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魔法少年を解放しろ!  作者: アブ信者
学校にて
50/246

聖魔

「分かった、勝負しよう」


 状況をどうにかするためとして戦うことを選んだのは流華の方であった。


 結果ありきで話す楓は流華の話を聞く気がなく、そんな相手に話し合いという場は不毛でしかない。


 それに、リラからの報告で颯が付いてきていることを知っていた流華は、もし仮にそうなったとしても問題ないと考えていた。


 颯は結構頑張って身を隠しているつもりだったが、リラの警戒網に入った時点でその正体を見破られないはずもなく、結構初めの方からバレてしまっていた。


 楓がそれを知っているかは分からないが、態度からして恐らく知らないのだろう。


 であれば、颯が付いてきた理由などそう多くはなく、この怒りを一度納めてもらったうえで改めて話を聞いてもらう方が遥かに楽で、且つ円満に終わらせることができる。


 最初からそうすべきだったのだろうが、色々あったがためにそうすることもないまま感情だけが積もってしまったのだ。反省もしているが、それはさておき。


 今は場所を移しこの因縁にケリを付けるのが先だと、そう考えた。


 △▼△▼△▼△▼△


「そう、そっちから言ってくれるとも思ってなかったけど。ちょうどいいわ」


 楓もいい加減どうにかすべきだと感じていた。


 目の前の女への怒りは当然ある。


 ただ颯自身がもう怒っていないのに加えて、その本人が自分の事を宥めているこの状況下で、自分だけがその怒りをどうにも出来ていないのがもどかしかった。


 今回の、この2回目の怒りはハッキリ言って溜まった怒りを何とかするための口実でしかなかった部分もある。


 一度戦えば勝とうが負けようが落としどころはできるだろうし、当然負けるつもりもないが、スッキリもするだろうと。


 口上でストレスを発散することなど到底できなかった楓は、何とかしてこの流れに持っていきたかったのだ。それ故に流華からのこの提案には驚いたが、即座に乗った。


 近くに颯の気配を察知していたこともあり、もしもの時は何とかしてくれるというフワフワとした、それでいて確かな勘があった。


 話を終えると早速、場所を移して戦うことに。


 △▼△▼△▼△▼△


「ここは…」


「アンタの墓場よ」


「あはは…お手柔らかにね?」


「覚えていたらね」


 流華は少し焦っていた。


 先程まで喫茶店にいたはずの颯が付いてきていないのだ。


 もしもの時に止めるために来たのではなかったのか、それとも2人が移動するのを見て尾行を辞めてしまったのか。いずれにせよ、ここから収集が付かなくなった時のことを考えると既に気が重く、その表情には余裕がなくなっていた。


「じゃあ、始めましょうか」


「ああ、よろしく頼むよ……本当に…」


 2人は準備が整うとその姿を変え、流華は白い鎧の天使に、楓は黒い魔装の悪魔に変身し、向かい合った。


 リラも声は出さなかったが、エルゼのしたことがどういった事かを改めて確認し、目を白黒させている。


「その姿…そうか」


「何よ、じろじろ見て」


 以前の様に、悪魔憑きだからと言って切り捨てなければならない、この世界から葬らなくてはならないといったような衝動はない。


 だから必要以上に傷つけることもないが、かといって生半可な力で向かおうものならあっという間に潰されてしまうと確信できた。


「我が意志に応えよ、神剣ヘリュンデルク!」


 息を整え、神剣を構える。颯が持っているステッキと同じく、様々な武器に姿を変えることのできる神器。


 尤も、架空の武具を顕現させることはできないが。


 それを見て、楓も魔力で作り上げた黒い二本の刀を両手に構える。魔力を込め直せば簡単に伸び縮みする、実質射程無限の武器。


 本人の感覚の良さもあってか、颯に教えてもらったものをベースに2~3日ほどで使いこなしていた。


「じゃあ行く──」


「はぁぁぁぁっっ!!」


 始めるために声を掛けようとしたところ、言い切る前に楓が駆けだした。


「え、ちょっ!?……っ!」


 流華は二方向から迫る刃を素早く打ち払い、一度距離を取る。


「億兆の弾丸(トリリオン・バレット)!!」


 距離を取ると、黒い魔力の弾丸を放ち追い打ちを仕掛けてくる。それに対し流華も剣を振り回し相殺していくがキリがなく、それに加えて、いつの間にか巨大化した二本の刀が流華を挟むように襲い掛かる。


