正義
「よし、これで最後かな」
床に転がる戦闘員達から戦利品を回収していくこと数分。碌に何も持っていないことに腹を立てたりしながらも回収は何とか終わった。
「なぁ、これなんだと思う?」
俺はその中でも1つ気になる物を見つけて、それを眺めていた。初めに倒したブレイカーの山崎 彰のポケットから見つかったそれは、金と銀の蛇を模したオブジェクトのようなものであった。
絡み合っているようにも見えたが取り外しができるような構造で、しかしキーホルダーというワケでもネックレスの一部というワケでもなく、用途不明のオブジェクトであった。
取り敢えず友好の証という事で頂戴したのだが、使い道が分からない。質屋にでも入れればいいのだろうか。なかなかキラキラしていて綺麗だし、二束三文くらいにはなりそうだ。
例えばこれがゲームなどであれば、コレをどこかにはめ込むことで扉が開いたりするわけなのだが、流石にそれも無いだろう。もし仮にそうだったとしても、壁を破ればいいのだからどちらにせよだ。
「何でしょうか。微細ではありますが魔力反応があるのでそういうものだとは思うのですが……現状使い道があるとは思えませんね」
「本当に意味のないオブジェなのか」
光に透かして見ても、特に何かが現れたりもしなかった。しかしこうして見てみるとあれだな、サービスエリアのお土産コーナーにある、謎のストラップを彷彿とさせるデザインしてるんだな。小学生の頃の俺がやたら好きだったあのデザイン。
「はい。ただそれに関しては一般の手に渡っても碌なことにならないと思いますし、颯くんの方で管理しておいてください」
「言われなくてもそうするけど……さて。残るはアイツか」
「そういえば残ってましたっけ。早いところ終わらせてしまいましょうか」
鞄の中に黄白の蛇を放り込むと、俺は2階に跳び上がり、足を進めることにした。
「それにしても何が目的の施設なのかよくわかんないな」
「軽く見てみた限りでは人工的に悪魔憑きを作り出すことのできる施設……というのがこの拠点らしいです」
「──そう……あの変な機械は……そういう」
俺は奴らを叩き潰す最中、慈悲なぞを与えようという気にはなれなかった。
奴らはどうにも考え方の面でおかしい。悪魔憑きになったことを「自分は選ばれたのだ」とか、その力の事を天の恵みかのように扱っていたりだとか、悪魔憑きでいる自分を誇りに思っている節があった。
それは、それだけは許したくなかった。
理由なんて明白なんだろうけど、まぁつまりはそれだけの理由で、もちろん笑われて腹が立っていたというのは認めざるを得ないものの──そういう理由で殲滅したのだった。
「どこ行ったんだろ」
「どこ行ったんでしょうか」
「前に使ってた目的地までの道を示す魔法とか使えないの?」
以前副会長と一緒に夜の学校に忍び込んだ時のことを思い返し、その時に見た魔法は使えないのかと、ふと気になって訊いた。
「あれは動体には適用されません。あくまでも特定地点への案内になります。もう少し顔や名前が割れていれば他の魔法も使えたのですけどねぇ……」
人間や動物など、あちこち動き回ることが前提のものにはその魔法を使用することが出来ないのだそう。動き回られたところでそれを追いかけさせればいいだけなのではないかとも思ったものの、出来ないというのなら出来ないのだろう。少なくとも、魔法の専門家に俺が言えることはない。
「制限はあるんだ」
「むしろ制限があるからこその便利な力だとも言えますよ。便利さだけを享受することなど出来はしませんから」
「便利さだけを感じたいと願うのも人間なんだけどな」
「ま、まぁ……人間の使う道具などであればそれも可能なんでしょうけどね。魔法というのはそういう理屈から少し離れている節がありますから」
「ふぅん……ん?」
足を止めて数歩下がった。何気なく通り過ぎそうになったが、少し気になるドアを見つけた。
「ここ……でしょうか」
セキュリティの厳重な、二重にも三重にもロックの掛けられたその部屋。こんだけガチガチに固めているのだから、きっと碌でもない何かがあるに違いない。
改めて見ればいかにもといった様相を呈している割には、あまり目立たないその部屋。実に怪しい。
となれば当然俺の取る選択肢など1つなわけで、初めからロックの解除など行うつもりのない俺はドアの前に立った。
そしてそこから数歩ほど下がる。
「ふぅぅぅ………はっ!やっ!!ほりゃっ!!!」
息を吸い込むと1発、2発、3発と回転を加えながら蹴りを放ち、その扉を突き破った。
「なっ……!?」
「ここで合ってたか」
「まさか、あの数の戦闘員達を突破してきたというのですか……っ!?」
「そうじゃなきゃここにいる俺は何だって話だろ」
