筋肉痛と砂獣
昨日は徹夜明けで朝食に屋台で軽く済ませ、その足で樹海を半日探索し、へとへとで戻った後に残った乾パンと飛び込みで入った店でその日唯一まともな料理を一気に胃袋に納めて昭人は突っ伏す様に寝た。
明らかにオーバーワークであり、エネルギー不足だ。それでも計算していた食費を越えているのは、今まで家計簿などをつけた事ない20代前半の男性であれば、致し方ないのか。杜撰ではあるが。
昭人はいつも通りの時間に目が覚めたが重労働の後、体を解さななかったせいで激しい関節痛と筋肉痛をおこし、疲労も全く抜けていなかった。昨日の自分を悔やみ、満足に動かせ無い手足でゆっくり近場の飲食店に向かう。
朝食としては若干重いが、これからの血となり肉とすべく肉煮込みを頼み、一緒にサラダとパン一皿をしっかりと噛んで食べた。
「魔獣退治の為にしっかり寝て、ご飯は残さず食べましょう。ってか?異世界は思ったより世知辛い物なんだな」
異世界感を砕かれた昭人は結局その日は魔獣退治を諦め、夕方まで体を休めて船着き場に向かう。体を動かさないと筋肉痛が抜けないのと、流石に丸々一日休んめる程のゆとりは無かった。
「ライマール。今日もよろしくな」
軽い筋肉痛は残っている昭人が船に乗り込むと、呼ばれたライマールは嬉しそう? に、身震い一つさせ船を沖に曳いていく。
夕日の沈む中、帰宅する多くの船とすれ違う度に昭人は他人の砂獣を観察していった。借金さえ返す事が出きれば、そのすべてが昭人の将来の可能性になるはずだった。
まず出会ったのは暗くなる前に仕事を終え、家路を急ぐ漁師船。荷物が無ければ6人は乗れる船を曳いているのは地面に着くほど長い毛を持った全身水色の巨大なネズミ。
次に昭人の目に入ったのはダチョウに鱗の尾が生えた不思議生命。頭を前へと水平に傾け、首と同じく長い尾でバランスをとって周囲の船をごぼう抜きしていく。
船団を率いているのは、全身を苔で覆われた6メートルは有ろうかという筋肉隆々の首無し人形。当然顔も無いので船を曳いていても残酷に映らないが、体から藻が時折剥がれ落ち、そこに魚が群がっている。
輸送船を曳くのは亀。首から上だけ砂から出し、甲羅に取り付けられた船には大量の貨物と百数十人。と言えばその巨大さがわかってもらえるだろうか。甲板に乗り出した乗客がグレィティアの街並を期待を篭めた眼で見詰めている。
上で挙げた見栄えする個体の他にも体格に見合わず大きな船を曳く魚や色鮮やかな蛙型の砂獣。偶に似ている個体はいるが、色や大きさが千差万別で飽きる事なく眺めていると、昭人が普段から使っている漁場にたどり着いた。
街の姿がハッキリと視認出来る位置で、すぐ脇に砂の本流が通っている。船が流されなず、かつ砂流に乗った魚が釣れやすい場所に陣取る。
「ライマールもいつか、今すれ違った砂獣以上に格好良い進化してくれよな」
昭人は犬もしくは猫に近いモフモフ系に進化をして欲しかったが、たとえそれ以外にライマールが進化しても祝福しようと思う。絶えず変わる流れに合わせ舟の位置を微調整している当事者に姿だけで落胆するのはしてはいけない事だから。
「最初の一匹目はお前にやるよ」
竿を砂流に向け軽く一振りし、一瞬遅れて飛んでいく仕掛けはブルブルと震える卵形の錘と共に、ワイヤーで出来た4本針が砂に沈む。
適度に糸が出た所でリールを操作し、竿を一回二回とシャクリ上げ止める。それを何度か繰り返し、最後にゆっくりと竿を上げると竿先から小気味良い感触が伝わる。
基本的に合わせる必要はないので糸を弛ませない事だけを注意しリールを巻き上げると、4本ある針の一番下の針に魚が
掛かっている。
「手のひらサイズか。まぁ群が回っているみたいだし、ガンガンいこう」
妙に光沢のある魚を素早く針から外し、上に掲げるとライマールが素早く受け取る。そうして新たに餌を付け、今度は先ほどより糸を余分に出し、4本の針がすべて群の層に届くようタナを調整する。
クイッと竿をシャクリ、スーっと下げる。その状態で竿先がピクピクと動くが3秒待ち、ツツツツと腕毎上げていくと今度は上げる途中から重さが増す。後は仕掛け同士が絡まらない様一定のスピードで巻き上げていけば、砂から揚がって来る針の4本中3本に先ほどと同じ魚が掛かっている。
「っしゃ。夕日が沈む前に箱一杯にするぞ! 」
その後、流石に短時間で木箱を魚で埋める事は叶わなかったが、生活費には余る金額で売れた。昭人は昨日の反省を踏まえ十分な食事と一人で出きる範囲のマッサージをし、しっかり睡眠を取った。
借金 237万 500円
支出 1万1000円
収入 2万5000円
残り 235万6500円
返済日まで 41日




