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魔法少年を解放しろ!  作者: アブ信者
夏休みへ
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怪魚

「どこにいるんだろうね~?」


「どこにいるんでしょうねぇ」


「かまぼこ工場」


「縁起でもないこと言わないで下さいよ」

 

「かまぼこは縁起物だよ」

 

「知恵が増える~」


「そういう事じゃないんですけど…」


 鮫頭には人間に見つからないよう隠れておけと伝えると、俺たちは浜辺を離れてシャクジローこと怪魚を探しに出ていた。


 探すときにはシャクジローなんて他人に言っても伝わらないし、怪魚を探していると聞いて回る方がいいだろう。


 シャクジローの写真でもあればよかったのだが、魚人がそんなものを持っているはずもなく、俺たちは何とかして情報を集めないといけなかった。


 ま、写真を見せたところで、CGだとか画像生成が蔓延るこの時代で、果たして本物だと信じてもらえるのかって話だけど。


 そんなわけでまず最初に手を付けたのはSNS。


 何でもかんでも写真に収めてネット上に上げるのは現代人の悪い癖だが、ことこういう状況では存分に利用できると考えた。


 のだが。


「なんてワードで検索入れたら引っかかるのかな~?」


「デカい魚とかですかねぇ…これも違いますし…うぅん…」


 それぞれスマホの画面とにらめっこする副会長とエルゼ。


 俺のはいつの間にかエルゼが操作していた。ナマコを触った手で操作するのかと顔を顰めたが、当人はどこ吹く風であった。


 前々からそうだが、コイツは暇さえあればネットサーフィンしてるからな。


 空から探すというのも考えはしたのだが、相手が海に潜っていてはどちらにせよ見つけるのは困難。


 だからこうして現代人的な手段で探すことにしたのだが、なかなかそれらしいものが見つからない。


「見つからないね~」


「颯くん、やはり捜査は足で稼ぐと言いますし、辺りの人に聞いてみましょう!」


「えぇ…もういいじゃん…コンビニでかまぼこ買って渡して帰ろうよ…これがシャクジローだよって」


「だから何でシャクジローをかまぼこにしたがるんですか颯くんは!」


 エルゼから携帯を受け取ると、時間と電池残量を確認してポケットにしまい込んだ。


 充電はしていたはずがいつの間にか残り3割ほどまでに減ってしまっていることに不安を覚えたが、大丈夫だろうと気にしないことにした。


 海辺から離れても人は多かったが、ここらで話を聞いても何も得られないであろうことは明白なので、俺たちは別の海沿いにいる人たちを探して歩き始めた。


 海の生き物を探すなら海の人間に聞くのがいい。


 もしそこに人だかりでもできていようものなら大当たりなのだし。


 少し行くと、車通りこそあれど人がそう多くいるわけでもない、そんな海沿いの道に出た。


 俺たちはそこで一度足を止めた。


 ガードレールの向こうでは、青い海が太陽の光を受けて煌いている。


 副会長は白いワンピースに身を包み、その裾を温い風が揺らす。


 こうしてみると画になるな。


「黙れば何ちゃらってやつか…」


「……ん~?」


 少し先に海を眺める人を見つけると、そちらへ向かって歩き出した。


 麦藁帽子をかぶり、薄手のアロハシャツを着た爺さんがそこにはいた。腕を後ろに回し、腰を少し曲げて海を眺めている。


 その瞳は少年のようにキラキラと輝いているように見えた。だから何か知っていると思ったのだが……


「あの…すいません」


「おぉ、少年。なんじゃ?お主もこの海を見に来たのか?」


「いや、怪魚を探してるんですけど…」


「分かるぞ。この海がきれいだからつい見に来てしまったんじゃろ」


「違います怪魚を…」


「こうしてただ海を眺めておるとな、一日中遊んで回ったあの頃を思い出して──」


 長くなりそうだったので立ち去ることにした。


「話聞かないジジイだな」


「校長先生もあんな感じだよね~」


「颯くん、あっちにも人いますよ!行きましょう!」


 エルゼに連れられ、また少し離れたところで釣竿を担いで歩く男に近付く。その男は右手には竿を、左手にはクーラーボックスを提げて歩いていた。


 これから釣りにでも行くのだろうか、それとも釣りを終えた帰りだろうか。どちらでもいいが、何か知らないか話を聞くことに。


「すいません」


「おぉ?なんでぇ坊主。お前さんも釣りに来たのか?」


「いや、怪魚を探しに来たんですけど…」


