黒幕疑惑
まぁこんな風に、この日何度か魔物や魔族に出会い、確かにエルゼの言う通りのフィーバーではあったのだが、そのどこにも必ず副会長がいた。
あの人さては黒幕なんじゃないだろうか。もしそうならあの人を消した方が問題の解決には手っ取り早いと思わないでもない。いや、思わないけど。
「あ!」
エルゼがまたも何かを発見したらしい。
「やっぱりいるな…」
副会長、これまで何度も魔物らと対峙してはいたものの、怪我をしたりといった様子はなく、それどころか魔物の方が副会長に遠慮している様子さえ見せていた。怪しいにもほどがあるが、それが確定したわけじゃない以上、一応は助けてあげないといけない訳で。
「あ~れ~」
「…………イルカがフグ突いて遊んでるみたいだな」
まぁなんとか余裕そうだった。
魔物を街に解き放って自分は被害者を演じる。考えられそうな手ではあるのだけど、ただそれをやる意味が分からないし、エルゼが何も言わない以上それもないのだろう。こいつも完璧ではないが、遠くの魔族を察知出来て目の前の擬態を見抜けない訳なんてことももないだろうし。
「あの…今日はよく会いますね…?」
今回は人影もないので、魔物を始末し終えてから副会長に話しかけてみた。
「そうだね、何回も助けられたよ~。ありがと~」
ちゃんとお礼を言える、この人良い人だ。
「えっと……なんでこんなに襲われてるんですか?」
正体を気取られぬよう、初対面という体で慎重に話を聞いていくことに。ちょっとした会話の流れでボロが出て全部バレるというのは困るからな。
「分かんな~い。でも無事だから無問題」
そんなわけあるか、何もかも大問題だろう。ただ、嘘をついている感じはしないし……本当に間が悪いと言うだけなのだろうか。
とりあえずエルゼから辺り一帯から反応が消えたと報告を受け、副会長に見送られながら再び空へと飛び立つ。この人のことは心配でもあるが、もういないのなら心配しなくてもいいだろうと。
そのまま家に帰ってもよかったのだが、帰りに買い物をしていきたかったということもあり、一度建物の陰に降り立ち変身を解除することに。
「こっちは…人がいるし…あっちは…なんか汚いな…入りたくない──お、あそこなら」
ビルがいくつか立ち並ぶ区画に丁度いい物陰を見つけると、そのまま人目につかないよう降下していく。
この時注意しなければならないのは、変身する時とその変身を解除するタイミングだ。変身し終えている状態であれば、どれだけ顔を見られてもただの高校生である御厨 颯という人物と、魔法少年である御厨 颯という人物がイコールで結ばれることはない。
まぁ、それをぶち破ってくる例外もいるが、それはそれとして。
変身する瞬間や変身を解いた瞬間を目撃されると認識阻害でカバーできなくなるのがこの魔法の欠点らしい。
だから街中などで変身する際などは絶対に見られてはならないのだ。そう気を付けてこれまで行動してきた、はずだったのだが……
「あ…あれ~…?」
変身を解除した瞬間、誰もいなかったはずのその場所から何者かの声が聞こえてきた。
「んなっ!?」
目が合った。
「ま、マズいです…」
そこにいたのは副会長だった。
「君は確か~…」
「エルゼぇっっ!」
「流石に今度はもう無理ですよ!……っていうか今僕に話しかけたら──!」
思考誘導を使わせようとしたのだが、前の事がある上に、今回は魔族も何も関係なかったこともあり拒否される。それどころか、その瞬間副会長の視線がエルゼの方へと向かった。
「おぉ……なんか浮いてるんだけど~!」
急に眠そうにしていた眼をカッ開き、素早い動きでエルゼの方へと近付くと、「なにこれ~」などと言いながらエルゼに手を伸ばす。
当人はピュンピュンと、触られないよう逃げ回っていた。
「逃げないで~!触るだけ~!」
「嫌です!」
何か嫌な予感でも感じたのだろう、その表情には必死さが表れていた。それからしばらく追いかけっこをしていたのだが、自力では捕まえられないと分かるとこちらに視線を移した。
俺はその間考えていた。どうすれば人間の記憶を消せるのかを。
「ねぇねぇ、アレは何なの~?」