「……そ、そうですか、そうですか。いいでしょう、褒めて差し上げましょう」
ロングコートは腕をこれでもかと前に伸ばすと、わざとらしく拍手をした。乾いた音が広い部屋の中で空虚に響いた。
そして、コイツは恐らく頭の出来が悪いのだろうと俺に思わせるのには十分な発言をしてみせた。
「では、私の右腕『ブレイカー』の山崎 彰を打ち破ったアナタのその実力に敬意を表して、是非とも私の部下になることを提案いたしましょう!」
「……は?」
「えぇ、えぇ、分かりますとも!理解できましょうとも!突然の素晴らしき提案に呆然とするアナタの気持ちは!それはもう!」
俺は多分、物凄い表情をしていたのだろう。エルゼもまた俺の真横でそんな顔をしていた。
「ですがご安心を。私直属の部下にさえなればボスへのお目通りだってスムーズに行うことができますし、そうなればアナタの人生は上手くいくこと間違いなし!」
自然と、ステッキを握る手に力が入っていくのを感じた。いや、ボスをぶっ潰すっていうのであればここで一度乗ってボスとやらの居場所を吐かせる方がいいのだろうが……
嫌すぎる。これの下は嫌だ。あとさっき俺のこと馬鹿にしたことの報いを、コイツはまだ受けていない。
「どうですか?いえ!答えるまでもありませんね、そうでしょう?」
「…………け…」
「ん、どうしました?」
「なるわけねぇだろこのタコがッ!──スターライト・レイッ!」
極大の白色光線。
「んなっ……!!」
ロングコートの男はそれを前に、片腕を犠牲にすることで消滅を免れた。
「わ、私の腕が……腕が……!」
「あーあ。右腕を失った次は左腕も失っちゃったか」
「ゆ、許しませんよ……!絶対に許しませんッッ!!!」
「あ?」
「私にこんなことをして、私達に敵対して!ただで済むと思っているのですか!」
ロングコートが身体に吸い込まれるようにして消えていくと、それは黒く巨大なデスサイスとなった。
死神の鎌を思わせるようなそれを構え、激しくこちらを睨みつけていた。
「俺はただで済むと思ってるけど、お前はこんなもんじゃ済まさねぇよ」
「何を……ッ!?」
鎌が、夜闇を、死を思わせるようなそれが砕けた。
「ひっ……!」
俺は悠然と歩を進め、距離を詰めていく。
ロングコートが消えたことでその醜悪な面を見せることとなった男は、叫び声を上げながら尻餅をつき、残った右腕を動かしては後ずさる。
「何なん……何なんですかアナタはッ!」
男は吠える。涙やら鼻水やらで元からぐちゃぐちゃな顔がより醜くなったと、俺は顔を顰めた。
「私が、私が何を……どんな悪事を働いたというのですかッ!」
「……は?」
「私は殺されなければならないような罪を犯したのですか!?違うッ!なのに、何故こんな事を……ッ!何なんだお前はッ!!」
その理解できない相手に足を止め、逡巡してから言った。
「別に俺は警察でもなければ検察でもない。裁判官でもなければ弁護士でもない」
「じゃあ……ッ!」
「俺は善人じゃないし、法律そのものでもない。法律に照らし合わせてお前を裁くわけじゃないし、その罪に見合った罰を与えるわけじゃない」
「何を……やめ、近づくなッ!!」
「そもそも法律は人間の為の物なんだから。俺もお前も四捨五入すりゃ最早人間じゃないんだし、そんなものはどうだっていいんだよ」
「く、来るなッ……!!」
「何が悪いのかと言えば、俺がお前より強かったのが悪い。お前が弱いのが悪い。そんなお前らがしょうもないことしてくれたのが悪い──会長にあんな事を、あんな顔をさせたのが悪い」
男を蹴り上げ、丹田を撃ち抜いた。凄まじい速度で男は吹き飛んでいき、壁に叩きつけられた。
俺には正義があって、向こうにも多分正義とかがあったのだろう。ただそれがぶつかった時、優先されるのは、優先されるべきは、より強い方の正義なのだと俺は思う。
正義が勝つんじゃない。どちらかの正義が負けるんだ。
そしてその勝ち負けを決めるのは、この場合においては強さだ。金でも地位でも賢さでもなく、ただただ強さだけが、それを押し通すために必要なものだった。それだけ。
「だからお前は負けるんだ」
「カハッ──!」
「スターライト・レイ!!」
瞬間的に魔力を集め放ったそれはブレることなく突き進み、男は名を名乗ることも無く、ただ白き光の奔流に飲まれた。今度は外さなかった。
「さ、終わりっと」
俺は溜息交じりにそう呟くと、踵を返してその部屋を出ていった。
まだ漁っていない部屋もあったはずだと、残された金品や備蓄品、この施設に関する書類などを回収しに向かう。
「……そうですねぇ…………?」
その後ろで、壁を突き破り夜空に向かって突き進み続けた白い光が、何者かに命中したことを知る事さえなく、俺はその場を去ったのだった。




