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魔法少年を解放しろ!  作者: アブ信者
生徒会長
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幕間 阿波 七海

 私、阿波 七海は困惑していた。


 1時間も経たぬうちに何度も話しかけてくる自分の先輩、白百合 美咲に。


 私はこの先輩に憧れて生徒会に入った。


 儚げで、それでいて気高くて、もうめちゃくちゃ可愛い先輩!


 美しいとか麗しいとか、辞書にある言葉で表すなんて出来ないくらいに、それはもう。


 何あの辞書、先輩に相応しい言葉が載ってないんですけど?というかむしろ白百合 美咲という言葉が美しいに代わる新たな表現として辞書に載るべきでは?


 ──とまぁ、それはそれとして。


 勢いそのまま生徒会のドアを叩いて入れてもらうよう直談判して、生徒会長が快く受け入れてくれたからそのまま会計になった。選挙とか要らないんだって思ったけど「惰性で立候補する人間が殆どの生徒会選挙で選ばれた子より、熱意を持って来てくれた子の方がいいに決まってる」って、それでいいんだ。


 顧問の先生が止めなかったのだからいいんだと思う。実績を作ってちゃんと認められればいいんだし。


 ただ、実際に関わるようになって、先輩の事を知るようになって、そこで初めて分かったことがある。


 この先輩めんどくさい!


 ちょっとしたことですぐに話しかけてくるし、割とマジでどうでもいいことを1から10まで全部教えてくる。いや別にそれが迷惑とかそういうことが言いたいんじゃなくて、ただただ困っている。


 あの人は芸術面において”歌以外は”そのどれを取ってもそれはそれはとっても優秀な人で、これまでも様々なコンクールに作品を出しては、他の参加者に本物がどういうものなのかを結果でもって示してきた天才。


 それもあってか最近は、写真を撮る事にもハマっているらしい。


 元が結構グルメな人なのもあり、休日に出かけてはそこで食べた物や見た光景などを写真に収めSNSにアップしている。


 それも凄く評価を受けていて、その界隈では結構な有名人になる程に。


 だけど、その写真を私個人にも送ってきたりする。そして反応を求めている。


 SNS上であればいいねを押してそれで終わりだし、そこにみんないろんなリプを付けてたりしているけど、先輩自身その1つ1つに目を通すわけじゃないから、だからこそこちらとしても書き込みがしやすいというもので、それを個人的に送られて反応を求められると困る。私そんなに語彙力ないし!


 あれやこれやと食べ物や風景の写真を送ってこられたところで、そんな何パターンも感想言えないし!


 それも……1日1回とかならまだしも、結構な頻度で送られてくるから1日の中で返答のバリエーションが尽きる。


 今も返答に困って愛想笑いで済ませてしまった罪悪感から逃げてるだけだし!


