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魔法少年を解放しろ!  作者: アブ信者
学校にて
63/246

迷宮の主

「ここが備品置き場だとすると…ここは右…と見せかけて後ろが正解かな~?」


 相変わらず勘を頼りに前へ後ろへ正確な道を進んでいく千夏。


 彼女はエルゼの様に魔法を使えない以上、勘を使って進む他ない。


 そのため一つ一つの道を決める為に掛かる時間もそれなりのものだが、それでも魔法と同じ精度で道を選んでいくというのは、本来考えられないことであった。


 初見殺しの罠さえ彼女には効果がなく、そんなこんなでゴール手前まで足を進めてきた千夏。


 ゴールがどこかも彼女は分かっていないが、それでも何となく屋上を目指していた。


「電波入るかもしれないしね~」


 電波が入れば流華に頼んで助けてもらおうと考えていた。怒られるだろうけどと、流華の顔を思い浮かべながら。


「階段だ…。ということは…屋上はここか~」


 スマホのライトを点灯させ、屋上へと続く階段を照らす。普段誰も寄らない場所だからだろう、空気中に舞った埃に光が反射する。


「…………」


 彼女はここに来て初めて足を踏み出すのを躊躇った。


 鬼が出るか蛇が出るか、どちらにせよ碌なものではないが、進まなければどうにもならない。


「ま~、案外どうにでもなるか──」


 屋上へと続くドアを開けた瞬間、目に入った光景に彼女は息を飲み、そして叫んだ。


「きゃあああああああああ!!!!!!!!」


 △▼△▼△▼△▼△


「虫の知らせというやつでしょうかねぇ…何か嫌な感じがします」


「嫌な事ならもうすでに起きまくってんだろ。これ以下があるのか。最高だな」


 千夏が屋上に入ったのと同時刻、彼らもまた、屋上へ続く階段にへと1歩、また1歩と近づいていた。


 トラップに何度か──否、何十回か引っ掛かりながらも、なんとか足を進めている。


 この嫌がらせとしか言えない罠の数に、辟易するどころか怒り狂っていた。


 会話の節々に苛立ちが見え隠れしている。


「殺す、殺す、殺して殺す!灰も残さずぶち殺す!」


「テンション上がってますねぇ。程々にしてくださいよ?」


「ああ、これが終わったら次お前だからな」


「な、なんて忌々しい魔族なんでしょう!許せません!目にもの見せてやりましょう颯くん!」


 そうしてトラップを回避し続け早三十分程、ようやくゴールの前にたどり着いた。


「ま、これがゴールかどうかも分かんねぇけど…」


 階段を上がり、ドアノブに手を掛けると、鍵は開いていた。


 一呼吸の後、溜まりに溜まった怒りをぶつけるように、少し乱暴にドアを開いた。


「よくもやりやがったなこの野郎!ぶち殺してやるからなぁ!」


 人は怒りを感じた時、数秒の時間を置くとその怒りは沈静化されるのだという。


 しかし俺の場合、相手が魔族であるならば報復しないと気が済まないのだ。


 復讐は何も生まない?それもそうだろう。マイナスをゼロにする作業に生産性なんて高尚なものがあるワケない。ただ恨みを晴らすのだ、青空を塞ぐ鈍色の幕を晴らすように。それができるのなら、俺はそれでいい。


 ただそれはそれとして。


「副会長!?」


 ドアを開けると、屋上はそこかしこが虫に塗れていた。そしてその中心で、蜘蛛の糸のようなものに囚われている副会長と、それを守るように配備された虫たち。


「よだれ垂らして……あぁ、気失ってるのか」


「餌にされる前に助けないとですね」


 ちょっと服がアレな事になってしまっているから早く助けないと。蜘蛛の糸でいい感じに隠れてるみたいになってるからまだ余裕はありそうだけれど。


「おやおや、随分遅れてのゴールですね」


 そんな俺たちを出迎えたのは、甲冑のような上半身に蟻のような下半身を繋ぎ合わせた魔族だった。


 触覚を生やし、牙を突き出し、腕は鎌の様な形状をしている。


 どうやって箸持つんだろう。


「何はともあれ、我が迷宮の攻略、おめでとうございます」


「あのクソトラップ仕掛けまくったカスはテメェか…!」


 犯人を前にし怒りが噴き上がる。活火山が如くかっかしている。


「お楽しみいただけたのでしたら光栄です」


 それを理解し挑発する蟻の魔族。


「申し遅れました。私、メイズアントのタルタと申します」


「メイズアント…?」


 なるほどと思った。蟻はその習性から地下に巨大な迷宮の様な住処を作る。その能力を応用して今回の悪事を働いたと言うわけだ。


 しかし狙いがわからない。


「私は待っていたのですよ。知恵、勇気、そして運のある者の挑戦を」


「知恵…勇気…運…?」


「我が迷宮を自力で踏破する、そんな才ある存在を待ち望んでいたのです!」


「はぁ…」


「アナタ方は結局魔法の力に頼りましたが、彼女は違いました」


 こちらを冷めた目で見やり、副会長に熱い視線を向ける蟻の魔族。


「私は好きなのです。自身の作り上げた迷宮に囚われ迷う者の姿が」


 それはもう、うっとりとした目で語り続ける。


「そして!その試練を乗り越えた強者との間に子をなし、更なる強者を育てる事が!我が生涯における目標なのです!」


「え、てことは今からそこの副会長は…」


「無論、我が子を産んでもらうつもりです。そしてこれは夫婦になるための儀式!」


 最悪の回答が返ってきたことで、俺は絶句した。


「…………」


 流石にコレは副会長が不憫でならない。


「颯くん、やりましょう。ついでに僕への怒りも全部あれにぶつける感じでお願いします!」


「おや、邪魔すると言うのですか?それならば私も容赦は──」


「ファイヤー!」


 副会長以外に狙いをつけて燃やす、燃やす、燃やし尽くす。


「グギャアアアァァァァァ!!!」


 辺り一帯の小さい雑魚はそれで一掃できたのだが、親玉はどうやらそう簡単にはくたばってくれないらしい。それでも効いているというのなら、攻撃し続けるまでだ。


 △▼△▼△▼△▼△


「よくも…!よくも儀式の邪魔を…!」


 タルタは焦っていた。迷宮を自力で攻略できず、挙句魔法に頼った颯を強者だとは認識していなかった。それは常識の違いによるものであったが、そのせいでタルタは命を落とす危機に晒されている。彼の放った魔法は、自身の眷属を何もさせることなく蹴散らしてしまった。