「……っ!」


 気が付くのが遅れたが間一髪で跳び上がると、既でそれを回避する。


「聖なる光(アーク・ビーム)」


 流華は空中で1回転し態勢を整えると、露払いに魔法を放ち、剣を構えて突撃する。


「っ!」


 流華の仕掛けた上空からの速攻を、腕に纏った魔力で迎え撃つ。しばらく押し込まれそうになる楓だったが、体勢をずらし流華の腹を勢いよく蹴ることで、森の奥にへと吹き飛ばす。


「かっ……!」


 木に衝突し、声にならない呻き声を漏らすと、流華の視界に映ったのは、手に魔法を構え流華を追いかける楓の姿。


「…!無尽なる神剣(インクリース・ソード)!!」


 魔力によって増殖した神剣が楓を迎撃し、迫りくる剣の群れに動きを止めた隙に流華は場を脱しリラを呼ぶ。


「あれ何!?颯君とやりあったときの比じゃないんだけど!?」


「先程から件の悪魔の姿が確認できていないのですが、あの力を見るに相当高位の悪魔の力を得ているものと」


「ならっ……どうすればいいかな!?」


「手心を加えるからです。向こうがその気ならそれ相応の力は出すべきでしょう」


 流華としては耳の痛い話であった。勝負をするのであって殺し合いをしたいのではない。


 楓もそれは同じだが、勝負である以上負ける気もなし、適当に済ませる気もなし。だからこそ生半可な力ではいけないと理解はできていたはずなのに、無意識のうちに加減をしてしまっていたのだ。


「ああ、もう!」


「安心してください、流華。つい先ほどエルゼが認識阻害魔法による結界を発動させました。なのであの人間も近くに来ていると考えていいでしょう」


 リラは虫の息のような微弱な波動からエルゼの魔法を察知した。


 悔しいことだが、認識阻害という難度の高い魔法でこれほどの結界を作り出すエルゼには負けを認めるしかなかった。


 △▼△▼△▼△▼△


「やっと見つけた…ここだったのか……」


 2人が店を出てから少し。


 一気飲みするのも勿体なく思い、注文したコーラを数分かけてゆっくりと飲み干した颯は、会計を済ませると2人を探すために店を出る。


 随分と呑気なものであったが、まさか喫茶店で待ち合わせをしてそこから戦うとも思っていなかった颯は、一応どこに行ったのか、そう遠くまで入っていないだろうと考えていたのだが、ふと遠くを見た時に黒い何かが空へと飛んでいくのが分かった。


 嫌な気配はしていたが、そのあと遅れて何かが落ちるような音が聞こえたので、音の方へと急ぐことに。


 既に戦いは始まっているようで、金属のような音や魔法のぶつかる爆音が聞こえてくる。


「互角かな?」


「どうですかねぇ」


 お互い空を駆けぶつかり合っては魔法の打ち合いを繰り返していて、安全そうな場所を探すと物陰に身を隠し、2人の戦闘に乱入するタイミングを窺うことにした。


 平和に終わるのなら、それをする必要もなかったのだけど。


 △▼△▼△▼△▼△


「千殲旋閃(アサルト・テンペスト)!!」


 楓は自身を中心として黒い嵐を発生させる。


 辺り一帯を引き裂くような純黒の螺旋と共に、魔力で生成された無数の鏃が放たれ、流華を傷つけていく。


「本当に何でもありだね…!」


「逃げるなァァァッッ!!」


 天高く打ち上げられた鏃は行き場を失うと、雨のように流華目掛けて降り注ぐ。しかしそれに気を取られると、今度は左右からの刀による攻撃や、真下から突き上げられる槍に襲われる。


