リベンジ
昨日は獣道を見つける事も出来ず一日が終わった。
昭人が眼を覚ますと昨日の疲労のせいかいつもより早く起きてしまったようで、部屋の中は薄暗かった。ふてくされて寝返りをうった物の結局、無収入で終わった翌日に2度寝する気にはさすがに成れずベッドから這い出る。どうやら筋肉痛にはなっていないようだ。
カーテンの無い2階の窓からは太陽の姿は見えないが、空がうっすらと明るくなっていた。たまには冷たく新鮮な空気を吸うのも悪くないと、青年は安葉巻に火を着けながら感じる。動作とは矛盾してはいるが。
「こんな早くから起きてる人も以外といるんだな~」
視線の先には昭人の住む安宿から数ブロック隔てたスラム街。そこだけ建築物が建っていない空き地で柔軟体操らしき事を始めた男性が見える。
「股関節の体操かな? 足をこう・・・あぁ座ると見えない」
ぴょこぴょこと座っては男性がしている体操を真似し、立ち上がっては次の動作を確認する。当然空き地の男性は昭人が股関節を解すまで待っていてくれる訳もなく立ち上がり、地面に置いた剣を持ち上げる。
「剣の練習するのか!?」
今まで剣と言えば体育で習った剣道しか知らない昭人には、抜き身の剣術を知る絶好の機会とあって窓枠に乗り出して観察を始めた。
剣を片手で持ち、水平に構えたまま空き地の男性は静止する。
1分程静止を続け、ゆっくりと頭上に掲げてゆっくりと降ろす。
それを何度も繰り返す。
「動きのろいし、参考になりそうもないな」
乗り出した体を室内に戻しまだ長い葉巻を灰皿に押しつけて、愛用の鉈を男性と同じように水平に構える昭人。
その後も男性は左右、袈裟逆袈裟と向きは違えどゆっくりとした動作で降ろしては上げを繰り返し、満足したのか帰ってしまった。
動作をなぞっていた(宿から真似していただけだが)昭人の額にはうっすらと汗が浮き、2の腕は明らかに筋肉が張っている。
「普通に振るより何倍もクるな、これ。握力持っていかれちまった」
目覚めに少々ハードな運動をした昭人は町を出ると、城門から続く小道を歩いていく。
人は歩きやすい場所を通る。その結果道になる。
道になってない所は人が歩かない、選択しない地形になっている場所。
わかれば当たり前の結論だが、昨日の失敗があったから知る事が出来た。
異常な繁殖をする樹木に飲まれそうになる小道を歩き、浸食してきた枝を鉈で切り落とす。
「蜂の事もわからなかったし、余所の街に行けば図書館とかあるのかね。魔獣図鑑とか世界地図とかあれば便利なのに」
魚釣りでお気楽異世界ライフをしてきた昭人も脳天気に過ごしてきた訳ではないのだが、パソコンの無い世界で情報を仕入れる方法は限られていた。
まず言葉が解らずに、日常会話と部分的な読み書きが出来る様になるのに2ヶ月掛かった。それからようやく他人と会話できる関係を築き始め、聞き込みでわかったのはグレィティアの街を含めた周辺都市はすべて植民都市で母国は遙か砂海の彼方にあるらしい。
人々は産まれた国ではなく所属する国で分けられる。これは都市、国は独占している水石の収入で税金をまかなえるから。
生きていれば自動的に金が回収できるので戸籍などはかなり緩い。
これは母国と周辺国とは戦争が続いており、人材集めも理由になっているらしい。
そこで異世界人とは言えなかった昭人は『余所から来ました』これで通している。
「ようやく見つけた。今日こそは頼むぞ」
時間は掛かってしまったが昭人が歩いていた小道を横断する形で出来た獣道を発見し、小道を離れる。
ここ数日の間に眼が慣れたのか、獣道を見失う事なく進むと小さな池にたどり着く。
魔獣が水飲みに使ったであろう池を見つけた昭人は小さくガッツポーズする。
「っし。速攻稼いでババァから逃げ出してやる」
いささか余分な気合いを入れ、藪の中に潜り獲物を待った。
借金 225万0000円
支出 1万3000円
利益 0円
残り 226万3000円
返済日まで 38日