「この海は隠れた釣りの名所だからな!遊びに来るやつも多いが、俺たちみたいな釣り人も多い!」


「違います怪魚です」


「まぁ、お嬢ちゃんにいい所見せられるようにがんばれよ!」


 そう言って歩き去ってしまった。


 堤防がその先にあるのが目に入ったので、そこに向かうのだろう。


 すでに何人かが釣竿を垂らしているようであった。


「ねぇ。この街の人は話を聞かないの?」


「聞かないね~」


「2人も話聞かないこと多いじゃないですか」


「やっぱり人間はあてにならないな。どうしよう」


「どうしよっか~」


「…………」


 そこで1つ思いついたことがあり、俺は人目を避けるために建物の陰に隠れた。そして変身を済ませると、ゆっくりと空に浮かぶ。


 副会長は置いていこうかと思ったのだが、両手を上げて一緒に行く気満々だったので連れていくことに。


 俺は天高く上昇しきると、とある島を探して洋上を飛び回る。


 以前は夜だったのであまりちゃんと見えていなかったが、昼間は明るかったこともあり、目的の島はすぐに見つかった。


 そこは以前リヴァイアさんと出会った島だった。


 相も変わらずだれもいないその島は、戦闘の跡が今も残っている。木々は薙ぎ倒され、砂浜が一部焦げていた。


 俺はそこに降り立つと、リヴァイアさんを呼び出してみる。


「リヴァイアさーん!」


「リヴァイアサン~?」


 何度か呼びかけると、海面が膨れ上がり始め、黒い大巨体が姿を現した。


「久しいな。颯よ」


「久しぶり。用事があってきたんだけど…」


 隣でドサッと音がしたので目を向けると、副会長が腰を抜かしていた。


 大きさにビビったのだろう。


「な、なに…これ……」


 素が出てるな。虫じゃないのだけれど。


「あれはリヴァイアさん。さん付けで呼ばないと怒るから」


「リ、リヴァイアさん…」


「違う、リヴァイアサンだ。それと娘、驚かせて悪かったな」


 そう言ってリヴァイアさんは煙をまき散らすと、前に一度見せた人の姿に変わった。


 副会長は口を開けたまま動かなくなってしまったのでエルゼに任せ、リヴァイアさんと話をしておくことに。


 リヴァイアさんが魔法か何かで作り上げた椅子に掛けた。土を固めた物だろうか。


 いいなそれ、便利そう。また今度習おう。どうせ使えるようにはならないんだろうけど。


「して颯よ。用事とは何だ?また手合わせしてくれるのか?」


「いや、それはいいや。今は怪魚を探してるんだけど」


「怪魚?」


「うん。でっかい鮫見なかった?40mはあるらしいんだけど」


「鮫…。あ…アレの事か…?」


 顎に手を当て考える仕草をしたが、すぐに何か思い当たる節があったらしく顔を上げた。


「見たの?」


「見た。というか…我を見て逃げて行きおったな」


「今はどこにいるか分かる?」


「なんだ、食いたいのか?アレは食えたものではないと思うが」


「いや、剽軽な魚人が家に帰るのに必要なんだって」


 それでもよくわからないという顔をしていたので、事の顛末を簡単に話した。


 そう改まって話すような中身もないが。


「はぁ…そうか。まぁ連れてくるくらいは可能だと思うが」


 小さく吐息をついて言った。


 あの鮫頭から泳げないことを告げられた時の俺と、同じ顔をしていたんじゃないだろうか。


「分かった。少し探しに行くとしよう。無論、礼は頂戴するがな」


 エルゼからナマコを受け取ると、椅子から立ち上がった。


「あんまり面倒なのじゃなきゃね」


「期待しておる。……それと娘…尻尾に抱き着くのはやめんか」


 すっかり調子を取り戻したのか、人の姿になったことで問題なくなったのか、副会長はリヴァイアさんの尻尾に興味津々といった表情で眼を大きく見開き抱き着いていた。


 鱗がどうなっているのかとか、どこを触るとどうなるのかなど。


 それがくすぐったかったのか、態度や声には出さなかったが話の途中、何度か顔に出ていた。


「コレって切ったらまた生えてくるの~?」


「再生はするが…切らせんぞ」


「美味しいの~?」


「味はともかくとして、龍族の血肉は毒にも薬にもなる。勧めん」


 そう言って尻尾に抱き着いたままの副会長を引きはがした。


 龍族の血は正しい手順を経ればどんな傷でも癒せる万能の薬になるそうだ。


 逆に、何もしなければどんな生き物をも殺す猛毒なのだと。


 大昔にはその血に救いを求めてきた人々に気まぐれで分け与えることもあったそうなのだが、そのせいで人間達の技術進歩が遅れるということに気が付くと、すぐにやめたらしい。


