Page.13「一難去って……」
また後日、加筆修正致しますm(*_ _)m
(追記:加筆修正致しましたが、もしかするとまだ残ってる可能性があるかもしれません)
クレア達と話しているうちに、『なぜシエラの姿が変わってしまったのか』ということに対する一つの“可能性”を思いついた。
俺はそれを試すために、すやすやと寝息を立てて眠るシエラのもとに近づき、身を屈める。
「フゥ君……?」
「なぁクレア、“結界”ってどういったものだった?」
クレアの声に被せるように俺はそう尋ねる。
「え?えぇと確か……“新たな空間を作る魔法”、だったっけ?」
不意に投げかけた質問に、クレアは一瞬戸惑ったようだったが、素直に答えてくれた。
お、割と憶えてるんだな。
「そう、正解。それで、無理矢理壊すとどうなるんだった?」
「……“何かしらの影響が出る”んだよね。特に、“聖人”や“聖女”はその影響を受けやすいとも言ってたかな?」
すげぇな、完答じゃねぇか……。
「……もしかしてフゥ君、シエラの姿のことで何かあった?」
クレアのその言葉に、俺は頷いてみせる。
「『魔法には魔法で対応せよ』って言葉があるだろ?」
「……“やられたらやり返せ”みたいな意味の言葉じゃなかったか?」
クレアが答えるよりも先に、カインが口を挟んできた。
確かそんな感じの意味だったような気がする。
俺はクロエほど博識じゃねぇから、いまいち覚えてないけどな。
「大体合ってるはずだ。……まぁでも、その言葉が言いたいことって要は、“魔法を使ったことによる影響は魔法で対処することができる”ってことだろ」
「……お前、魔法が使えるのか?」
「魔法というか……いや、今は説明してる時間が惜しいからそれはあとで。……さて、と」
俺はシエラの方に視線を戻し、額に軽く触れてみる。
恐らくというか見たままというか……シエラに出た影響ってのは『容姿変化』の“魔法”あるいは“能力”の類のものだろう。
んー……この場合はどれを使えば……。
今の俺の中に一体どれほどの魔力があるのか、それさえ分かれば加減はできるんだけどな。
────まぁ、倒れたらそのときはそのとき、か。
などと、そんな感じのことを考えつつ、俺は声には出さず、心の中で“術式”を構築する。
……上手くいくといいけど……ん?
────不意に、青白い蝶が一頭、視界を遮るかのように横切っていった。
今のは……?
「へ……?フゥ君、一体何の魔法を……」
クレアが素っ頓狂な声を上げつつ俺に訊く。
シエラの方を見るといつの間にか、俺が初めて見たときの姿に戻っていた。
先程と変わらず、眠ったままではあるが。
「別に、特殊な魔法は使ってないぞ」
いや、魔法ってだけで特殊か。
「で、でも……あの蝶は一体……?」
「クレアにも見えたのか。……アレは俺も気になってるんだ。俺が魔法を使った影、き……」
────突然、とてつもない倦怠感に襲われ、俺はその場で倒れ込んだ。
「なっ……?!おい、大丈夫か!?」
カインが慌てている声が聞こえる。
「……あぁ、そういう、ことか……」
こんな状態になってようやく、“答え”が出た。
「と、とりあえずベンチにでも……」
それは……寝てるシエラを起こせって言ってるのと同じだ……さすがに、それは止めるぞ……。
「ん……」
……なんてことを考えていたら、自力で起きたみたいだな……。
「あ、シエラ目が覚めた?!えぇと……と、とりあえず起き上がってもらってもいい!?」
いやいや、そんなに慌てて言わなくても……。
「え……ぁ、え?!な、何があったんですか!?」
最初の『え』は多分クレアが何を言ってるのか分からなかったんだろうな……。
その次の『え』は俺のことを見て言ったんだろうな……そりゃあ、起きたら俺が足元に倒れてるんだし、驚くのも無理もない。
「ちょっと、色々あっただけ、だ……」
そんなことを言いつつ、俺はシエラが開けてくれたスペースに腰掛けた。
「その色々の部分を説明してくださいよ……」
説明したところで、シエラは自分の身に起きていたことを理解ってくれるのだろうか。
「……もしかして、覚えてないんですか?先程までの貴女に、何が起きていたのか」
カインが神父のときの口調に戻し、シエラに尋ねた。
シエラは、カインがここに居ることに驚いたらしく顔がみるみるうちに青ざめていった。
「ど、どうして貴方が……?」
声が僅かに震えている。
