Page.42「皮肉屋 - ③」
また数ヶ月空いてしまいました申し訳ありません……!!!
少しずつでも、ペースを戻せるよう頑張りますので何卒、長い目で見守っていただければと思います。
(加筆修正はまたのちほど……)
人の波をかき分けた先、クロエが言ってた通りの目印を見つけて急いで駆け込もうとした、そのとき。
「あ、ロプト!お前こんな所でなにやって────」
従業員の一人に声をかけられた。
何気なしに一緒にテーブル囲んでたから忘れてた、確かコイツも従業員だったよな……。
なんて考えが一瞬頭の中を通っていったけど今はそれよりも優先するべきことがある。
「────あ、アンタここの人だよな。その、悪いんだけど水を一杯だけでいいからくれないか……?ちょっとコイツ、体調が優れないみたいでさ……」
少し大きめの声で、従業員の言葉に被せる形に言ってしまったけどこれで大丈夫だろう。
俺の要求を聞いたのち、ほんの僅かにロプトへと視線を向けた従業員は「わ、分かりました直ぐにお持ち致します……!」と足早にその場を後にした。
そりゃこんな蒼白い顔してたら緊急を要することくらいは察しがつくか……コイツ、会ったときからそこそこ白っぽい肌してるなぁと思ったけど今それ以上だしなぁ……。
「……で、とりあえず着いたけど俺はあの人来るまでの目印にでも、ここで待っとこうか?」
「あ、あぁ……そうしてくれると、助かる……」
ロプトはそう告げるとふらふらとおぼつかない足取りで手洗い場のなかに入って行った。
……やっぱもう少し先まで肩貸してったほうが良かったか?
……にしてもあんな何考えてるか分からないようなヤツにも、弱点みたいなのがあるもんなんだなぁ少し意外……。
なんてことを考えているとさっき水を取りに行ってくれた従業員が戻ってきた。
「お待たせしましたお客様……!」
「ん、ありがとうな……ごめんな急にムリ言って」
礼を言いつつ差し出されたコップを受け取る。
いい感じにひんやりと冷たい……。
「いえいえ!お客様の要望にいつでもお応えするのが我々の仕事ですので……!!」
お、おぉ……しっかりした従業員魂だことで……凄い熱意を感じる……あ。
「……なぁそういえばアンタ、ロプトに何か用があったんじゃないか……?さっきのあの勢いから考えるとただアイツのサボりを注意しに来たわけでもなさそうだったけど……」
「お客様、かなり勘が鋭いって言われたりしませんか?」
クロエが時々言ってくるくらいでしかないから実際のところ、そんなに自分の勘が冴えてるとかは思ったことないけどなぁ……それに────
「この宿の中だけでも俺よりもっとすごいの居るだろ。例えばほら、“大災厄”の悪魔とか」
────勘が鋭すぎるわそれが基本的に当たるわでなんて言うかもう、未来が視えてんじゃないのかってヤツが。
「そ、そうでしたね……昨日は随分とご活躍なされていましたし……あのお方が六百年前に、あんな恐ろしいことを…………」
「……なにか、理由があるのかもしれないな?」
……一体今度は何やらかしたんだアイツ…………朝ご飯食べてる最中にも来る人みんなお礼言ってたけど……。
……まぁでもさすがにそこの連れだとは、泊まってる人数ごまかしてるなんてことは口が裂けても言えないしなぁ……。
そんなことしようものなら確実にクロエたちに迷惑が掛かってしまう、それはどうしても避けたい。
話題に勝手に挙げたの俺だけど、あまりこれ以上そこ関連に触れられては正直困る────と思っていた矢先、ロプトが手洗い場から出てきた。
「……ッはぁ……何も出なかった……」
「お、戻ってきた。何もなかったならそれはそれで良いじゃねぇかよ……ほら、飲めそうか?」
内心ホッとしながら、ロプトに水の入ったコップを零さないように注意を払いつつ差し出す。
「……悪い……先輩も、わざわざありがとうございます」
食堂に居たときのどこか余裕のある掴みどころのない表情からは想像もつかないほど、心の底から申し訳なさそうにしながらもロプトはコップを受け取ってくれた。
……こういうとこは普通のどこにでも居るような人間らしさ、あるんだよなぁ……でも、それならずっと感じてるこの違和感は…………?
「かわいい後輩が具合悪そうにしてんだ、そのくらいのことはしてやるさ。……それはそれとしてお前、オーナーに『休職届』出したって本当か?」
おいそれ、俺が聞いて大丈夫な話だったか……?
