(1月11日付けの手紙)
男爵令嬢ズの戦いの回です。
お母さん
今日、いつものように男爵令嬢ズと一緒に昼食を食べたんですが、話題が年越しの舞踏会のことになったんです。
お母さんも、王さまに招待された貴族が集まる、ものすごく豪華絢爛な舞踏会だから、この世のものとは思えない夢みたいなイベントだと思うでしょう?
でも、男爵令嬢ズに聞いたんですが、参加人数が多すぎる(だって、全ての貴族が集まるんです)上、身分の高い人もいっぱいいて、男爵家なんか小さくなっているしかなかったんですって。
だから、あっちこっちに気を遣わなきゃならなくて、気疲れして大変だったそうです。
それを聞いて、残ってて良かったって、しみじみ思いました。
そもそも、招待されてないんですけど。(笑)
ところで、舞踏会にはエスコートが必要らしいんですが、昨日ジェームズさまたちも言ってたように、パメラたち男爵令嬢ズは、何かと理由をつけてマキシムさまたちのエスコートを断ったそうです。
直前でエスコートを断られた格好になったマキシムさまたちは、顔を潰されたってお怒りになられたそうですが、結局、うやむやにして誤魔化したそうです。
さっすが、男爵令嬢ズ!
でも、向こうも、建前では怒ってたようだけど、エスコートしなくて済んだって、喜んでたんじゃないかってのが、パメラの観測です。
テレサもパメラと同じ意見でした。
エスコートする方もされる方も、どっちも嫌々だったんです。
じゃあ、何でエスコートを申し出たりしたんでしょう?
最初から、申し出なきゃ良いのに。
「だって、お付き合いしてたら、エスコートするのが普通でしょ?
向こうは、ジルドの手前、お付き合いしてるって、デモンストレーションしたかったんでしょうよ」
って、スーザンが説明してくれたんだけど、そもそも、あの晩のマキシムさまたちの会話を聞いた時点で、男爵令嬢ズはお付き合いを止めたんです。
正式なお断りをしてなかっただけです。
向こうだって、何か様子が変だと思ってるはずです。
それなのに、好きでもない相手にエスコートを申し込むって、意味が分かりません。
ウイリアム殿下とイザベラご夫妻もこんな感じだったんでしょうか?
好きでもない相手と、仲良さ気に振舞うって、拷問みたいなもんじゃないかと思うんだけど、貴族って、そういうことを平気でやるみたいです。
パメラによれば、それぐらいの腹芸ができないと貴族としてやってけないそうです。
勉強になりました。
で、みんながいない間、私が何してたかって話になって、ベネディクト家の使用人の皆さんの年越しのパーティーに参加させてもらったって言ったら、みんなの悔しがること、悔しがること。
「そっちの方が楽しそうじゃない!」
「私も、残れば良かったぞ!」
「仮病でも使うべきだったわ」
「シクったわ。
そうよね、残った人たちが何にもしないで、年越しするはずなかったのよ」
って、口々に残念がって、側にいる皆さまの注目を集めてしまいました。
でも、ケント会長とジークがエリザベートさまと同じテーブルに付くようになったので、この頃同じテーブルで食事をするのはケント会長以外の生徒会役員の皆さまだけです。
だから、ジェームズさまたちが、お腹を抱えて笑ってたんですが、そこへ、あのマキシムさまたちがやって来たんです。
「食事のときぐらい、同じ席になりたいんだけど」
って、いかにも殊勝な顔をしてもダメです。
あなたたちの陰謀はとっくにバレてるんですから。
だから、テレサが澄まして言ったんです。
「だって、君たちは、エヴァと同席するのは嫌だって言ったじゃないか」
「だって、平民だぞ?平民は、平民のテーブルへ行くべきだ」
デビッドさまの失礼な発言にパメラが切れたんです。
「悪いけど、エヴァとは、小さいときからの付き合いなの。
だから、昨日今日の付き合いのあなたたちより優先するわ。
だから、あなたたちが嫌なら、私たちは、こっちでエヴァと同席させてもらうわ」
「君ねえ、平民と貴族を一緒にしないでくれるかな?
僕たちは、王さまに王宮の舞踏会に招待された貴族なんだ。しかも、ジークフリードさまのご厚意で王宮にも泊まったんだ。
そんな僕たちと、王宮の側にも寄れない平民は違うんだ」
なるほど、王宮にお泊りするって、やっぱりステイタスなんだ、って思いました。
「それもこれも、エヴァのおかげでしょう?