連れ戻されるかもしれないと思ったのかもしれないけど……。
「あぁ……警戒しなくても、いいぞ……。別に、シエラを連れ戻すために来てる訳じゃ、ないから……」
俺はなんとなく、カインに対する誤解を解くことにした。
でないと、他のことの説明すらできないからな。
「え、えぇと……そう、なんです……?」
おずおずとシエラは訊いた。
その質問に、カインは頷きで答える。
「なぁ……その口調、戻してもいいんじゃない、か……?一応……シエラは聖女を辞めたん、だし……無理に一般人にその口調を使う必要はない、だろ?」
「いやお前が言うなよ……」
カインはため息を吐きつつそう言った。
「えぇ……あ、そういえば、どうして“悪魔”さんは倒れていたんですか……?というか……大丈夫、なんですか……?」
困惑したような表情を浮かべてから、ふと思い出したようにシエラは俺にそう尋ねた。
「まぁ……今のところは大丈夫……さて、どこから話したもんかな……まぁ、今朝の話からで、いいか……」
そんなことを呟いてから、倦怠感が少しずつマシになっていくのを感じながら俺は、シエラに今に至るまでの経緯を話した。
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「えっと……つまり、“悪魔”さんは、“結界”を壊してしまったせいで幼くなってしまった私を元に戻すために魔法を使った……と?」
うんまぁ、間違ってはいないな。
“魔法”なのか“能力”なのかは分からないところだが。
「それで魔法を使ったら……私の方から蝶が出てきてそれに魔力を“吸い取られ”、倒れてしまったと……」
“吸い取られた”というか“喰われた”というか……まぁ、術者の魔力を吸収、変換するある種の“特異魔法”をシエラは使えたってことなんだろうな……意識の有無を問わず作用するとは思わなかったけど。
「フゥ君、大丈夫?」
クレアが心配そうに俺の顔を覗き込む。
「……ん、倦怠感は完全になくなったからまぁ多分、大丈夫のはず」
倒れたらそのときはそのとき、なんてさっきは考えてたけど、まさか“喰われる”とは思っているわけもなく。
“枯渇状態”になって倒れたならば魔力は自然に回復する。
だが、魔法によって奪われた魔力が戻ってきたなんて事例、俺の知る限り、一度も挙げられてない。
うーん……奪われた魔力はそのまま、か……。
などと考えていたら、不意に額に何かが触れる感触があった。
「ん……?」
見ると、クレアが俺の額の方に腕を伸ばしていた。
ほんの僅かに、ひんやりとしている。
相変わらず、体温が低めだなー……。
「私になら、なんとかできるかなって思ってさ……効果あるといいんだけど……」
クレアがそう言ってる間に、力がみなぎってくるような感覚が、じわじわとやってきた。
クレアの“能力”ってやっぱ凄いなー……。
「どうやら効果、あったらしい……ありがとな」
俺が感謝の言葉を伝えるとクレアは、はにかんで笑った。
「……さて、クロエの様子はどうなってるかなーっと……」
「あの、“悪魔”さん……アレ、大丈夫なんですよね……?」
クロエの方のことが気になってきたため改めて確認しようとすると、シエラが何とも言えない複雑な表情を浮かべながら訊いてきた。
現状、クロエは何やら自分の周りに数本のナイフを“創り”、刃先を男達の方へと向けていた。
あー……アレはマズいか……色んな意味で。
……自我を飛ばさなきゃいいが。
「大丈夫……だといいんだけどある意味危ないかもしれないな。クロエが自分の周りで漂ってるナイフを放ちでもすれば、の話だけど」
早めに止めないと、俺みたいに人の道を外れることになってしまう。
それだけは避けないと……でも、どうやったら……あ、そういえば。
「なぁカイン、お前演技とか得意か?」
「何を突然に……まぁ、どんな役をやるかによるが……何か思いついたのか?」
お、やってはくれるのか。
「役は神父でいい。教会は“悪人を裁く”役割もあっただろ?それを利用すればなんとかなるだろ。……できることなら、シエラにも手伝って欲しいが……」
「え、私も……ですか?」
頷いてみせる。
「何か喋れとは言わない。……人と話すのが苦手だってことはクロエから聞いてるからな。……何も言わず、ただ神父の後ろをついていけばそれでいい。あ、フードは被っておいたほうがいいかもしれないな?」
「わ、分かりました……!」
