Page.15「“探し物”と“忘れ物”」
クロエ達と分かれて行動することにした俺らはカインとともに、教会に向かった。
それぞれの目的を果たすために。
……俺の目的は別にいいとして、クレアは一体、教会に何の“忘れ物”をしたのだろうか。
……まぁ、いいか。
「そういえばあの二人、一体どうやって出会ったんだ?」
カインがそう訊いてくる。
あー、そういえば話してなかったか。
「クロエ曰く“夢の中”で、だそうだ。たまによくある事例だな」
「どっちなんだそれは……」
カインが目を細めながら言う。
「なら、あのペンダントは一体いつ……?」
「それも“夢の中”で、だ」
それを聞いていたクレアが────
「私も昔、あったような……?」
────と呟く声がした。
「あったぞ、結構な頻度で俺と」
俺がクロエの話を聴いてあまり驚かなかったのは、俺も同じような経験をしたことがあったから。
クレアと夢で会ったし、互いにモノも交換した。
次の日に返したりもしたけど。
「特定の人間同士に起こるものなのか?」
「どうだろうな。少なからず、クロエとシエラに起こったのはまだ一度だけだ。……俺らは多分、固定みたいになってたんだろうけど」
確証はないけどおそらくは、そうなんだと思う。
……特定の人間同士、か。
“信頼しているか”みたいな理由なら、確かに俺とクレアは当てはまる……はず。
けど、何の接点もなかったクロエとシエラはどうして急に……
「今日のフゥ君は、考え事が多いみたいだね?」
いつの間にか、少し前を歩いていたクレアが唐突に話しかけてくる。
俺の顔を覗き込むようにして。
……もしかすると、考え事をしていたせいで自然と俺自身の歩く速度が遅くなっていたのかもしれない。
「まぁ……考え事が多いというか、色んなヤツがそういう話題を持ち込んでくるから、なんだけどな……?」
俺はじっと見てくるクレアの視線から逃れようと目を逸らしつつ、そう答えた。
「むっ、何で目を逸らすかなぁ……」
クレアは俺のそんな行動に対し、頬を膨らませながら文句を言う。
「見つめられんのあんまり好きじゃないって言ったことなかったか……?」
「んー、言ってたような言ってなかったような……?」
首を傾げながら言われた。
確か言ったことがあるんだよなぁ。
まぁ、憶えてないのに言っても意味ないか。
はぁ……クレアに見つめられることだけは、いつまで経っても慣れることがない。
どうやらそれは、今でも変わらないようだ。
「ん、着いたぞ」
俺らのやり取りを見てカインがどこか呆れたような表情をしながら言う。
いつの間にか教会に辿り着いていたらしい。
「さて、場所が場所だから俺は口調を戻すとしよう……貴方達は何やら教会に用事があるようですがそれはどういったご用件で?」
切り替え早いなー……。
「俺は教会というより教会の隣の書庫に用事がある。クレアは……“忘れ物”を探すんだったな」
クレアはコクっと頷いた。
「書庫に?それは一体────」
「あ、理由はすっげぇ個人的なことだから訊くなよ」
訊かれたくない。
というか話したくない。
「……まぁ、いいでしょう。気が済むまで探してください」
何かを諦めたような表情で、カインは俺らの教会と書庫の立ち入りを許可してくれた。
さぁて、探すとするか。
────俺が最も憎んでいる司教の名前を。
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フゥ君は書庫に用事があるとかでそのまま行ってしまった。
というわけで私はカインさんとともに行動することになった。
「それで、貴女の“忘れ物”はどこに?」
「えぇとそれが……よく憶えてないんですよね……どこに置いたのか」
……教会にあることは確かなのに。
「はぁ……まぁ、とりあえず探しますか?一応、手伝いますけど」
カインさんがそう申し出てくれた。
これは……お言葉に甘えさせていただくしかないみたい……?
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書庫に着いたのはいいけど問題はどこから手をつけるか、だな。
……俺の記憶にある書庫内の本の配置は変わってなさそうだしまぁ、新しく増えたであろう本の場所を探せば多分見つかるはず。
「……見つけたところで、どうにかなるとも思えないけどなぁ?」
俺らと同じように“存在る”とすれば、そいつはとっくに人間を辞めていることと同等だろう。
「まぁ、適当に探してみるか」
ー数分後ー
「ん、あった」
『大災厄死傷者調査書』。
……願わくば載っててほしいところだが。
ーさらに数十分後ー
「……ない、よな……これ……」
何度見返しても、どこにも司教の名前は見つからない。
────俺やクレアの名前はちゃんと載っているのに。
「なんで、どこにも載ってないんだ……?」
……“大災厄”では死ななかった?