 物陰に隠れようにも、少しの影から攻撃が突き出てくる。地面を闇が這い、自身の影さえ攻撃を加えてくるという状況。地上での戦闘は有利不利以前に不可能に等しく、選択肢として、地面から離れるほかなかった。


 少しの傷程度であれば勝手に癒えていくが、攻撃を畳みかけられたり、大怪我を負えばそれこそ間に合わなくなる。


 近付こうにも楓はその隙を作らない。


「──なら、こちらが作るまで!」


 楓の目に留まらないよう周囲を神速で移動し続けながら機会を待ち、その間も楓の魔法を弾き返しながら、流華もジャブ程度の魔法を放ち続ける。


 そんな中、一瞬意識が逸れた隙を狙い、空を蹴った。


「空間(ディメンション)薙ぎ(クリーブ)」


 狙ったのは楓の周囲に浮かべられた謎の黒い球体。魔力によるものではあるが、どのような効果を持つか分からない以上は斬り払うしかない。


 横方向に向けられた一薙ぎは幾つもの薙ぎに変化し、その空間にあった魔法を消し去った。


 流華はこれを好機とみなし攻撃に転じる。


 自分までの通り道を作られた楓は振りかぶられた剣を脚で受け止めるが、蹴り上げた脚を掴まれると、そのままグルグルと回転させられ投げ飛ばされる。


「っぁああ……!!!……チッ、何よアイツっ!!」


 楓はゴロゴロと転がり、木にぶつかることで停止した。


 出来る限りの隙を潰していたつもりであったが故の対策不足、端的に換言するのであれば、油断であった。


 体勢を立て直し流華の姿を探す楓であったが、その姿は見当たらない。


「あの女どこに……?……っ!?」


 ふと地面に人型の影が浮かんでいることに気が付き空を見上げると、魔法を構える流華の姿が。


「照射される極光(クレパスキュラ)!!」


 雲からいくつもの陽光が差し込むと、その光は辺り一帯に降り注ぐ。


 焼けるような熱い光が、芸術的な美しさと共に楓に襲い掛かった。


「熱っ!あの女ぁっ!」


 魔力で体を覆うが、それを通り抜けて入り込んで来たことに舌打ちをすると、即座に対応を切り替え、回避に専念する。攻撃に法則性はないが、辺りに見える陰に潜り込みつつ逃げ回る。それはまるで水面を跳ねるイルカのように。


 しかし、照射は終わらない。


 楓は多少の痛みを覚悟すると、足元に闇を展開して天へと駆け上り、流華の下へ距離を詰めていく。肉を切らせて骨を断つ、ならぬ、肉を焼かせて骨を断つ、といったところであった。


 しかし。


「制裁の輝雨(パニッシュ・レイン)」


 それを幾重もの光の弾が迎え撃ち、痛みで判断が鈍った楓はそれを正面から喰らい、森の中へと墜ちていった。


 地面に衝突すると、我を忘れたように叫び出す。


「ああああぁぁぁぁっっ!空亡(サンデッド)!!」


 膨大な魔力は楓から放たれると、辺り一帯を地も空も丸ごと包み込み闇にへと変える。つい先日殺した魔族が放った技で、それを見様見真似で再現したものであり、全身から尋常ならざる量の魔力が抜け落ちていく感覚が、倦怠感や嘔吐感と化して彼女を襲う。


 我を忘れたとはいったものの、本能に刻まれたその判断力は的確なもので、夜の帳を強制的に作り出し、太陽の光を魔力によって攻撃手段へと変化させていた流華の、照射の源を立ったのだ。