……まぁ急いで訊きたいことだったんだろうな。
「あーその件か……出しましたよ、今朝方にね」
コキュリと喉を鳴らしながら水を口にしたロプトは『なんだ、そんなことか』とでも言いたげな、どこかつまらなそうな声で言葉を続ける。
フゥを怒らせたときみたいに急にスッ……と雰囲気が変わった……なん、なんだ……?
「……もし俺の分の穴埋めるんなら五人くらい雇えばちょうど良いくらいかと……ま、俺に渡す分の給料を五分割することにはなるでしょうが」
「は……!?いやお前それは……」
さすがの先輩従業員もロプトのこの発言には驚いて言葉の続きを紡げないでいる。
「うわ、なんかすげぇこと言ってる。バカな俺でもわかる、それ絶対やっちゃダメなヤツだろ」
「それは一般人が相手だったらの話だな。あとアンタは別にバカじゃねーよ」
「……そりゃどーも」
フゥも言ってたけど確かに、コイツと話してるとこっちの調子を狂わされそうになる……それはそれとして、ロプトの言葉通りなら穴埋めに使われるその五人くらいの存在は一般人じゃないってことになるけど……コイツの仕事量そんなにあるのか……?
てか一般人じゃない存在ってなに……俺やフゥみたいなヤツのことを指してるとしても五人も居ねぇだろうし……。
「俺の予想が正しければもう少しすればオーナーの所に『雇ってくれ』って言いに来ると思うのでま、そっちは先輩に任せました☆」
人に頼む態度じゃねぇ……!
キラッとすなキラッと。
「おぅおぅ元気になったのは良いが丸投げしてくるじゃねぇか……はぁ〜、お前ほど変わったヤツじゃないことを祈るよ……それで?ロプトの方はこれからどうするんだ?」
……確かに、それは気になる。
「そうですねー……久々に旧い知り合いに会ったらなんか旅してるとか言ってたのでそれに同行させてもらおうかと。まだ許可とってないですが」
ん゛ん゛!?
許可もとってないのに先に仕事休むって言ったのかコイツ……!
あと多分俺たちのとこについてくるつもりだよな……ロプトの古い知り合いって、フゥのことだろ……。
クロエが断るとも思わないけどさぁ……。
「お前なぁ……せめてその人達からの許可がとれてからにしろよ……」
「とれなかったらそのときは俺一人でまた旅するだけなんでね」
そういやさっき『ルブランを出てから色んなとこに行ってた』みたいなこと口にしてたな。
「そうか……まぁ、達者でな?」
先輩従業員は薄ら笑顔を零し、俺の方に軽くお辞儀をしてから背を向けて歩き出した。
「……あ、そうだ先輩」
────が、それをロプトが引き留めた。
「な、なんだ?」
「……グラス、ありがとうございました。ついでに返しておいてもらっていいですか?俺一応、ここの従業員ではなくなったので返しにいけなくて……」
一瞬の間のあと、そっと空になったコップを差し出す。
「ったくお前ってヤツは…………ちゃんと返しておきますよ、お客様」
呆れたような表情を見せつつも、しっかりと客への対応を欠かさない────それはまさに、従業員の鑑のような人だった。
「……本当に、あの人が俺の先輩で良かったよ」
「それを直接言えばいいのに」
先輩従業員の姿が見えなくなってからそんなことを言い出すロプトに思わず言い返す。
「素直なのは、俺のガラじゃないからなー」と言われてしまったけど。
「……ガラかどうかは知らねぇけど、お礼とかそういうのはできるだけ言っておく方がいいと思うぞ……いつ、伝えられなくなるとも限らねぇんだし」
「ん……そうだな?」
怪しまれただろうか、キョトンとした顔で少しの間ロプトは俺に視線を向けていたけどいきなりやめ、軽く伸びをしてから「そろそろ戻らないと心配されてるかな……」ともと来た道に視線を移した。
「かもな、戻るか……でも俺、お前連れてくるので頭いっぱいだったからどう戻ればいいか分からねぇんだけど」
「くすっ……ご安心をお客様、俺は元従業員ですので場所の把握はきちんと、心得ておりますよ」
戻れないことを覚悟してたけどそうだ、コイツは元従業員だ……そのキラキラオーラを頼むからしまってくれ……。
なんとか困ることもなさそうだとホッとしつつ、俺たちはみんなが待つ食堂へと向かうことにした。
※ロプトくんとクローくんの“ふるい”の表現、誤字ではないのでそこはご了承を。




