Page.14「迷い子と“聖女”」
公園での騒ぎもなんとか収まり、特にすることもなくなった俺は、家に帰ることにした。
シエラも一緒に、ではあるが。
フゥとクレアは二人共、何やら用事があるとかでカインとともに教会の方へと向かっていった。
……おそらくフゥは、今朝俺と話していた『死傷者リスト』を探しに行ったのだろう。
それを見つけたところで、どうにかなるとも思えないけれど。
まぁそんなことは置いといて、だ。
問題が起こったのは、俺達が家に向かっていたとき。
シエラと雑談を交わしながら歩いていると、何かを探している様子の少女を見つけた。
……シエラが視線を送ってくるので仕方なく、俺は少女の手助けをすることにした。
────のは、よかったけれど。
手助けをする以前にまずは、少女に話しかけないといけない。
どうすればいいんだ、こういうときって……。
俺はキリカみたいに誰とでも仲良くなれるような性格じゃない。
どうしたものか……。
などと考えていると────
「あの……どうかしましたか?」
────予想外にも、シエラの方から少女に話しかけていた。
少女は急に話しかけられたことに驚いたようで、一瞬キョトンとした表情を浮かべていた。
だがすぐにハッとして────
「えぇと……その、お母さんと、はぐれて、しまいました……」
────と、おずおずとではあったが、丁寧にそう答えてくれた。
なるほど、母親を捜していたのか。
「……どの辺りではぐれたか、分かるか?」
「えっと……ん、あれ……どこ、だったっけ……?」
えぇー……。
どこではぐれたか分からないと来たか……。
どうしよう……。
てか俺、この問題に直面してから『どうしよう』とか『どうしたものか』しか言ってない気がする。
んー……まぁ、多少帰りが遅くなっても、いいか。
「……思い出せないなら、さっきまで歩いてきた道を戻ってみるってのは、どうだ?……なんなら、俺達も一緒に行くけど……」
怪しまれる、か?
などと、少し心配になったが、少女はそんなことは思いつかなかったらしく、顔を輝かせながら俺の方を見つつ、しきりに頷いていた。
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そんなこんなで、俺達は少女の“母親捜し”の手助けをすることになった。
「私が言うのもなんですが、良かったんですか?……色々あって疲れてるのでは……?」
シエラが心配そうに声を掛けてくる。
「ん、別に大丈夫だ。……それに、人通りの多い場所で一人で出歩いてたら、何が起きるか分からないしな」
「逆じゃないんですか……?普通、人が多い方が安全なのでは……」
そうとも言いきれないのがこの街だ。
人の多さは関係なく、何かしらの事態が発生することもしばしばだからなぁ……。
つまるところ、この街は治安が良いかと訊かれてもどうとも言えない。
……公園での騒ぎも例外じゃない。
「……私、“聖女”だったのに……この街のこと、全然知らないんですね……いえ、それだけじゃなく、なにもかも…………」
シエラが自嘲するように、小さな声で言った言葉を俺は聞き逃さなかった。
けれど俺は、何も言わなかった。
というか、俺がそれに口を出していいものではない気がした。
「なぁ、どのくらい歩いてたんだ?」
俺はシエラの言葉を聞かなかったことにして、少女に尋ねた。
「あちこちぐるぐる歩き回ってたので……覚えてない、です」
……結構体力あるんだな。
てか、歩き回ってる間に出くわすこともなかったのか。
そんなふうなことを考えていると、どこか見覚えのある場所に辿り着いた。
見るとそこは、昨日何度も来た教会だった。
行く予定のなかった場所に着いたな……ん?
教会の外観を見てみると、ドアが少し、開いていた。
「……“探しもの”と“忘れ物”、見つかるといいな」
俺は中に居るであろう人達に向けて、そう言っておいた。
と、俺がそんなことをしている間に少女は────
「私……いつか、“聖女様”になるのが、夢なんです」
────不意にそう言った。
「え……?!」
シエラが目を見開いているのが視界の端に映った。
「ど、どうしてですか……?」
明らかに動揺している。
「だって、“聖女様”は街のみんなを護ってくれてるすごい人なんですもん!」
“象徴”とか言われてたな、そういえば。
……なぜだろう、ムカついてきた。
「……ですから、“聖女様”みたいにみんなを護れたらなぁ……って思ったんです」
俺が思考を巡らせてる間にも、少女は夢について語っていたようだった。
少女の言葉を最後まで聴いていたシエラは────
「……なれますよ、貴女になら」
────と、柔らかな笑みを浮かべながら少女に言った。
「そう、ですかね……」
「なれますよ。……神様は、ちゃんと見てくれてますから……」
“前聖女”が言うとなると、やっぱり説得力があるな……。
少女はそんな言葉をシエラに掛けられ、とてもにこやかに笑っていた。
「……話に割り込むようで悪いけど、そろそろ捜しに行かないと本当に夜になるぞ?」
本当に申し訳ないけど、な。
「そ、そうですね……!」
僅かに顔を赤くして少女は
言った。
「……叶うといいですね、あの子の夢」
シエラはどこか嬉しそうな表情を浮かべている。
「そう、だな……」
────唐突に、一つの“案”が脳裏を過ぎった。
……もしあの子が本気で思ってるのなら、言っておいてもまぁ、いいか。
そんなことを考えつつ、俺は二人の少女の後を追って歩いていった。
──────────────────
教会を通り過ぎ、少し歩くと今度は、出店が立ち並ぶ大通りに着いた。
すると……
「────ニーナ!」
背後から名前を呼ぶ声がした。
その声に反応して、少女が振り返った。
あっ、そういえばあの子の名前、まだ聞いてなかったな。
ニーナっていうのか、この子。
今更遅いけどもそんなことを考えていた。
「よかったですね、見つかって」
名前を呼んだ人の方に走っていった少女ことニーナを眺めつつ、シエラが言った。
「ん、そうだな」
シエラとそんな会話を交わしていると、
「あ、あの……ありがとう、ございました!」
ニーナがわざわざお礼を言いに戻ってきた。
その少し後ろには、母親と思しき人が見守っている。
「見つかって何より、だな」
俺は自然な笑顔でそう言っていた。
あれ……俺今、笑ってた……?
これには自分でも驚いたことだった。
滅多なことでは笑わなくなってたはずなんだけどな……。
「はい、本当にありがとうございました!……えっと……じゃあ、私はこれで……」
俺がそんなことを考えているうちに、早急にそう言うと、ニーナは帰ろうとする。
「あ、ちょっと待った。……役に立つかは分からないけど、一応言っておきたいことが……」
俺はそんなニーナを引き留め、一つの“案”を提示することにした。
「明日でいいから教会に行ってみるといい。もしかしたら、さっき話してくれたその夢、叶うかもしれないから」
「え……?」
ニーナが呆気に取られた表情を浮かべる。
「んじゃ、俺達はこれで」
そう言うと、ニーナと母親に背を向けて歩き出した。
「優しいんですね、ノア君は」
少し歩いていると、シエラが突然そう言った。
ん、あれ……?
「俺の呼び方……」
「なんとなく、そう呼んでみることにしました。……いつまでも“さん”付けでは、他人のままじゃないですか」
まぁ、確かにそうだな。
シエラの言うことにも一理ある。
「君付けで呼ぶってことは“友達”くらいか?」
「そういうことになりますね!」
シエラと談笑を交わしつつ、俺達は今度こそ、家路についたのだった。
────時折、背後に気配を感じつつ。