 再び先輩へと目線を向け、その白百合の名に恥じぬ柔らかなご尊顔を烏滸がましくも視界に収めたところで、現実へと引き戻される。


「七海さん!見てください、窓の外にカブトムシがいますよ!」


「あはは…そうですね」


「あ、そうです七海さん!クッキー焼いてみたんです!食べますか?」


「あ、はい…いただきます」


「七海さん!紅茶を入れたいのでお湯を沸かしてもらってもいいですか?」


「はい、わかりました」


「な、七海さん…クッキー割れてました…」


「だ、大丈夫ですよ、それくらい…!」


「七海さん!七海さん!」


「な、なんですか…?」


「ふふっ、呼んでみただけです」


「うぐぅっ!!!」


「七海さん!大丈夫ですか!?」


「だ、大丈夫です…」


 油断してたぁっ!あっぶなぁ…危うく鼻血出るところだった………。


 とまぁ、これが私の日常なわけで。


 なんというかその…こんな感じの会話がずぅーっと続くせいで仕事がほとんど進まない。


 それと同じくらい会話も進まないんだけど。


 弾むのは会話ではなく、キャッチし損ねて地面に落ちた、会話という名のボールのみ。


 大事な仕事は既に片付いているし、この仕事だってやろうと思えばすぐに終わるような仕事でしかないわけだから別にいいというのはあるけど、それでもなんかなぁって。


 それで結局、何を考えたか私はこのことを御厨に相談した。


 私自身先輩のことが嫌いなわけじゃないし、むしろ大好き。それが理由で生徒会に入ったわけだし。


 だからこそ、こういう淡泊な反応しかできないのが申し訳なかった。


 それで、あの楓先輩を相手にできるのならばと踏んで相談事を持ち込んだ。


 結局あの日は窓越しに私を見る楓先輩のあの目が怖くて逃げ出したんだけど。


 あれ以降も連絡は取ってるけど進展はない。


 聞いたところ、あの男は自分の姉と小さくくだらない喧嘩ばかりするらしく、すぐ仲直りはするみたいだけどうまく扱えている自信はないとのこと。


 無視はしないけど、適当にあしらうこともあるみたいで……やっぱり姉弟と先輩後輩の関係性では違うのかなぁ……


 2人の先輩の性格からしてやっぱり違うわけで、そうである以上は求められる対応だって変わってくる。


 私は先輩にあまりキッパリと物を言わないし、それ故に喧嘩になることなんてない。


 適当にあしらったら……先輩すごい悲しそうな顔しそうだし、下手すれば泣いちゃいそうだし、それもしたくない。してはいけない。先輩に悲しさの涙は流させない。


 だけどやっぱり、それとなーく今の先輩のこの感じをどうにかしたい。


 何よりもまず話が続かないのが、お互いにとってよくないと思う。向こうは私のこんなそっけない反応でも楽しそうにしてくれているわけだけど、だからこそ申し訳ない。


「七海さん!紅茶が入りましたよ」


「あ、ありがとうございます」


「……………………えっと、あの、七海さん」


「…?どうしたんですか…?」


「その…そのですね…」


「?」


 先輩がまた話しかけてきたが、にしても普段より歯切れが悪い。


 な、何かしちゃったかな。


「な、七海さん!こ、この間!七海さんがデートをしていたと聞いたのですが!」


「ブフッ…ケハッ…ごほっ…な、な、な、何のことですか!?」


 突然の質問に吹き出してしまう。


 いきなり何言いだすかと思えばデートって……身に覚えがない。


「この間…その…同じクラスの男の子とカフェに行ったと報……聞いたのですが…!」


「え?あ……」


 御厨かぁ…!ていうか何でそこまで……誰かに見られてたのかな。


 変に噂になっていたりすれば面倒だと思ったが、しかしそんな話は聞いていない。


「あれは…そう、楓先輩のことで聞きたいことがあってですね…!」


「楓…ああ…流華さんが言っていた…ということは、一緒にいたのは弟の…御厨 颯さんですか?」


「は、はい…。なのでデートじゃないんです」


「そ、そうだったんですか…」


 その言葉に安堵しほっと息を漏らす美咲。七海はそれがよくわからず首をかしげる。


「…な、七海さん!」


「ま、まだ何か…?」


「わ、私とも!わわわ私とも!お出かけしてくれませんか!」


「ゴフッ……えぇっ!?」


 驚きのあまり再び飲んでいた紅茶で咽る。


「だ、大丈夫ですか…?」


「はい……で、どうしてまた、私と…?」


「普段、七海さんに写真なんかはよく送りますけど…」


「そ、そうですね…」


 それが原因で颯と一緒にいたとは言えず、何を言うでもなくその言葉に耳を傾けていた。


「でも私、時々思うんです」


「……?」


「やっぱり美味しいものは一緒に食べたいですし、綺麗な景色は一緒に見たいんです!」


「ぬぅぉぉぉ!!」


 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!


 かわいい!やっぱりかわいいこの先輩!その顔は反則だと思います!ズルいです!


 キラキラと後光の差すような純粋な顔を向けられ思わずのけぞってしまう。


 そして両手でその手を包み込む。


「わ、分かりました!行きましょう!」


「本当ですか!じゃあ行きたい場所があるのですが!」


「どこですか!」


「沖縄です!」


「ごめんなさい無理です!」


「なぁっ!?………あぅぅ…。嫌、でしたか…?」


 嫌っていうかそれ普通に旅行ですよね!?流石にそんなお金ないし。


 と、断ろうとしたところ。


「夏休みにプライベートジェットで私の家の別荘に行く予定があるので、ご一緒にどうかと思ったのですが…」


「いやでも私旅行となると流石にお金が……え?」


「……!お、お金の心配ならいりません!では決定でよろしいでしょうか!」


「え…あ…は、はい…?」


 その返事を聞いて無邪気に喜ぶ美咲。


 その姿を見て、存外自分が悩んでいたことというのは簡単に解決するのだなと感じた七海。


 解決したのかはいささか微妙なところだが、一緒に出掛ける分にはメール上でのやり取りのような苦しさもないし、むしろ存分に楽しめるだろう。


 わざわざ相談した意味はなくなってしまったかもしれないが、結果としてはあの相談をしたからこそこうなっているわけで、そういう意味では颯のおかげでもあるのかもしれないと、彼女は笑みを零した。


「…お礼くらいは言っておこ」


 そう呟き、程よく冷めた紅茶を飲んだ。

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