「1つ目、2つ目、3つ目と…」


 颯がタルタに近づきながら言う。


 辺りを見回すと、もう眷属のほとんどが焼き払われてしまっている。


「な、何を…?」


「4つ目、5つ目、6つ目。コレら全部回って思ったんだよ」


 彼の足音は小さいが、そこには確かな威圧感が存在していた。


 その1歩1歩が、死へのカウントダウンの様にさえ聞こえる。


「何を…言っている……?」


「世の中には、いろんな奴がいて、いろんな癖があるんだって事を」


 タルタは攻撃の機会を窺うが、そこには一寸の隙もなかった。


「意味が、意味がわからない!来るなっ!」


 それでもと攻撃を加えていく。鎌を振り下ろすがそれは当たらない。どころか、鎌を弾き飛ばされることで腕がおかしな方向へと曲げられる。


「七不思議は性癖展示場じゃねぇとか、いろいろ言いたいことはあるけど、それはいいとして」


 口からは酸を吐く。体内で生成した鋼をドロドロに溶かすことのできる強力な酸。しかし、それはいとも容易く弾かれてしまい、魔族としての本能が逃げろと訴える。


 目の前にいる存在は生物として遥かに格上だと。


「だけど…コレだけは言える」


「く、来るなぁっ!!…………っ!?」


 それでも残るタルタの魔族としての矜持が、逃げると言う選択をしなかった。それは勇敢な選択などではなく、只々愚かな選択であった。


「蟲姦はちょっと…いや普通にエグいわっっ!」


「…………っ!この、この魔力は……!?」


 颯の元に集まる魔力を幻視したタルタは今更後退し始める。


 が、もう撤退しきれるタイミングは逃した。


「ラピッドブラスト!!」


「くあっ…!」


 ステッキから飛び出た神速の弾丸がタルタに触れると同時に炸裂し、狂猛な爆風にその身を焦がしながら空にて天を仰ぎ見る。星のない夜であった。


 そんな夜空を背景にして、何処からともなく現れたのは、魔法を行使せんと構えをとる颯の姿。


「ライトニング!」


 紫色の雷がタルタの腹に落ち、その勢いのままに床へと叩きつけられる。


「ふぐぅッ……!!」


「シャイニング・メテオ!!」


 光り輝く無数の炎が、質量を持って延々とその身に打ちつけられる。決してお前を逃すことはない、そう告げる様に。


「………っ………ぁっ……」


 消えゆく意識の中、とんだ化け物を誘ってしまったことを後悔し、そして消滅した。


「ふぅ…コレだけやれば大丈夫かな」


 △▼△▼△▼△▼△


 蟻の魔族を文字通り灰すら残さず消し去った俺は、校舎から魔力の影響が抜けていくのを確認する。


 コレなら普通に帰れそう、帰れそうなんだけども。


「副会長起きないな。なんか魘されてるし」


「まぁ、先ほどの状態になるまでに相当虫にまとわりつかれたでしょうし…受けた心の傷は計り知れません。トラウマは確定かと」


「……何とかしてあげれないの?」


「おや?颯くん、心配してあげるんですね?」


「まぁ、別にこの人のことは好きでもないけど…こんな目に遭うほどのことされた覚えないし…」


「なるほど。ですが…記憶の操作はやはり…」


 そういえば都合よく記憶を消すことは叶わないんだっけか。それからしばらく、どうしたものかと考えながら副会長が起きるのを待った。


「殴打すれば記憶消えるかを試すいい機会か…?」


「やめてあげてください」


 △▼△▼△▼△▼△


「ん……ぅ……む、虫!虫は…?」


 副会長は目を覚ますなり怯え始めた。


「いませんよ、もう」


「は、はぁ…いないんだ…はぁ…よかった〜」


「大丈夫です?」


「大丈夫…ではないけど、何ともないなら…って、この格好は…?」


 何かしらの事件に巻き込まれた様にしか見えない副会長。服が破れていたり溶けていたりして、正直もう服としての役割を果たしていない。隠すべきところは運良く隠れているっぽいけど。


「………まぁ、もう大丈夫ですから。帰りましょうか」


「後……颯君…?私この格好で帰る勇気は流石にないかな〜って…」


「まぁ、そんな格好で帰ったら通報されますからね。はい、どうぞ」


 そう言って脱いでおいた自分の服を渡す。俺は変身すればいつもの衣装になるのだから、飛んで帰る分には本来の服は必要ない。


 また今度返して貰えばいいやと言うことで服を着せ、脇を掴んで持ち上げ空中へと浮かぶと、家の近くまで送っていくことに。


「私、空飛んだのなんて初めてだけど…」


 大体の家の位置を聞き、会長を抱えて空を飛んでいると、副会長が徐に口を開く。


「なんか、スースーする〜」


「……落としますよ」


「あはは…でも…綺麗〜…」


 その目は俺達を見つけた時の様に、キラキラと見開かれていた。

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