閑話 生徒会の合コン
「合コンを、しましょう!」
「「合コン?」」
「七海さん!?合コンってどういうことですか!?七海さん!?」
放課後の生徒会室。
意気揚々と腕を振り上げ、そんな提案したのは生徒会会計──阿波 七海。
流華と千夏はいきなりの事にオウム返しをするが、美咲はその発言の内容に大慌てする。
しかし、彼女はそんな自分の先輩を半ば放置する形で話を続ける。
「私ももう高校生です!そういうイベントに憧れがあるんです!」
「そうか…でも、そう言われてもね…」
「そうだね~。私たちでやると言っても相手がね~?」
「七海さん!他にもイベントはいっぱいあるはずです、考え直しましょう…!」
七海は先日の一件以降、どこかそういったことへの興味を抑えきれなくなり、とうとうこんなことを言い出すに至った。
流華はそう言ったことに興味はないのだが、後輩がやりたいというのであれば付き合うつもりでいた。
しかし、千夏の言うとおり、開くにしても相手がいなければ開きようがない。
七海は騒ぐ美咲を引き続き放置して話を続ける。たまにはこうして無視することも扱い方なのだという事を、颯から学んでいた。
「確かに、誘う相手グループはいません。なので考えたんです。私たち全員がそれぞれ1人ずつ相手を誘うんですよ!知り合いくらいはいるでしょうし!」
「な、なるほど…」
「気になる相手を誘うってことか~」
「なら私は七海さんをお誘いしますね…?」
「あの…先輩、お願いですから趣旨を理解してください」
そんな七海の提案で、生徒会主催の合コンが開かれることになった。
ルールは先程の通り、それぞれが誰か1人を誘って連れてくるというもの。気になる人でも、ただの知り合いでも何でもいいからとりあえず1人。
場所を決めると、期日までに誘うことで了承。
美咲が騒ぎ続けたのを何とか納得させ、その場は解散となった。
△▼△▼△▼△▼△
「あ?」
夜。
部屋で1人休んでいた俺のもとに、誰かから連絡が来た。この音は真や傑でないことは確かだ。そして姉さんでもない。
まぁ、姉さんは今家に居るんだし、用があるなら直接来るか。
何故わかるのか、というのは、この3名だけは分かりやすいように音を変えているから。
「阿波…?」
阿波と連絡を取っていたのは少し前。
先輩がどうのこうので悩み事、みたいな感じだった気がするが…もうすでに解決したらしく、その件で連絡を取り合うことはなくなった。
そんな中どんな連絡が来たものかと携帯を開くと、何やら用事があるらしい。
「土曜に…カラオケ…?」
「おやぁ?デートのお誘いですかぁ?」
「おちょくるな。ミキサーに入れられたいのか」
「すみません、やめてください」
パトロールに連れ出されるくらいなら遊びに行く方がいいだろう。そう思い、承諾の旨を返信した。
でも何でいきなりカラオケなんて…
「相談だったらわざわざこんなところ選ばないよな…」
よくは分からなかったが、俺はその日を待つことにした。
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「おぉ…!誘えた…!」
同時刻、自室のベッドの上で足をパタパタさせる七海。
これまで色恋といったものに興味はあれど縁の無かった彼女は、来る一大イベントへの期待に胸を高鳴らせていた。
しかし、いざ誰かを誘おうという段階になって彼女は困り果てた。
自分で提案しておいてなんだが、誘える相手がいないと。
その結果、誘っても大丈夫そうな知り合いが颯くらいしかいないということに気が付き連絡。
この間の勘違いもあったが、別に彼に好意があるわけでも興味があるわけでもない。
自分から提案しておいておかしな話ではあるが、人脈のある先輩たちが連れてくる相手に期待しつつ、当日を待つことに。
△▼△▼△▼△▼△
「また連絡が来た」
「また来ましたね」
動画を見ていた颯のもとに通知が来た。
「会長だ…なんだろう」
内容は先程と同じく、週末にカラオケに行ってくれないかというもの。
「内容同じなんだけど…?」
図ったように同じだ。
「う~ん…あ!分かりましたよ颯くん!」
エルゼが何かに気が付き手をポンとたたいた。
「その心は?」
「単純です、生徒会のメンバーでカラオケに遊びに行くことになったものの、人数が少し足りないから他にも誘うことになって、誰かが颯くんを誘うことになった。ただ、あの人たち同士の連絡がずれてしまった結果、同じ内容のお誘いが2人から来た…と言う事です!」
「やけに的確な推理だな」
「この名探偵エルゼに見抜けない真実はなーい!」
連絡の行き違いとはいえ、せっかく誘ってくれたのに対して「もう聞いてますよ」なんて返しをするのは少し失礼というものだろう。どうせ行くのは同じなわけだし。
なので再度承諾の旨を伝えた。
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「気になる相手…か」
流華は最近関わり始めた後輩の顔を思い浮かべていた。
彼の認識と同じく、出会いは実に最悪なものであったが、今ではそれなりに良好な関係を築けているのではと思っている。
彼の姉である楓との関係性も、戦いを経ることで、少なくとも険悪なものからは解消されたと認識している。
彼ら姉弟は自分と同じく魔物や魔族相手と戦い、この世界を守るという同じ目的を持つ仲間として上手いことやっていかなくてはならない。
そう言った意味では気になる相手…というよりは気にしている、気にかけている相手という方が正しいのかもしれないのだが、流華自身、颯や楓のあの性格自体嫌いではない。
今まで関わってきた人間の多くが距離を感じさせるような態度ばかりだったこともあり、彼のそれが新鮮だったというのが大きいが。
