだが。


 それを焼いた食パンと共に食べていく。


 何の予定も入っていない朝にこうしてゆっくりと取る食事というのは、それだけでどこか楽しいものである。普段が普段だからこそ、俺は心からそう思える。こうした朝を送れることの方が、魔族に勝った時よりも、よっぽど嬉しい。


「まぁ、会長からすれば…アレでしょうけど」


 流石に金持ちの家で出てくる食事と比較されては、勝ち目はないのかもしれないけれど。


 そう言うと、俺の言いたいことを察したのか、会長は口に運んでいたパンを置いた。


「屋敷の人達も良いものを作ってくれているのは分かるんだけどね……広い部屋で1人で食べる食事は……どうにも美味しいとは思えなくて」


 その言葉に、がぶがぶと激甘のコーヒーを流し込んでいた姉さんと、いざ食べ進めようとしていた俺の動きが止まった。


 思った以上に重たい返しが出てきてしまった。


 姉さんが目線で何とかしろと伝えてくるが、俺にもどうすればいいのかなんて分からない。


 しかし、やらねば──やられる。


「そ、そうなんですか…えぇーっと…あ、そ、それより会長…!」


「……?どうしたんだい?」


 無理矢理にでも話を変えようと、話題をねじ込み、流れを変えることにする。かなり雑だが、とにかくこの話題を次のシーンにまで引きずらなければいいのだ。


「朝帰りとかして大丈夫だったんですか?」


 そう考えて──いや、この時の俺は瞬時の判断を求められていたせいか、そこまで何も考えられていなかったのかもしれないが、そう尋ねた。


「あぁ…両親はどちらも仕事ばかりで家には滅多に帰ってこないからね。私が一日二日いなくなったところで心配なんてしないよ。だから大丈夫」


 その言葉に、再び部屋全体が凍り付いた。


 何も流れ変わんなかった……っ!


 夏の朝だというのに、エアコンもまだ完全には効いていないというのに、空気は冷えに冷え切っていた。


 姉さんが再度ふざけるな的な視線を送ってくるが、だったら自分で何とかしてくれとしか言いようもなく、俺は途方に暮れた。一日は始まったばかりであったが、暮れてしまったのだ。


「あはは……ごめんね、変な話して。でも、だからこそ今日の朝ご飯はとても……美味しいよ」


 そんな空気を察してか、会長が気を使って話を終わらせてくれたものの、その締め方すら重たかった。


 食べた以上に胃もたれがしたように感じられたのは、姉さんも同じだったらしい。


「なんであんな話したのよ!なんか帰らせるのが可哀想になるじゃない!」


「そんなこと言われても…」


 食後。


 リビングの外に連れ出され、姉さんに小声での抗議を受ける。会長はリラと何やら話をしていたからその隙に、だ。


 こちらとしてもわざとだったワケじゃないし、まさか会長の家がそんな典型的な金持ち家庭だとは思っていなかったのだ。そういう意味で俺は自己中心的な思考の持ち主なのかもしれないが、これに関しては仕方が無いと思う。あんなまともで立派で、皆から慕われて信頼されるような人が、まさかそんな悲しい家で育っているだなんて、どうして考えられるのだろうか。


 ああいう人は普通──普通といっても人それぞれ違うわけだから何とも言い難いものではあるのだが、想像するに、温かい家庭で育っているものだと、思ってしまうものではないだろうか。


 広い部屋で1人ポツンと食べるご飯は、どれだけ温かいものを出したところで際限なく冷え切ったモノなのだろう。そういう寂しい環境で育つことを余儀なくされた人間は、その性格や人間性に、そう言った色が出てしまうものなのではないのだろうか。


 そんな話を聞いた姉さんは、会長に対して思うところがあったらしい。


「だからってどうするの。家で預かるわけでもなし、家庭環境を解決できるわけでもなし」


「いや、別に預かるとかじゃないけど……」


 図星だったのだろうか、少し狼狽えたように見えた。前までは嫌ってる風に見えたが、人って背景1つで簡単に転がるんだな。


 俺も思うところがなかったわけではないが、あくまでも他の家の事情。首を突っ込むものじゃないと言うと、それでも不満そうにはしていたが、取り敢えず俺にお門違いな文句を言うことは止めてくれた。


 それはそれとして。


「いや、話の流れ変え損なったのはあんたの責任でしょ」


「うぐっ…」


 当たっているのだから何も言えない。


 その後、会長は旅行そのものは日程通り行われることを俺達に伝えると、昼過ぎには帰っていったのだった。

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