異世界は体力勝負
昨日の蜂の巣はその大きさに比べて軽かったとは言え、かさばる荷物を抱えて森を歩くのは容易ではなかった。
昭人は、朝一の日課にする事にしたなんちゃってラジオ体操を終え、蜂の巣のせいで出来た二の腕の張りを入念にほぐしていく。
「週間肉体改造に、負荷トレーニングとかあったよな。筋トレして疲れてたら話にならないけど、借金返したら体力作りから始めよう。 禁煙・・・もいつかしないとな」
一回の出漁で何トンも魚を捕まえる地引き網などないこちらの漁の基本は、釣竿一本と根気さえあれば体力は特に必要とせず、幼少から釣りを好む昭人にとっては根気すら苦痛ではなかった。
その結果、彼の体は日本に居た時とほぼかわらず『薄く腹筋が見えるかな?』状態で異世界生活を送れていた。
「そもそも荷物選びから問題があるよな。携帯食糧は昼飯を携帯するって考え方を直さないと。軽くて嵩張らなくて匂いが少ない。これがクリア出来ないとまた持って帰って街で食べるはめになる」
昭人は背負い袋を空にしては詰めを繰り返し、失敗を自力で克服すべく考える。
使用頻度の低く、重い物を一番下で体に近い場所に入れる。使用頻度の高い物を上に入れるぐらいの知識は持っていたが、それでも日がな歩き続ける経験が無かったので知る事から始めないといけなかった。
昭人は城門前の雑貨屋に寄り、今までなぜ売られているかも理解出来なかった石ころを購入する。
「汗をかいたら岩塩でもって塩分を取れるように、出口前の店で売ってたんだな。異世界なら、こういう事教えてくれる冒険者ギルトとかあってもいいのにな」
この街でも魔獣狩りで生計を立てている人間はいるのだが、彼らは社会に馴染めなかったならず者が多く、出会う事すら稀だ。平民が貴族と出会う程度に。
社会に馴染めなかった彼らだからこそ、情報の共有や連帯感を大事にするが、それは彼らが住む宿屋や酒場単位の話で同じ街だからといって魔獣狩りの情報が外に漏れ出す事はほとんどなかった。
結果昭人は体験してわかった事だけを一つずつ解消して行くしかない。岩塩しかり、一緒に購入したロープでもって背負い袋と体を密着させる知恵しかり。
「背負い袋は安定しないのと重さが肩の一点に集中するからダメなんだから、これで紐の食い込みが和らぐはず。 かなりダサいけど」
万が一の防御にもなるかと考えを切り替えてみすぼらしさの増した格好に目を瞑る。今日はまた中腰で下草を覗き獣道を探す所から始めないといけないので、見た目を気にしていられない事情もあったのだが。
どうやら街の近くでは中型魔獣が狩り尽くされている様なので、城壁に沿って小型魔獣の通り道を探す。
ひたすら探す。額に浮き始めた汗を拭き、森をもう少し奥に分け入りまた城壁沿いに探す。
まだ探す。安全を考慮して街から近い場所なので見つからなくて当然なぐらいだ。汗で体にまとわりつく服に悪態をつきながら、さらに奥に分け入る。
4時間が過ぎ日は頂点まで昇り、これから沈み始める。歩きながらパンにチーズを挟み、岩塩と共に水筒の水で流し込む。この頃には上着には塩が浮きだしている。
いつ襲われるかわからない森の中での6時間が経過した時には昭人の集中力も体力も限界を迎え、グレィティアに戻ってきたのは日が沈みきるにはかなり早い時間だった。
「・・・・森歩き舐めてた。ウォーキングじゃなくて山登りじゃねぇか」
借金 224万2000円
支出 8000円
利益 0円
残り 225万0000円
返済日まで 39日