ジークフリードさまが、エヴァを招待するののついでに私たちを招待してくださったんですもの」
スーザンが切って捨てたので、シルベスターの顔が一瞬で真っ赤になりました。
どうやら、この方は感情が表に出やすいようです。
貴族なのに、それでは困るんじゃないでしょうか。
「う、う、うるさい!
女は黙って、男の言うことを聞いてれば良いんだ!
平民と仲良くするよう女は、俺は貴族として認めない!」
「そういう差別主義は良くないって、ロックフィールド先生が言ってたでしょ?
あなた、授業、聞いてる?」
「失敬な、僕らは、君らより、ちゃんと勉強してる」
シルベスターさまがカンカンになって言うと、マーサが澄まして言ったんです。
「そのわりに、テストの結果が番付に載りませんわね?」
4人は、ギョッとしたようです。
番付に載らないということは、上位15人の中に入ってないことになるんです。つまり、平均以下ってことです。
3年のマキシムさまはともかく、1年のお三方は、私からノートを買って一夜漬けして、何とか補習を免れたって話です。
「エヴァほどの点を取るのは難しくても、番付に載るのは、私たちでもできましてよ」
スーザンが得意気に言ったので、4人組は言ってはいけないことを言ってしまったんです。
「何て、女たちだ。これだから、男爵家なんか嫌いなんだ。
貴族とは名ばかりで、平民と同じだ。
王宮の舞踏会だって、お情けで招待されたようなもんだ。
男の言うことを聞けない女なんか、こっちが願い下げだ!」
「こっちが下手に出れば、付け上がって。いい加減に思い知れ!」
「貴族としては、底辺だって自分の立場が分かってないようだ。呆れたね」
「誰がお前等みたいな、あばずれ、相手にするか!
あいつに頼まれたから仕方なく付き合ってやってるのに、思い上がりも甚だしい!」
男爵令嬢ズの演技は、完璧でした。
まるで、彼等の本音を初めて知ったような振りをして、茫然として見せたんです。
「そんな……」
テレサ、ちょっと、あんたは、男っぽさで売ってるんだから、やりすぎだよ。
「仕方なくお付きあいしていただいたなんて。
小説に出て来る当て馬令嬢でも、そんなことありませんわ」
マーサ、その台詞、準備してたでしょう?
「じゃあ、私がキンバリーだからって、好きでもないのに好きな振りをなさってたの?」
スーザン、あんまり言うと、金づるだって気づかれて逃げれなくなるから、ほどほどにね。
「エヴァと一緒に育って来た私を、平民だっておっしゃりたいんですか?
私だって、王宮の舞踏会に招待された歴とした貴族ですわ。
あなた方は、誰かに頼まれて、貴族とはお認めにならない男爵家の私たちとお付き合いくださったんですね。
そんな馬鹿げたことをあなた方に頼んだのは、一体誰ですの?」
パメラ、グッジョブ!
正気に返ったマキシムさまが、何とか場を取り繕おうとアワアワしますが、テレサが言い切りました。
「結構。そこまで虚仮にされてお付き合いを続けるほど、私たちは軽くないんだ。
お引き取りを願おう。
今後、一切、ご連絡なさらないようお願いする」
ミッションの失敗に気付いた面々が、慌てて言い訳したんですが、時すでに遅し。
「エヴァを馬鹿にするような人なんか、こっちから願い下げよ!」
って、パメラがタンカを切って、はい、お終い。
隣で一部始終を見ていたジェームズさまたちが、パメラたち男爵令嬢ズを労ってくれました。
マキシムさまたちのミッションが失敗したことを知ったら、黒幕のジルドやキャサリンさまは、どう出て来るんでしょう?
続編に続くって、感じです。
1月11日
男爵令嬢ズの演技に感心したエヴァ
PS ベネディクト家の使用人の皆さんのパーティーがどんなだったかって話が途中でぶった切れて、良かったです。
下手すると、『年越しの踊り』を布教してきたことを言ってしまいそうで、いくら男爵令嬢ズでもヤバイと思うんです。
マキシムさまたちを撃退した男爵令嬢ズですが、これから、どうなるんでしょう?