(2月20日付けの手紙)
ラスボスのシールド侯爵の登場です。
お母さん
昨日、ケント会長に生徒会室へ呼び出されました。
理由は想像がついたから、何と、過保護な!と憤慨しました。
ジークのお母さまは早くに亡くなっていて、幼馴染のケント会長がお母さん役を持って任じてたんでしょう。(男で年もあんまり変わらないのに(笑))
ちなみに、本当のお父さまが亡くなってからのお父さん役は、ケント会長のお父さんであるシールド侯爵だったようです。(ケント会長と一緒に育てられたようです)
ケント会長とシールド侯爵は、二人して、魔力過多でいつ命を落とすか分からない少年を必死に守り育てて来たんです。
だから、私がジークと仲良くすると、ポッと出の平民に取られたって気分になって、必死に奪い返そうとしたんでしょう。(別に奪ってないのに)
私は嫁じゃないけど、典型的な嫁と姑や舅のトラブルみたいです。
こっちは、ジークをめぐってあの二人とバトルする気は全くなくて、ジークがあの二人と仲良くすれば良いと思ってるのに。
でも、今回のように、シールド家がジークの不始末の尻ぬぐいをするって、どうかと思います。
実は、エリザベートさまも何か言いたそうにしてたんです。
これも、知ったこっちゃないんですが。
貴族って、本当に、大きなお世話が好きなんですね。
体面を気にしすぎるせいでしょうか?
やってる皆さんは、しんどくないんでしょうか?
それが当然だと思ってるから辛さを感じない(麻痺してる)んでしょうが、別の価値観があるって知ったら、あの人たちの常識が崩れたら、一体、どうするんでしょう?
私だったら、頼まれたって嫌です。
平民にもおせっかいな人はいるけど、ここまで酷くないです。
そう言う訳で、放課後、フォード先生の用事を簡単に済ませて、生徒会室へ行ったら、生徒会役員の皆さまと男爵令嬢ズ、そしてジークが待ってたんです。
ちょっと、ビックリしました。
だって、ジークやケント会長は分かるけど、生徒会役員や男爵令嬢ズは関係ないって思ってたから。
でも、すぐに気づいたんです。
ケント会長は、一気にこの問題を解決したいんだって。
生徒会にはキンバリーのネイサンさまがいますし、男爵令嬢ズにはスーザンがいます。ベネディクト家のジークと二人の間で話が付けば、この問題は簡単に方が付くんです。
ケント会長が一同に一部始終を説明すると、皆さま、頭を抱えました。
「そりゃあ、ジークフリートさまが悪いわ。もっと早く手を打っとけば良かったのに、怠慢だったんだ。
ケント、諦めろ。次がある。次から、気を付けたら良いんだ」
ってジェームズさまの言葉が、一同を代表した言葉でした。
それでも、ケント会長は、ネイサンさまとスーザンにキンバリー家に譲ってもらえないか打診してくれないかって頼んだんですが、お父さまが乗り気なので、多分無理だろうとのことでした。
そして、今日になってのことなんですが、シールド侯爵が学園へ来たついでに、例によって私を呼び出したんです。
前と同じ応接室です。
こちらは、すでに敵認定していますので、今更取り繕う気もありませんでした。
でも、向こうも同じ気持ちだったみたいです。
開口一番、侯爵が言い放ったんです。
「平民の分際で、公爵家に世話になっとるのに身の程も知らぬようじゃ。
公爵家に弓引くとは、何事じゃ」
チーン。ゴングの音が聞こえたような気がしました。
戦いが始まったんです。
私も負ける気はありませんでした。
「世話になる?いつ、どこで、お世話になったんでしょう?
それに、弓を引くとは、どういうことでしょう?私、ベネディクト家に逆らったことなんかありません」
「そもそも、奨学金をもらって、この学園で学ばせてもらっておるじゃないか。
その恩も忘れて、図々しいにもほどがある」
カチンと来ました。人の気も知らないで。
「あの~」
「なんじゃ?」
「ご存じないようですから申し上げますが、私、この学園へ来たくて来たんじゃないんです」
「なに?」
「本当は、地元の学校へ進学したかったんですが、たまたま魔力検査に引っかかって、仕方なく来ただけです」
「国一番の学園じゃぞ?」
「それが、どうしたと?
ここで学ぶ多くのことは、平民には、関係ない事柄です。
まあ、せっかく来たんだから勉強はさせてもらってますが、こんなところより、地元の方が、楽しく勉強ができます」
「普通、感謝こそすれ、迷惑だと思う者はおらんはずじゃ」
「じゃあ、私は普通じゃないんです。
ただ、ここでできた友達は得難い人たちですので、それだけは救いでしたが、貴族の皆さまに差別されて、何かと疎まれる学園なんか平民には、何の魅力もないんです」
絶句する侯爵に、畳みかけました。
「ついでに申し上げますと、私はベネディクト家が嫌いなわけじゃありません。関心がないんです。
だから、ジークのことは別として、あの家がどうなろうと、知ったこっちゃないんです。
つまり、逆らうどころか、逆らう気もないんです」
何とか体勢を整えて、侯爵は私を抑えつけようとしました。
「じゃが、お前のしたことは、ウイリアム殿下以来のベネディクト家の伝統にみそを付けたんじゃ。
平民の軽率な行動でもって、大家であるベネディクト家の体面に傷をつけたんじゃ」
「ウイリアム殿下は、ご自分でクーパーの才を見出されたけど、若いジークには、それができなかった。
それだけの話です」
「それが、どんなに不名誉なことか、平民には分からんのか?」
「分かりませんし、分かろうとも思いません」
「きさま!」
烈火のごとく怒る侯爵に一矢報いたくなったので、留めを刺してやりました。
「そもそも、シールド侯爵さまは、ウイリアム殿下が見出したクーパーの無名時代の絵をご存じないんじゃないですか?」
「笑止。全て見ておるわ!」
私は、笑って挑発してやりました。
「ベネディクト家の使用人用の食堂にクーパーの無名時代にウイリアム殿下を描いたと伝えられる絵が飾ってあるんです。ご覧になったことは?」
「そんなものが、あるのか?」
「多分、侯爵さまがご覧になっても、その絵がウイリアム殿下を描いたものだとは信じないでしょう」
「どういう意味じゃ?」
「執事のセバスチャンさんに聞いてください。
とにかく、そういうこともご存じないのに、ベネディクト家のことに首を突っ込む悪い癖は直した方がよろしいかと。
あまり過ぎると、ジークが自立できなくなります」
「何?」
「今回のことだって、ジークが怠慢だったから生じたトラブルです。
キンバリー家と話を付けたいなら、ジーク自身が出向いて、アマリアを含めて三者で協議すべきことです。
いくら後見人でも、あなたが出て来る話じゃない」
侯爵は、赤くなったり青くなったりしてましたが、ここらで逃げた方が良いだろうと判断して、
「お話が以上なら、これで失礼させていただきます」
って、席を立ちました。
どうせ、あの絵を見ても、あの人は、あの絵がウイリアム殿下を描いたものだとは認めないでしょう。
そんな人に、とやかく言われたくなかったんです。
2月20日
ベネディクト家の敵になった エヴァ
PS 先日、アマリアさんからお手紙が来て、お世話になったベネディクト家と別れるのは辛かったけど、キンバリー家の皆さまがとても親切で、自分の選択は正しかったと思う、キンバリー家を紹介してくれた私に感謝するって、書いてありました。
彼女が幸せそうで、嬉しかったです。
ジーク、ケント会長、シールド侯爵、キンバリー家と、事態はややこしくなります。