 人間と関わらなくなったのもそういったことの積み重ねの結果だと、少し懐かしそうな顔を浮かべて副会長に説明していた。


 それに満足して大人しくなったのを見ると、海に潜って姿を戻し、泳いでいった。


 存外面倒見がよかったりするのだろうか。


 龍のステーキはどんな味か知りたいし、いつか食べてみたいけど…知り合いの肉を食うのもな。


 それに人の姿を取れるリヴァイアさんは忌避感が増す。あの魚人もそうだけど。


 魔物は倒すと消えてしまうわけだから食べられないし、食べれたとしても食べたくない。なんか汚いから。


「塩コショウ振って焼けば大体美味しくなるとか言ってませんでした?」


「アレは冗談だよ」


 それから海の水に足をつけて涼んでかれこれ30分程経った頃だろうか、沖の方でリヴァイアさんが顔を出した。


 尻尾にシャクジローを巻いているため近付くことができないと、飼い主である魚人の下への案内をするよう言った。


「おぉぉ~!」


「すごいスピードですねぇぇぇぇぇぇ……!」


 再び飛んでいくのも道案内がしにくいので、リヴァイアさんの背に乗せてもらって元の浜辺に向かうことにした。


 時速何キロほどかはわからないが、新幹線よりずっと早い。


 副会長は目をキラキラさせて辺りを見回し、エルゼは置いて行かれないようにと俺の服を掴んでいるが、あまりものスピードに全身が旗のように揺られている。


 後ろを見ると、長い尻尾でグルリと巻かれた巨大な鮫、シャクジローの姿があった。


 副会長はもともとこれを見たくて俺を巻き込んだはずなのだが、完全にリヴァイアさんのほうに興味を持っていかれてしまったらしく、「お~。デカいね~」とだけ言うとすぐに目を向けることもなくなってしまった。


 流石に不憫だ。


 大した距離でもなかったので、鮫頭の待つ浜辺にはすぐについた。


 リヴァイアさんを紹介してやると、自分のペットよりも大きいその姿を見てすぐさま服従を選んだが一蹴されていた。


 弱いから要らないのだそうで。


 しばらくは粘っていたのだが、睨まれるとすぐに帰りの支度をし始めた。


「あなた方のお陰で助かりました!お礼は必ずしますので!」


「お礼って……どうやってするの。わざわざ海にまで取りに行かないよ?」


「それは…あれです!住所を教えてもらえれば海の幸でも贈りますから!」


「本当ですか!?颯くん!住所教えてください!」


 この魚人がクール便を使えるのかはよくわからないが、魚をくれるならと言う事でそれぞれ住所を教えると、シャクジローの背に乗り海に消えていく彼を見送った。


 結局名前は聞き忘れたけど…まぁいいでしょ。


 見送った後もしばらくは黙って海を眺めていたのだが、エルゼが耳元でささやいた。


「そういえば…よかったんでしょうか」


「何が?やっぱりフカヒレにするべきだったとでも?」


「そうじゃなくてですね…楓さん」


「あ?姉さん…?姉さんがどうしたの」


「颯くんが課題をしている中、遊びにでも誘おうと待っていたところを出てきてしまっているので…」


「……あ」


 俺は携帯を取り出すと時間を確認する。家を出たのは正午を少し回ったころだったはずだ。


 そして今現在の時刻が──


「あ、電池切れ……!!」


 砂浜に崩れ落ち、膝をついた。


 姉さんがどのタイミングで起床したかはわからないし、もしかするとまだ寝ている可能性も無きにしも非ずな可能性が無いことも無いような気がしてるようなしないような……


 流石にあの人が昼寝でこの時間まで寝てることはない。絶対起きてる。そんでもっていつの間にかいなくなった俺に連絡しているに違いない。


 俺は不思議そうにこちらを見る副会長を見上げると、震える声で帰ることを伝えた。


 結局副会長はここに1人で来ていたらしく、ついでに家まで送り届けてから、姉の待つ我が家へと帰還した。


 潮風でべたついた髪と磯の匂いで海に行っていたことが分かると、遊びに誘おうとしたはずの俺が姉さんを置いて遊びに行っていたと考えたらしく、長時間不満をこぼされ続けた。


 △▼△▼△▼△▼△


 そしてその数日後。


 家に差出人のよくわからない荷物が届いた。


「これって…」


「多分、いや絶対に海の幸ですよ!開けましょう!」


 届いたのは冷凍の品で、彼が何らかの手段を用いて宅配を利用できたことが分かった。


 意気揚々と箱を開封すると、宝石箱のように詰められた魚介類を見て興奮し早速中身を取り出していくことに。


「マグロだ!こっちにはホタテもある!」


「見てください颯くん!スルメイカとかの加工食品も入ってますよ!」


「おぉ…!こっちにもなんか入って────え?」


「何かありまし────え?」


 しかし。


 そこに入っていたものを見ていく中で俺とエルゼは絶句することになった。


 そこに入れられていたのは、かまぼこだった。


「これって……」


 普段何気なく言う「いただきます」の重みが変わった瞬間であった。

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