……台詞とかその辺りはカインに任せよう。
「んじゃまぁ、あとは任せた」
二人は互いに頷き、クロエの居る方へ歩いていった。
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「……てなわけで、神父とシエラには一芝居打ってもらったわけだ」
フゥが今までの経緯を話してくれた。
へぇ……芝居、ね……。
「芝居にしては俺を殴った威力が高かったような気がするんだけどなぁ……?」
嫌味のように言ってみる。
なぜ俺が不機嫌なのかといえば、俺が創ったナイフを投げようとしたその瞬間に、神父ことカインが現れて、俺が何か言おうとした途端、『問答無用』と言わんばかりに俺だけが殴られたから。
まさか殴られるとは思ってもみなかったため、受け身の姿勢も何もとれず軽く吹っ飛ばされた。
「まぁ……あの状況で口実にすることが急には思いつかなかったからな……一応、加減はしたつもりだ」
「つもりじゃ確実にしてるわけじゃないからな?!」
ちなみに、他の男達の方は俺が殴られて吹っ飛ばされてそのことに文句を言っているすきに全員、その場から逃げていた。
「でもまぁ、殴られただけで済んでよかったんじゃねぇの?一般人に“能力”を行使して負傷させてしまったら、それこそ処罰の対象にされてしまうわけだしな。……嫌だろ、あんな奴らのせいで処罰を受けるのは」
フゥが真剣な眼差しで俺に訊く。
「まぁ、な……」
もしそうなれば、殴られるよりも痛い思いをしそうだ。
それに、周りの人達にも迷惑をかけてしまう。
主にフゥやキリカに。
あまり他人に迷惑はかけたくないな……。
「あの……大丈夫、ですか?」
あれこれ考えていると、シエラが心配そうに声を掛けてきた。
「あぁ、もう痛みも残ってないからな。……ごめんな、心配かけて」
俺がそう言うと、シエラは首を横に振った。
「貴方が謝る必要はありませんよ……ですが、あまり無茶はして欲しくありませんけどね」
「……今後気をつけます」
などとそんなふうなやり取りを交わしていると、不意に、誰かが近づいてくる気配を感じた。
気配がする方を見ると、先ほど男達に連れ去られそうになっていた女性がこちらに向かってきていた。
「あ、あの……!」
声を掛けられる。
「ん?」
「その……先ほどは、ありがとう、ございました……助けていただいて」
別に、お礼を言われるほどのことはしてないんだけどな……。
「お礼はいい……俺は、自分のために行動しただけだから」
────“傍観者”にはなりたくない、なんていうただの自分勝手な考えで動いただけだし。
「……確かに、あなたからすればそうなのかもしれません。ですが、あなたの“自分のためにした行動”によって、私が救われたのは、紛れもない事実ですよ」
ん……まぁ、事実はそうなのかもしれないけど……
「ですから、何でもいいので、何かお礼をさせてください。言葉だけでは足りませんので」
これは……俺にとっては面倒事だな……。
面倒事はあまり好きじゃない。
でもこの状況だと、この人に何かお礼をさせてあげないとダメなのだろう。
さて、どうしたものか。
ふむ……。
……あ。
「クレープ……」
「はい……?」
考えた結果、ある一つの“案”を思いついた。
「イチゴのクレープを一つ、無料で作ってくれれば、それでいい」
「わ、分かりました!すぐにお作りいたしますね!!」
そう言うと、女性はササッとクレープを作るために小走りで車の方へと戻っていった。
それを黙って見ていたフゥの、「あぁ、そういうことか」という呟きが聞こえた。
さすがはフゥだ、察しがいい。
「えーと、どういうこと?」
いまいちピンときていないクレアがフゥに尋ねる。
「ん、シエラはさっきの、小さい方のシエラだったときのこと、憶えてないんだろ?」
「……全くと言っていいほど」
シエラは素直に答えた。
「つまり、『まだクレープを食べたことがない状態』なわけだ……確かに、急に言われても思いつかないもんなー」
有効的に使うにはどうするのが最善かを考えるとそれしか思いつかなかった。
要は俺は、俺に対するお礼をシエラの方に回したというわけだ。
勝手に決めてしまったけれど。
……にしても、どうして俺は真っ先に、シエラのことを思い浮かべたんだろう。
俺には自分のことなのに、そのことが不思議で仕方がなかった。
果たして“これ”は、すぐに答えが出せるようなものなのだろうか……?