颯の事が好きとか、そういったこととはまた違うのだろうが、もともとは自分の後輩がやりたいと言い出したイベントだ。
──あの子が楽しめればいいのだから、自分の相手は面白そうな子を連れていけばいいかな。
そう考え、颯を誘った。
「あ、楓君にバレたら殺されるかな…」
念のため、謝罪の文面も考えてはおく流華であった。
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「もう驚かん」
「驚きませんねぇ」
「3人で連絡取りあうとかないのか?」
来るかなとは思っていたがやっぱり来た。副会長から、先の2人と同じ内容の連絡が届いた。
あの人には正体がバレたが、取り敢えずその場は記憶を消さないことに決めた。もし喋ったら不慮の事故で亡くなっていただくことを条件に、だが。
メテオでも雷でも落としまくって、証拠の1つも残さず消えていただこう。
一応そのことは会長にも伝えておいた。
何をしているんだと呆れられたが、それに関しては「こちらで何とかしてみるよ」という心強い回答ももらえた。
このまま上手いこと誘導してあわよくば全部向こうに押し付けてしまおう。そう思っている。
「でもこのタイミングでわざわざ連絡入れてくるのは多分アレだな」
「色々知りたそうにしてましたし、それでしょうねぇ」
いろいろ聞きたいことでもあるのだろう。
だが。
「絵文字、顔文字、スタンプ連打…もうブロックしようかなこの人」
「なんか意外ですねぇ?あの人最初に見た時はもう少し落ち着いた性格してるのかなって思ってたんですけど」
案の定エルゼや俺のことについてなどいろいろと質問してきていたのだが、一度話し出すと止まらない。
次から次に疑問が出てくるっていうのは俺も似たようなことがあるし、それについて何か言う事もないが……
1個の質問がなげぇなげぇ…
しかもそれに答える前に次の質問が飛んでくるもんだから対処しきれない。
俺は未読のまま放置し、気が向いたときにゆっくり返していくことにした。
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「あれ~?返ってこなくなっちゃった…」
合コン相手に気になる人として颯を誘った千夏は、その湧き出る知的探求心を解消するため、先日秘密を知ってしまった後輩へと怒涛の質問攻撃を繰り広げていた。
……いたのだが、ある時を境に既読が付かなくなってしまい、返信も止まってしまった。
「記憶消されなくてよかった…こんな面白い存在がいるだなんて。あの化物はピンとこなかったしね~」
動物に近い魔物は何とか耐えられたが、虫に近い魔物には流石に近づくことさえ出来ない。
それに加え凶暴で自分の命を脅かしかねないあれらの存在は、彼女の琴線には触れなかった。
だからこそ人間であり、意思疎通が可能で、その上不思議な生き物を連れていた颯は彼女にとってちょうどよかったのだ。
「あ、これも質問しておこ~」
新たに湧いてきた疑問を投げかけるが、やはり返っては来ない。
「む…。必殺!スタンプ爆撃~!」
既読さえつかないことに不満を募らせ、催促の為にスタンプを送り付けまくる。
無駄だと言う事を悟ると、手に持った携帯を手放し眠りについた。
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「来ないな…」
「来ませんね…」
この流れなら白百合先輩からも来るかなとか思ってたんだけど…
流石に連絡を取りあったのか、それともこの間睨まれたことが関係しているのか、あの人からの連絡はなかった。
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そして当日。
駅から数分ほどのところにあるカラオケ店。
その前に集まる生徒会のメンバーが見えた。
合流するため面々のもとへ足を進める。
「どうも…何で俺が誘われたんですか?」
「やぁ、来てくれたんだね。今日は──」
こちらに向けて手を上げる会長。
ぴょこぴょこと手招きしている。
だが、そんな会長の声に対して副会長と阿波が反応した。
「え?流華もこの子呼んだの~?」
「えぇ!?先輩達も全員御厨呼んだんですか!?」
「あ、私は七海さんがいればそれでいいので誰も誘ってませんよ?」
「美咲先輩…せめてルールくらい守ってください!」
「え、どういう…?」
状況がよく見えてこない。
気になって会長に尋ねてみると、どうやら生徒会の皆で合コンをすることになり、それぞれが1人相手を連れてくることになったそう。
しかし、それを当日までのお楽しみにしたことでこういった事態に陥ったのだとか。
俺は合コンに呼ばれたのか。なるほど、男としての自信が付いてきた気がする。
ただ、この時点で企画倒れもいいところだということで、普通にカラオケすることになったのだが…
「耳が…耳が痛い…」
「美咲君があんなだとは…」
白百合先輩の歌がメチャクソ下手だった。
この先輩確か芸術面ではかなりの才能があるとかなんとか聞いていたんだけど…なんかの間違いだったかな。
アレは多分そういう類の攻撃手法だ。
「だ、誰ですか美咲先輩にマイク持たせたの…!」
「アハハハハ!すごい才能だね~」
「七海さん…どうでしたか?割と自信があったのですが…」
「あれで…ですか…!?」
あれで…か。詰まりかけの排水溝の方がまだ綺麗な音してると思うんだけど…
普段の綺麗な声をどうしたらあんなことになってしまうのやら。
自覚がないというのは恐ろしいな。
今も耳がキンキンするし頭はガンガン痛むし、何故か内臓という内臓が不調を訴え始めていた。
反対に、一番上手かったのは多分阿波で、普段の姿からは想像もつかないほどに明るく歌って踊ってみせていた。
そんな風に、普通のカラオケが幕を閉じた。
「平和、だな」
「そうですねぇ」




