新たな金策
BED END が最終更新のままなのもどうかと思うので早めに更新wこれからはストックが増える毎に投下になりそうです。
どう逃げたか覚えていない。成人男性を吹き飛ばす腕をどう振りほどいたのか、どんな道で帰ってきたのか一切覚えていない。思考が現状に追いついたのは、晩飯も取らず安宿のベッドにもぐり込み、膝を抱えた辺りだろうか。
「無理無理無理。変な気出されない様気を付けるとかじゃないだろ! 昼過ぎだぞ! 自分でもわかってたじゃないか、貸しを作ったら駄目な人種だって。いますぐ逃げよう。いや借用書がある。捕まれば即奴隷にされておしまいだ。他の国に逃げれば、これも駄目だ。どこにあるかもわからない。」
正確に思考が現状に追いついたのは、一睡も出来ず朝日を迎えてからだった。昭人は今、宿備え付けの机に向かいペンを走らせている。
借金 金貨5枚に利子が毎月銀貨10枚
借金の残り 金貨3枚と銀貨20枚
全財産 銀貨42銅貨18に換金していない新古代銀貨6枚
金貨換算 金貨1枚と銀貨2枚少々
差額 金貨2枚と銀貨18枚と利子が銀貨10枚。
金貨=100万円、 新古代銀貨=10万円、 銀貨=1万円、 半銀貨=1000円、 銅貨=100円
「次1回会うんだって危ないんだ。来月までにぜってぇ完済してやる」
逃亡する危険よりも、身の安全の為に後1回会う危険を選んだらしい。
来月末の返済日まで42日間
宿代が42×4000=16万8000円。 船着き場使用料2ヶ月分10万円。 食事代が日2食で8万円
トータル262万8000円也(日当6万5000円)
「食事代もかなりギリギリで計算しているし、これ以上の金額になるはず。昼間釣りが平均で銀貨2枚で返済日まで休まなくて84万円。どうやっても無理・・・やっぱ魔獣討伐っきゃないか」
魔獣討伐は異世界転移物でよくあるが、かなり難易度が高く昭人には苦い経験もあるのだが来月に返そうとすれば魔獣討伐ほぼ一択になる。
「いつもながら、こんなにユルくていいのかね」
不本意にも徹夜になってしまったが、これからは1日、数時間が金貸しの性奴隷になるかどうかの分かれ目になるかもしれないので、漁をする時も使っている愛用のザックを背負いそのまま宿を出た。
街同士を結ぶ陸路が無いこともあって素通しで門をくぐれてしまったが、かといってすぐに倒せる程魔獣討伐はユルくない。門とそれに繋がる細い一本道は伐採されているが、残りはすべて魔獣達が生息する樹海で覆い尽くされている。木々に囲まれ見渡せないが、地平線のはるか先まですべて魔獣の住処だ。
今回狙うのは門の外で一度だけ見た巨大ネズミか、体長1メートル以下の小型魔獣。これらのサイズでも5匹倒せば銀貨10枚前後と返済に必要な日当を大きく越すことが出来る。
「と、上手くいってくれなきゃ困るんだが」
まず探すのは魔獣の通り道。十分すぎる程警戒しつつ、素人ながら下草の状態を確かめていく。この世界に降りたってすぐに知った経験談なのだが、ここで注意すべきは通り道を見つけても低木が折れている道なら素早く逃げなければならない。
腰の高さで木が折れていれば体高1メートル、一時的に2足歩行をする種であれば体長2メートルを越える中型魔獣の通り道になっているからだ。平和な日本人・昭人の実力では中型となると万全を期しても安全マージンがとれないどころか死の可能性が出てくる。
絶えずむき出しの鉈を持ち、前かがみで獣道を探す事1時間。日も高くなり飛んでた眠気が緊張感からぶり返した頃、周囲と比べ下草が薄くなっている場所を発見した。
「枝の葉も食べられていないし、ここは小型しか通っていなさそうだ」
昭人はその細い獣道を荒らさないよう、見失わないように辿る。獣道が通っていて且つ、本人が動き回れる程度に地面の状態が良く、鉈を振えるだけの空間が空いている。立地を選べるのは襲う側の権利と信じ、希望に沿う場所をさらに奥へと探し続けようやく見つけた。
「・・・美味しすぎる! けど、どうすりゃいいんだろ」
日が更に昇り正午にかかる時、ようやく発見したのはウサギの巣穴。一番大きい個体で体長60センチ程が地上に出ているだけでも6匹いる。
「ん~明らかに警戒しているし、襲っても巣に逃げられるだろうな」
水筒からぬるくなった柑橘水を呷り、観察を続けても餌を探す個体が別にいるのか巣穴から離れる様子が無い。一頻り考え、ザックから万が一に入れてある布を取り出し、昼食用の乾パンを上に載せた。
「 ふっ。 やっぱり駄目か」
警戒しながらひなたぼっこしていたウサギ達も、藪から飛び出した人影に一瞬固まっていたのだが鉈が振り切られる前に巣穴に潜りこむ。
昭人は周囲を見渡し、逃げ遅れた個体がいない事を確認すると空になったザックで巣穴を覆い、隙間から水筒を横倒しで突っ込んだ。
「こいこいこいこい。 よし! 」
待っていると、巣穴から飛び出してきたウサギがザックの裏地にぶつかりバスッと鳴る。ズレないように足裏でふちを固定しつつ、鉈の背で膨らみを殴打すると、悲しげな鳴き声と共に膨らみが小さくなっていく。次々と鳴るバスッという音。それと同じ回数鉈を振り、それ以上出てこなくなったのでザックを回収する。
「皮が・・・大量。俺ってやれば出来る子だったんだな。っと水筒が」
死んだウサギからさらさらの液体が流れだし、袋の中に残ったのは毛皮のみ。アメーバから進化しても体の大半はゲル状で、死んだ後に残るのは骨や肉や毛皮だけらしい。横倒しのまま忘れ去られた水筒と乾パンを回収して街に戻る。
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「マジですか。それで頼みます」
街に戻り、安全が確保された所で乾パンを水筒の柑橘水で流し込み終えたのが夕方少し前。順調にこなせたつもりでも結局半日掛かりになってしまい、顔には疲労の色が浮かんでいる。
「切り傷が無いから少しオマケだ。じゃぁ銀貨27枚と半銀貨5枚で、まいどあり」
(一日で27万5000円てボロすぎだ。これを10日もすれば借金から解放かよ)
店主は、内心が顔に出ているのを見やり言葉を続ける。
「美品の革は金属鎧の繋ぎに需要が高いんだよ。ところで質問なんだが、どうやってこんな綺麗に倒せたんだ?」
昭人の手の平で鎮座する黒ずんだ小石で理解したのか店主に笑みがうかぶ。
「水石のおかげでね。生産水量が足りて良かったよ」
手の平の石は液体吸収性に優れており、小石程度の大きさで人一人が一日水に困ることがない量を生み出し続ける。昭人が初めて知った時には感動した物だが、今では蛇口を捻れば水が出る。と同じぐらい生活に根付いてしまった。
アメーバの体液に晒されたザックに食料を入れるのはさすがに抵抗があったのでこれからは素材を入れる専用に。新しい背負い袋と明日の狩りの為、細々とした買い物を続けその日は早めに宿に入った。
借金 262万8000円
収入 27万5000円
支出 1万7500円
残り 237万500円也
特殊な通過単位を出してもわかりにくくなるだけなので、昭人の独り言や地の文では円で表記します。
鎧は50万はするので、繋ぎの革だけでもこれだけの金額で売買されます。それだけ魔獣ドロップはハイリターンだと思っていただければ。