 そして同時に、この膨大な範囲内を自分有利の戦場へと変えた。


 もちろんこれは長く続けられるものではないことは楓自身理解していたが、この戦いを終わらせるのにはそれだけあれば十分だと言う事も理解できた。


「はぁっ……!!」


 流華を帳へと閉じ込めた楓は、再び魔力を放出する。


「これは……さっきの……?」


 楓が地面から浮かび上がらせたのは、先程振り払われた黒い魔力の球体。


 しかし、周囲に浮かせていた時とは比べ物にならないほどの量で、それが帳の中にいくつも配置されていく。


 嫌な気配を察知した流華はすぐさまそれを振り払うが、すぐに新たな魔力球が浮かび上がるのを見るとそれを無駄だと判断し、楓の方へと突き進む。


 そこを狙い、楓は指を鳴らして技を完成させた。


「暗天の(ゾディアック・)立体星座(プラネタリウム)!」


 魔力球が少しの輝きを見せると、球と球を繋ぐように、細い糸の様な漆黒の光線が放たれ、そんな魔力球の包囲網の中にいた流華は体を次々に貫かれる。


「──ぁぁぁぁああああっっっ!!!!!」


 1つ1つは治癒できているが、手数が多すぎて間に合っておらず、意識が飛びそうになり、そのまま墜ちていく。


 その時。


「そーこーまーでえええぇぇぇぇぇぇっっっ!!!!」


 叫び声が流華に接近し、その身を抱え上げた。


 帳から追い出されるも、なんとかしてそこに入り込んだ颯が、2人の戦いを止めに入ったのだった。


 △▼△▼△▼△▼△


 いきなり何すんだ姉さんは……戦いの中で山に落とされたから大丈夫かなとか思って心配してたら、いきなり辺り一帯真っ暗にして閉じこもるんだもん。


 入ろうにも硬くて全然入り込めないから時間かかるし、地面掘って下から入れないか試したけど、球体みたく包み込んでてそれもダメだったし、結局エルゼの魔法に頼って何とか入れたくらいだった。


 で、入ったらめっちゃ派手な魔法の発動中。派手なだけならまぁいいんだけど、あろうことかエルゼが叫ぶくらいに危険度の高いやつだったし。


 会長を回収して戦いを止めて、姉さんに叱責の1つでもくれてやろうかと思ったら……向こうも向こうで力使いすぎて倒れていた。


 2人が起きるのをただ待つのも暇だったので、エルゼとリラ、そしていつの間にかいたヴェルザの会話を聞いていることに。


「僕ちょっとあなた方に思うところがあるんですけど」


「なんですか。というか貴様、近づかないでください。悪魔が移ります」


「小娘同士の諍いなど我は知らんぞ。それと精霊、貴様の主は負けたのだ。分を弁えろ」


「何を……っ!?……はっ、そちらこそ、流華の甘い性格に救われただけでしょう」


 やはり相性が悪いのか、早速睨み合いに。


「まずリラ、何故認識阻害を掛けずに戦闘をさせたのですか!」


「私の得意分野ではありません。そもそもエルゼ、貴様が付いてくること前提でしたしから」


「未だに克服していなかったんですか!?」


「黙りなさい、そこの悪魔諸共消しますよ」


 あの便利な外界との遮断結界はエルゼの得意な魔法なのか。


「それとヴェルザ、なんて魔法使わせてるんですか!」


「知るか。我は何も教えておらん。娘が勝手に学んでいるのだ」


「なら止めてくださいよ!」


「何故だ。男を巡った下らん戦いだったが本人らは真剣だ。そもそも、我がアレを止められるとでも?」


「あのですねぇ…」


 呆れるエルゼだったが、そもそもヴェルザにそんな役割を求めること自体が間違っているという事には気が付かないのだろうか。


 というか、男を巡った戦いって言い方やめてくれないか。物は言い様とはよく言うが、本当にそうなのだな。


 △▼△▼△▼△▼△


 その後、起き上がった2人を連れて帰ることに。


 姉さんはだいぶスッキリしたような顔をして、会長は肩の荷がどっと下りたような、そんな顔をしていた。


 一応俺が途中で止めたから引き分けではあるのだが、状況を見るに姉さんの勝ちっぽかったらしく、会長が負けを認めたことで、正式に姉さんの勝ちということになった。


 本人もそう思っていたからスッキリした顔をしていたのだろうが、俺もこれで姉さんを抑える必要がなくなる。


 そう思った俺は、恐らく会長と同じ顔をしていたのだろう。

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