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そんなことを考えているうちに数分が経った。
どうやらクレープが完成したらしく、先程の女性が小走りでこちらに届けに来てくれた。
俺はそれをシエラに手渡す。
最初、おそるおそるではあったが一口、口にすると、シエラの顔がふにゃり……と綻んだ。
どうやら、気に入ってくれたらしい。
そしてあっという間に食べ終わり、感想を必死に伝えようとしていた。
シエラが一通り伝え終わったところで、カインが一度、教会の方に戻ると言い出した。
「あれ、今日は休みなんじゃなかったのか?」
「いやまぁ休みではあるけど、万が一何かあっても困るからな。一応戻って、確認が必要なものだけ確認したら家に帰るつもりだ」
確認が必要なものなんてあるのか。
「あ、そうだ。俺もカインについて行っていいか?少し、探したいモノがあるんだ」
「あの……私も、いいですか?……“忘れ物”を、取りに行きたいので……」
フゥとクレアがそれぞれ、何かを思い出したらしくカインにそう訊いた。
フゥは恐らく、今朝話していた『死傷者リスト』のことだろう。
クレアは……何だろう、想像がつかない。
「……それは別に構わないけど、荒らしてくれるなよ?……二人はどうするんだ?」
カインが俺達に話を振ってきた。
「まぁ……特に用事もないから俺はそのまま家に帰るかな……シエラは?」
「私は……教会には行きません、よ……?」
「だろうな……」
昨日出て行ったばかりなのにまたあの場所に戻るのも変な話か。
だとすると必然的に俺の方に付いてくるってことか。
「よし、二手に分かれて解散な」
「ん、夕飯までには帰るぞー……多分」
子どもが親に言うようなセリフだな……。
「「────それじゃあ、またあとでな」」
俺とフゥの言葉が重なり、俺達はそれぞれのルートで帰路につくことになった。
……あれ、何か忘れてるような…………?
────────────────────
「あの赤い果物……イチゴ、でしたっけ?……すごく、美味しかったです!」
さっきも聞いたぞそのセリフ。
「あんなに美味しいモノがあるとは……教会の外には、私の知らないモノがたくさんあるんですね……!」
あぁ、一度も教会の外に出たことがないんだし、そう思うのも頷ける。
「ん、あれは……?」
急にシエラが立ち止まり、何かを見ている。
「どうかしたか?」
「あの子……どうしたのでしょう……」
すっ────とシエラが指さしたその先には、女の子が一人、何かを探しているのかキョロキョロしながらこちら側へと歩いてきていた。
見た感じ、幼い方のシエラと同じかそれより少し年上くらいか……?
あの様子だと恐らく……
「迷子、かもしれないな」
「……そうかも、しれませんね」
シエラが俺の方に視線を送ってくるのが視界の端に見えた。
『助けないんですか?』と言わんばかりに。
「……仕方ない、行くか」
俺はため息を吐きつつ、そう言った。
シエラの表情がパッと明るくなった。
さて、それじゃあ迷子の手助け、始めるとするか……。
────その“選択”が、あんなことに繋がるなんて、このときの俺は、知る由もなかった。