「頭殴り続けたら記憶が消えたりしないかな…」
「あ。ま、待って待って、今凄い物騒な単語聞こえた」
思わず呟いていたのが聞こえてしまっていたのだろう、いつもの間延びした喋り方が抜けていた。四六時中ああいう喋り方をしているわけではないらしいと、当たり前のことを再認識した。
「でも、少しわかった気がするかな~」
「わかった?」
「流華に挑んでいい勝負をしたっていうのがどういうことなのか~」
挑めただけですごいとか、確かにそんなこと言ってたな。この人は知らないから仕方がないのかもしれないけど、会長だって俺と同族なわけだしイーブンのはず。
なんかズルしたみたいに思われるのは癪というか…会長の事もバラそうかな。やっぱ自分だけ不幸な目にあうっていうのは納得がいかないし、道連れに…
「君、やっぱり興味深いね~」
顔をぐっと近づけ、物珍しそうに颯を観察する千夏。
普段は眠そうにしている彼女であるが、一度強く興味を惹かれるとどこまでもその探求に没頭する癖がある。友人である流華もこれの対象に入ったことで関りを持ち始めたのだ。
「うん、決めたよ~」
しばらく眺め、何かを決め込む様子を見せた。
「な、何を…ですか?」
俺は正直耳をふさぎたくて仕方が無かったが、一応聞いておくことに。
「私、君と友達になりたいんだ~」
「は、あ、え……?それは……何故?」
「その不思議な生き物も気になるし、君も気になるからね~」
「はぁ……そうですか…でも、見られたからにはタダで帰すわけにもいかないんですよ」
「え、待って、記憶消されちゃったりするの~?」
「仕方がありません…本当は魔法で消すんですけど、かいちょ…いや、まぁ、それも出来ないので、別の方法で記憶を消させてもらいますね」
ステッキを構えペチペチと手に叩きつける。
「待って、お願いだから…痛いのは嫌だ~…」
「大丈夫です。起きるころには痛みもなくなってますから」
「颯くん、流石にそれはダメです」
「でもそうしないと…情報が洩れかねないし…」
どうしたものか。こちらとしても殴って本当に記憶が消えてくれる保証がないし、もし消えなかったら俺は薄暗いビルの裏で先輩を殴りつけまくっただけになる。そう考えるとあれか、会長の友達なわけだし流石にマズイのか。
「誰の友達とか関係なくマズいですよ」
「たまに心読むよな、お前」
「全部顔に書いてありますからね」
「………ちょっと、ちょっと、後輩君、アレ!」
エルゼと会話していたところ、副会長に肩を揺らされる。
「颯くん!魔物です!」
「さっき反応が消えたって言ってなかった?」
「いつの間にか……とりあえず倒してください!」
副会長はいつの間にか俺を盾にするように隠れている。さっきまでは結構余裕そうだったのになぜと思ったのだが、恐らくは見た目の問題だろう。
そこにいたのはムカデの様な魔物。ムカデ自体は縁起のいい生き物として扱われることもあるが、その見た目を受け入れられる人は多くないだろう。
それに、さっきまで出くわしていた魔物はどちらかというと動物に近いフォルムだった。なるほど、思えばこの間の魔物はどちらかというと虫に近い見た目をしていたか。それで反応が違うというのなら納得もできる。
「オラァッ!!」
これくらいであれば変身するまでもなく倒せる。虫とは言えこの間の黒いやつとは違う。これくらいならそのまま足で…
「うわぁなんか汁出てきた…!」
グシャリという音と共に紫色の液体が溢れてくる。
「ひゃああああああ!!!!!」
「なんで横着するんですか颯くん!」
「うわまだ動くんだけど…!」
首をかなり集中的に攻撃していたはずなのに、尚も蠢くムカデの魔物。
「うわあああああああああ!!!!!!!ちか、近づけないで!お願い!言わない!言わないから!」
腰が完全に引けてしまい、俺の背に手を付けるようにしてその体を支えている。
「…………」
「みゃああああああああああ!!!!!!!!!」
俺の存在はバレてしまったし、なにやら面倒臭そうな予感がひしひしとしているが、どうしたものか。魔物が消滅するや否や全力疾走で逃げてしまった副会長の背を見送り、俺は頭を抱えるのだった。
「あ、転けた」




