妄信
「送ったけど……本当にこれでいいのかい?」
流華はスマホの画面を眺めながら、横にいるリラに問いかけた。
映し出されているのは颯とのトーク画面。退魔課の人間が得た情報を颯に送信したところであった。
本来であれば問題行動であるこれは流華の意志で行われたものではなく、有無を言わさぬリラの指示によって行われたことであった。
「ええ。これで問題ありません。あとはアイツ……エルゼが適当に唆すでしょうから」
「でもこれだと利用するみたいで……」
「私もエルゼも目的は同じです。ですから気にする必要もないのです」
リラはわざとらしいほどに大きく頷きながら考える。
今の流華にこれ以上悪魔憑きを殺して回らせるのは危険である、と。しかしそれはそれとして、この忌々しい組織との決着をつけなくてはならないというのもまた事実。故にエルゼを、というよりはエルゼの性格を利用し颯を、あわよくば楓をも嗾けようと試みた。
過程は少し違えど、結果的には上手くいっていた。
「それも奴はあの性格です。あの人間を無理にでも引っ張り出すでしょうから、早ければ今日にでもこの2つは襲撃を受けるとみていいでしょう」
「そう……なのか」
そんなリラの中らずと雖も遠からずな、場合によっては希望的観測やただの願望とも言えるような言葉を聞き、目を細めた。
「えぇ。ですからその後彼らと合流して決着を──」
そんな流華に対しリラは颯らとの共闘を提案しようとして、遮られた。
「分かった。私はもう1つ、首魁を叩きに行くことにする」
ここで言うもう1つというのは、颯に渡した2つの拠点の位置とは違うもう1つの拠点の事で、それはこの秘密結社オメガの頂点に立つ魔族がいるであろう場所を示したものである。場所としては先の2つとそこまで距離があったわけではないが、それなりの距離の場所でもある。
颯に渡した2つの拠点はここ加賀浜にある双子山と呼ばれる、東西に大きく伸びた連なる山にそれぞれ発見されたもので、残る1つはそこから方角としては北、そこにあるもう1つの大きな山の頂点に位置していた。
リラはこの情報だけは秘匿するように言った。それはただ、流華の知らない間に事が終わっているといった状況を回避すべきだと感じたからだ。
この事件、過程はどうあれ流華がケリをつけるというのが一番理想的と言えるだろう。
だがその終幕の舞台に流華が1人で立っている必要性までは感じていなかった。故にリラは不愉快で癪で気に入らなくて忌々しくて仕方のないことではあったものの、エルゼらとともにその終わりへと向かうべきだと考えていた。
「え?いや、あの、流華?」
リラは戸惑った。あの日から焦りを隠すことさえしなくなった流華に。リラは人間の感情の様なものには疎かったし、これまでは気にすることさえしてこなかった。しかしそれでも、これはおかしいと思わせるだけの状態に流華は陥っていた。
いや、原因自体は流石にリラでも理解できていた。しかしそれをどうこうする術を知らない。
リラにだって親という概念くらいはあるものの、精霊にとってのそれは単に同じ場所で生まれただとか、似たような性質を持っていただとかそういう話でしかなく、人間からすれば「親というよりは同族」程度の希薄なものであったのだ。
「ですから、その、彼等とも合流を──」
「必要ない。放置すれば問題を起こすような連中だ。颯君が向こうの拠点を潰してくれるのなら、こちらも早急に動くべきだろう」
「流華、貴女のそれは性急や早計と言われるものです。気が逸るのも理解は出来ますが、だからこそ慎重に行くべきではないのですか?」
「慎重に慎重を重ねていた挙句がこれだ。問題ない。私は負けないから」
「流華……」
今の流華が行って果たして上手くいくのか、リラはそれを肯定できないでいる。ハッキリ言って、今の流華は弱い。それは前から把握していて、だからこそリラは流華に自信を取り戻させることが必要だと感じていた。
神など最早信じずともよい。だからせめて自分を信じていられるように、その材料となる結果を流華が得られるようにすることこそが先決で、その前に危険な行動をとらせるわけにもいかない。
結果に裏打ちされた自分への信頼と、結果を急ぐあまりに自身の力を過信し勝利を妄信するのとでは何もかもが違う。それではダメなのだ。
しかし、止められそうもなかった、止められようもなかった。
方法が無いわけではなかった。でもそれをすれば元の木阿弥であり確実に拗れる。
二度目が無いことくらい、理解できていた。
「底の浅い敵であることを祈るのみ……なのですか」
このことをエルゼに知られれば何を言われるか分かったものではない。ルルに関しては仲がいい悪いではなく接点が無かった。
こういうことを気軽に相談できる相手であればこんな風に悩むことも無かったのだろうかと、リラは今も吞気にしているであろうエルゼを思い浮かべ、虚空を睨みつけた。




