(5月20日付けの手紙)
5月20日分は長いので、幾つかに分けます。
お母さん
とんでもないことになりました。
この手紙は、とんでもないシリーズじゃありません。
私の手紙はこの言葉で始まることが多いから、「またか」と思うかもしれませんが、本当にとんでもないことになったのです。
ことの起こりは、禁書庫です。
ここんとこ、何とか禁書庫へ入れないだろうかって、そればっかり考えていたんです。
だから、毎日図書館へ行って、調べものをした後で禁書庫の前でうろうろするのが日課になっていたんです。
近くに誰もいないのを確認して、禁書庫の扉の開け方を調べるのです。
で、2週間ほど、そうやって「あーでもないこーでもない」ってやってたんですが、先日、何気なくドアノブを回したら、セキュリティの魔石に学生証をかざしてもいないのに扉が開いたんです。
ビックリです。
不思議です。
そもそも、私の学生証じゃ扉を開ける役に立たないのですが、それさえ使わなかったんですから。
唖然としました。
でも、フリーズしている暇はありません。
こんなチャンスは、そうそうないからです。
辺りを見回すと誰もいません。これ幸いと、中に入りました。
中には、たくさんの本がありました。上の方に小さな窓がありましたが、それ以外の壁一面しかも天井まで書架が続いていて、びっしり本が詰まってます。
端から必死でさがして、何とか、念願の転移魔法の本を見つけることができたときは、嬉しくて息ができないほどでした。
やったね!って、それを引っ張り出して、近くにあった閲覧用の席に座って読み始めました。
別に無詠唱で体を転移させるとか、人間を異世界へ転移させるとか、そういう高尚なことはどうでも良いのです。
そういう部分はすっ飛ばして、どんどんページをめくって行きました。
前にも書いたように、前々から、一種の魔道具にすれば良いんじゃないかと考えていたのです。
だって、手紙か何か小さいものを送れれば良いだけなんですから。
小さな魔法陣を送る場所と受け取る場所に書いておいて魔力を流す、そういう方法がないかと思っていたのです。
で、そういうことに使える魔法陣はないかと探しました。
件の本の一番最後の最後に、初級の魔法使い向けの「おまけ」として魔法陣を使った転移というのがあったんです。
これだ!と、思いました。
思わず、ガッツポーズしました。
そして、持っていたノートにその魔法陣を書き写しました。
正確に、そして、できるだけ速く。
誰かに見つかる前に書き終えて、ここを出なければならないのです。
息を止めて、必死で書き写しました。
無事、作業を終えると、欲が出てきました。
空間魔法の魔法陣も欲しくなったんです。
辺りを見回し、誰かいないか気配を探ります。
誰もいないことを確認して、空間魔法の本を探しました。
バッグやリュックに魔法陣を書いて、空間魔法を付与する方法があればベストです。
これも、魔法陣がらみの方法です。
こんなことは初級程度の魔法使いにこそ必要なのに、禁書庫に隔離する必要なんてあるんでしょうか?
生徒に対する嫌がらせだとしか思えません。
魔法学(座学)の授業で、初心者や魔力のない者(魔力のない者は、魔石を使います)は魔法陣に魔力を流す方法で魔法を使うことができると学んだのですが、空間魔法なんて大層なもの、魔法陣を使わない方法なんか思いつかなかったんです。
で、転移魔法と同じように初級の魔法使い向けの「おまけ」を探しました。
すると、ようやく見つけた空間魔法の本の、やっぱり最後の方に、初心者向けの魔法陣が書いてあるではありませんか。
嬉しくって、小躍りしながら、でも慎重にノートに書き写しいていきました。
せっせとノートに書き写し、後少しというところで、肩をポンとたたかれました。
正直、心臓が止まるかと思いました。
多分、椅子から体が10センチは飛び上がったと思います。
「君は一体、こんなところで、何をしてるのかな?」
声のした方へ首を巡らせる(多分、首が動く音がしたと思います)と、立っていたのは、あの男爵令嬢ズが『追っかけ』をしてるケント・マクスウエル・フォン・シールド生徒会長さまでした。
詰んだ。
目の前が真っ暗になりました。
エヴァは、偶然、禁書庫に入り、探していた魔法陣を手に入れますが、トラブルも一緒について来ました。