表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
30/103

(5月20日付けの手紙)その2

エヴァの受難は続きます。

 それから、奥の席で、ケント生徒会長による尋問が始まりました。


「名前と学年は?」

「エヴァ。1年です」


「じゃあ、エヴァ。

 僕は、許可を得てここに入って調べものをしていたんだけど、君は、どうやって入ったの?」



 普通、尋問するとき、「あなたには黙秘権がある」とか宣言してから始まるものなのに、唐突に始まったそれは、苛烈を極めるものでした。


 入学式で挨拶したときとは大違いです。

 黒い笑みを浮かべた彼は、魔王のように怖かったです。

 正直に言わないと、殺されるかもしれないと思いました。





 翌朝、気分は最低、寝起きは最悪、食欲は皆無、と三拍子そろった状態で、それでも薬草園の水やりだけは済ませて食堂へ行きました。動きがルーチンとして体に染み込んでいたんです。


 いくら食欲がなくても、成長期に朝食は大事です。ましてや、週末に薬草採取に出かけようと思ったら、体調をキープしなければならないのです。


 


 食堂に着くと、例によって、大勢の生徒が座っていました。

 水やりのせいで、私が食堂に着くのは、最後から数えた方が早いのです。



 驚いたことに、食堂に入るやいなや、座っていた生徒が一斉に私を見たんです。


 こちらを向いている生徒はちょっと目を向けただけですが、こちらに背を向けている生徒は一斉に振り返りました。


 これから食前の祈りをするというのにわざわざです。

 マナーにうるさい貴族の皆さまとは思えない行動です。


 その視線には、明らかに棘がありました。何やら嫌らしい笑いを浮かべてる者や興味深々の者もいました。ザっと見ても、好意的な者はいませんでした。




 これは……ヤバイことになってる。


 


 背中を嫌な汗が流れます。


 

 シクった。



 ちょっと考えれば、こうなることは予測できたのです。

 だから、もっと、頑張って交渉すべきだったんです。




 後悔先に立たず。

 後からクヨクヨしても始まらないけど、決定的なミスをしたことは確かです。




 禁書庫に入ったことを見つかったことは、痛恨のミスだけど、そんなことより、ケント会長からの申し出を簡単に受けてしまったことの方が、手痛い失敗ミスだったのです。

 



 でも、昨日は、頭が真っ白になって、言いなりになるしかなかったんです。




 無断で禁書庫に入ったのは悪かったかもしれないけど、全ては、一見さわやかな好青年、実は腹黒大魔王のケント会長のせいなのです。


 

 誰も彼の正体は知らないだろうけど、本当に彼は魔王さまなのです。


 


 でも、私が何をしたというんでしょう?


 いや、禁書庫に無断で入ったんだけど……。

 それにしたって、この状況は酷すぎます。



 いつもの席についたんですが、隣にいる男爵令嬢ズさえ空々しいのです。


 とりあえず、黙って朝食を食べましたが、味なんか分かりませんでした。



 そそくさと食事を終えて、教室へ向かうと、後ろから生徒会の役員の皆さまを引き連れたケント会長が私を呼び留め、授業が終わったら生徒会室に来るように、と告げました。

 まるで、死刑宣告です。


「みんなの前で、言わなくても良いじゃないの!」

と、文句を言いたくなります。



 でも、本人は、自分の行動にどれだけの影響力があるか知りもしないのでしょう。


 もっと、自覚をもって行動してくれ!と、言いたい気分でしたが、それをやると却ってややこしくなりそうなので口をつぐみました。




 それから、すぐのことでした。


 知らないご令嬢が数名で私を取り囲んで、強引に物陰に連れ込んだのです。


 つまり、拉致られたんです。



 想像通りの展開でした。


 これって、お約束の展開?

 がっくり来ましたが、こうなった以上逃げることはできません。




「あなた、どうやってケントさまをたぶらかしましたの?」



 来ました。


 美しい顔をゆがめて、頭の上から怒鳴りつけるのです。


 もう少し背が高ければ、上から見下ろして見返せたのに。残念。

 


 仕方がない。付き合いますか。


「平民風情が、どんな手を使ったか存じませんが、ケントさまが、あなたのような平凡で下品な平民なんか相手になんかいたしませんわ。

 思い違いしないことね」

「私たち、生徒会の雑用係になりたくて、応募しましたのよ。

 それなのに、私たちじゃダメだって断られましたの」

「一体、あなたなんかのどこが良かったのかしら。

 薄汚い、もっさりした、色気も教養もない小娘のどこが?」


 あまりの言われように、腹が立ってきましたが、ここは我慢した方が良いとの良識が勝ちました。

 

 下手に逆らったら、多勢に無勢です。いくらお嬢さまでも、持ってる教科書で殴ったり、手入れの良きとどいた爪で引っかいたりするでしょう。



 それは、ゴメンです。




「どこが良かったのかは、分かりません。会長に訊いてください」

「まあ、なんて生意気な!」

「私が訊いた限りでは、雑用係に頼む仕事が印刷業務だってことで、予算の関係で使用人に頼めないから平民の生徒に頼むしかなかったってことでした。

 皆さまのような、高貴な方にはお願いできない作業らしいです」


 やっとの思いで説明すると、


「印刷ですって?」

「はい、それだけだそうです」

「本当ですの?」

「私は、平日は薬草園のお世話をしなけりゃなりませんし、休みの日には、山へ薬草を探しに行かなけりゃならないんです。

 印刷以外の仕事があるなら、引き受けません」



 思いっきり開き直ると、気勢をがれたようです。


「本当なの?」

「嘘をついたら、どうなるか分かってらして?」

「分かってます」

 

 何が分かってるのかよく分からないけど、そう答えなければ解放してもらえそうにないので、適当に合わせておきました。



「一応、言い分は聞きました。今言ったことをたがえたら、承知いたしませんわよ」

「尊き方のお言葉、しかと胸に刻みました」

って、すぐに忘れるんだけど。


 という感じで、第一ラウンド終了です。






お貴族さまのお怒りは、すごいようです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