俺は……“殺しそびれた”?
一番に殺さなきゃいけなかったはずの存在を?
「ふざ、けんなよ……っ!」
────行き場のない感情が激しく渦巻いていく。
思わず『大災厄死傷者調査書』を床に投げつけようと────
「────っ……ん……?」
────したが視界に入ってきた“それ”の方が気になって、止めた。
俺が今居る場所から少し離れた場所にある台の上に置いてあったそれは────
「……これって……確か……」
────俺がクレアと初めて出会ったときに渡したモノだった。
「まさか、クレアの“忘れ物”って……」
……教会で探しても見つかるわけがねぇぞ、これなんだとしたら。
「はぁ……面倒だけど、渡しに行くか」
ため息を吐きつつ、俺はそう言うと軽く地面を蹴って“跳んだ”。
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カインさんに手伝ってもらいながら
礼拝堂の中をあちこち探し始めて数分、私の“忘れ物”はどこにも見つからなかった。
「どこに置いたんでしたっけ……」
「全然見つかりませんね……」
……正直に言うと、そろそろ疲れてきた。
「少し、休憩しますか?」
「……そう、します」
カインさんの勧めで、私達は一度、休むことにした。
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「……個人的なこと、訊いてもいいですか?」
カインさんが唐突にそう言った。
「いいですけど……」
「……どうして、彼は人を嫌うんです?」
どうして、か……。
勝手に話したら、怒るのかな……フゥ君は。
……まぁ怒られたら、そのときは素直に謝ろう。
「……多分、ですけど……フゥ君のお母さんのことが主な原因だと思うんです」
「それは……一体どういう……」
……出来れば、思い出したくはない。
“あの時代”に生きていた人はこう言ってはなんだけど、狂っていたのだ。
……“特別な人間”を“自分達と同じ人間”として扱うことすらしなかったんだから。
「……フゥ君のお母さんは“聖女”だったんです。少し体が弱くて、病に倒れることが多かった……そんな人でした。……そんな人だと、みんな知ってたのに……誰も、医者に診させるわけでもなく、『“聖女様”が病気になんかにかかるわけがない』と言い張り続けて……」
「……それでその……彼の母親は……?」
カインさんはその後に何があったのか、分かっているようだった。
分かっていても、あえて訊いたようだった。
「……亡くなりましたよ、あっさりと」
その一言を聞いて、カインさんは私に何かを言おうと口を開きかけたがそれを止めた。
少し待つと────
「えぇと……つまり彼は、その“言い分”のせいで母親が死んだということで、恨んでいると……?」
────と質問がきたが、私は首を横に振った。
「“言い分”のせいではないかと……確かに、そのことでフゥ君はよく、大人達と揉め事を起こしてましたけど……そのあとの、後任の“聖人”か“聖女”を決めたあとの方が問題だったのかもしれません」
後任の“聖人”か“聖女”────これは私とフゥ君のことだ。
「……誰がやるのかとなったとき、司教様が私とフゥ君に任命したんです。……そう決まってから、フゥ君に対して酷いことを言っていた大人達は、手のひらを返したように、態度を変えて……それが、我慢ならなかったのだと」
それはもう、気持ち悪いくらいに態度が変わっていたのだ。
「誰だってそれは……嫌いになりますね……多分私でもそうなりますよ」
「……昨晩フゥ君と再会して、安心したんです。その、友達……出来てたので」
シエラが“ノアさん”と呼んでいたから、私もそう呼ばせてもらおうかな……シエラより先に私が普通に名前で呼ぶのは、なんだか気が引けるし。
「本当に貴女以外に友達、居なかったんですか……いやまぁ、仕方ないかもしれませんけど」
「私のこと、どう思ってくれてるんでしょうね……?」
フゥ君、そういうのあまり言わないからなぁ……。
「さぁ……?それは私にではなく、本人に直接訊いてみてはどうです?」
それもそうだ、カインさんは正しい。
「そうですね……まぁ、そんなことよりも先に“忘れ物”探さないと……」
「貴女にとってそれは、どういうものなんです?」
どういう……
「んー……“一番の宝物”、ですかね……」
一言で言えばそんな感じのモノだと思う。
「聖女に選ばれたとき、怖くて逃げたんですよ、集落の外にある花畑に……」
とても大きくて、綺麗な花畑が昔はあって、私はそこに行くのが密かな楽しみで仕方がなくて……
外に出られる機会があるときには、真っ先にそこへ向かっていた。
「私、そこで泣いてたんですよ、それも結構長い時間。……それなりに暗くなってきて、一人では集落に戻れないかもしれないって最後の方には思ってたかな……」
苦笑しつつ、私は懐かしみながら言う。
あの日のあのときの出来事はっきりと憶えている。
「それでまぁ……どうしようって思ってたときに、急に────」
────急に、誰かに頭の上に何かを乗せられた。
驚きながら振り返ると────
「────“忘れ物”っていうのはこれのことですかね、“聖女様”?」
────イタズラが成功したとでもいうかのように、どこか嬉しそうな表情を浮かべたフゥ君が、そこには居た。
「え、フゥ君……?ど、どうして……」
「動揺しすぎだろ。まぁどうしてかって言うと、“探し物”してるときに見つけたからもしかしたらクレアの“忘れ物”ってこれだったのかなーと思って届けに来た」
なる、ほど……?
