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魔法少年を解放しろ!  作者: アブ信者
変化した日常
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ドーナツ

「まぁ、同じ店に来るわけないか」


「別のお店も回ってみましょうか。蟹の脚ではそこまで広い範囲での活動もできないでしょうし」


 俺は2人と別れてからしばらく歩き、件のコンビニへと足を運んだのだが、蟹はいなかった。


 何度も同じ店に現れるはずもないのだろうが、原因はやはりこの人の多さだろうか。昨日に公開されたその映像を見て早速ここにやってくる人で周囲はごった返していて、とてもじゃないが、蟹達がここに現れるとは思えない。


 となれば別の場所を探すべきなのだろうが。


「とは言ってもなぁ……」


 蟹の犯行動機が分からない以上、次にどこかに現れるとして、一体どこに現れるのだという話になる。究極、どこにでも現れる可能性のあると同時に、もう二度と現れない可能性もあるのだから、正直言って探しようが無い。


「取りあえずは食べ物が置いてあるところを中心に回ってみましょうか」


 エルゼが少し高度を上げ、周辺にある店舗を見渡しながら言った。


「それもそうか」


 いつまでもここにいても仕方が無いと、俺達はそれ以外の店を回ることに。


 レストランだとか、ラーメン屋だとか、一応お寿司屋とかにも入ってはみたのだが、特にそれらしい姿も騒ぎも確認できず。


「こんな所に駄菓子屋なんかあったんだな。意外な発見だわ」


 そして今は、駄菓子屋を見つけたというエルゼについていき、その店内を覗いてみたところであった。


「にしてもいませんねぇ。流石に蟹の鋏ではお菓子の袋は破れませんか」


「あの蟹なら頑張って開けそうでもあるけど」


「となるとやはり時間帯が関係しているのでしょうか」


「まぁ確かに、白昼堂々よりはその方がいいだろうし……でも深夜はなぁ……」


 俺は警察じゃない。


 百歩、いや、五百万歩譲って魔族退治が俺の仕事だとして、強盗事件にまで対応して深夜出動しなければならないなどという義務はない。ましてや蟹なのだから、警察を呼ぶどころか、棒か何かさえあれば誰だって対応できるだろう。


 今回は俺が暇だったというのと、それが自分の生活圏での出来事であったこと、そして何より自分が興味を持ったからというのが、今こうして捜索をしている理由だ。


 まぁ、流石に本腰入れて探そうってほどでもないけど、見つかんなかったらそれはそれで気になるし、もし捕まえられたら蟹も食べたいしで、せっかくなら見つけたいという思いもあるわけだが。


「結構離れてきましたけど、大丈夫ですかね?」


「近くにいるはずって思い込むのもアレだし」


「まぁそれもそうですね。……あ、颯くん!」


「いた!?」


「ドーナツがあります!」


「…………」


 一応言っておくのであれば、道端にドーナツが落ちていたとかそういうわけではなく、普通に店があっただけなのだが、コイツは店と商品を区別したりする知能が無いのだろうか。無いのだろうな。


 しかし。


「……んぁ?……は、颯くん!」


 先行していたエルゼが叫び出したのを見て、俺もまた足を速める。


 店に近付き、そのガラス越しに見えた光景に、昼休みに見た動画を思い出した。


「蟹……いた……!」


「い、いましたねぇ……」


 そこにいたのはやはり蟹の群れ。こうして改めてカメラ越しではなく肉眼で見てみると、その蟹は1種類ではなく、言うなれば混成団の様なものであった。


 それが今、目の前で店員を脅していた。蟹達も日々進化しているのだろう、昨日の段階では包丁を1つしか持っていなかった彼等ではあるが、どこからくすねて来たのか出刃包丁やナイフなどを振り回している。


 それは店内に入った俺も例外ではないようで、結構攻撃的に刃物を向けてきていた。


「……なるほど。魔力で操られているものとみて間違いありませんね」


「まぁ、そうだろうな」


「ですが何のためにこんなことを……」


「確かに。貝とかならまだ分かるんだけど。何でドーナツなんだ」


 首を傾げ考え込む俺たちを他所に、蟹達は店員に向かって指示を出す。鋏でケースを叩き、刃物でレジカウンターを叩く。それが意味することはやはり、そういう事であったようだ。


 店員が距離を取りながらもドーナツを取り出して渡すと、蟹はそれを高々と、優勝トロフィーかの如く掲げた。そしてその蟹が退くと出て来たのは別の蟹。なるほど、1つでは足りないことも学んでいると来たか。


 そうしてしばらく、店員と蟹とのドーナツの受け渡しが続き、ドーナツを持ち上げて帰る彼らを見送ると、俺はそれを尾行し始める。


 自動ドアはみんなで一緒に開けていたらしい。1匹だとセンサーに引っかからないかもしれないからな。


 で、何故止めなかったのか。


 俺なら刃物くらい何とでもなるだろう。と、いやしかし待ってほしい。


 何もボーっとしていたから助けなかったとかそういうわけではない。単に魔族の所為であるのならこの蟹達は手に入れたものを何処かに持って帰るはずで、それを尾行すればその魔族を探す手間も省けると、そういうワケだ。


 彼等は街を行く。周囲の視線など気にもせず。


 しかし蟹達は警戒を怠らない。周囲に刃物を向けつつ、掲げたドーナツを大事そうに運んでいく。


「大名行列みたいだな」


「だとすれば目的地は江戸でしょうか」


「待ってるのは蟹の将軍様か。それはちょっと見てみたいか……も?」


 俺は蟹を尾行する最中、ふと足を止めてそちらを見た。


 本来であれば何を差し置いても蟹を追うべきだったのだろう。魔族が絡んでいることはまず間違いないとみていいだろうし、であれば優先すべきはどう考えてもそっちのはずだ。


 しかし今回に関してはそうもいかない。


 俺の目に映ったのは、山へと続く道の前でキョロキョロと辺りを見回す1人の男の姿。少し遠くだが、俺はハッキリとその姿を認識できた。


「真?」


 そこにいたのは、よく1人でどこかに行ってしまう俺の友人、三谷 真だった。

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