え、書庫にあったんだこれ……。
「それは……“花冠”、ですか?」
「そう。色々あって近所の花畑でずっと泣いてたクレアにどうすればいいか分からなかったからとりあえずササッと作ったんだったかな」
ちょうどその“色々”の部分を話してたんだよフゥ君……。
「随分と手先が器用なんですね……というかどうしてまだ、それは綺麗なままなんです?貴方が何か細工を?」
「細工というか……ちょっと魔法を使って枯れないようにしたんだったと思う」
この花冠は“大災厄”のときに焼けたりしなかったのか……。
「ん、そういえば貴方、魔法が使えるのか訊いたとき、何か言ってませんでした?」
「あぁ、ただ単に言い方のことをな。“魔法”ってのは三種類くらい呼び方があるんだ」
そういえばフゥ君が魔法を使えるようになったのって確か……“聖人”になってからだったような……?
「“魔法”っていうのは“使用者のみに影響を及ぼす”もので、“魔術”は“使用者以外の第三者に影響を及ぼす”もの。そして最後が“秘術”で確かこれは……“使用者を含めた広範囲に影響を及ぼす”もの、だったかな」
「細かいんですね、“魔法”というものだけで……ん、そういえば、貴方の“探し物”は見つかったんですか?」
カインさんのその言葉に、フゥ君は少し表情を曇らせて────
「いや残念ながら、だな……まぁ、見つからなくても、大丈夫なものだったんだけどな」
────と言った。
一瞬、間があった。
……本当に、大丈夫なものだったのかな?
「……さて、俺は見つからなかったけど、クレアの方は見つかったわけだし、そろそろ帰るとするかな」
フゥ君が疲れたような表情を浮かべながら言う。
「え、探さなくていいんですか?」
「言っただろ、別に見つからなくても大丈夫なものだって。あ、ちなみに書庫はそのままにしてここに来てるから片付けは頼んだぞ神父」
カインさんは「えぇ……」とでも言いたげな顔をした。
だが、フゥ君はお構いなしというような感じで────
「あまり帰りが遅くなるとキリカに怒られるんでね。……俺らの家に来る前は“教会”に居たんだろ?」
────と尋ねた。
えっ……?
「そうですが……なぜそう思ったんです?」
「キリカの持ってる銃剣とお前が使ってる拳銃、二つともに“十字架”があったからな」
……よく観察てるなぁ。
「あの子、元気にしてるんですか?」
「元気過ぎだ。結構な回数でクロエが振り回されてるぞ。俺はまぁ、キリカにイタズラ仕掛けて遊んでるかな」
あのフゥ君がここまで性格が変わってるとは……!
人にイタズラして喜ぶまでになったんだ……。
「あと、一つ言おうと思ってたんだが、別に勝手に俺のこと話しても怒る気はないぞ?」
「え……?!」
な、なんでそれを……
「クレアは表情に出やすいからな。俺が花冠届けたときに浮かべてた表情は“驚き”よりも“不安”の方が若干強い感じだったんだ。だから多分、俺のことで何かあった。だとしたらそれは俺の過去を話すことだと考えたわけだ」
フゥ君の頭の中って一体どうなってるんだろう……。
「その程度じゃ怒らない。クレアになら尚更だ……俺の“一番の理解者”なんだし、な」
僅かに顔が赤いような気がする。
「仲が良くてなによりですねぇ……帰るならさっさと帰ってもらえませんかね?」
怒っているのか、カインさんは少し低めの声で言った。
「おぉ、怖い怖い。んじゃ、お言葉に甘えて帰るとするか」
そう言うとフゥ君はスタスタと礼拝堂の入口まで歩いていった。
「あ、えぇと……探してくださって、ありがとう、ございました!」
カインさんにお礼を言ってから私は、急いでフゥ君のあとを追いかけた。
────最後に見えたカインさんの表情は笑っていたような気がした。




