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砂海航路  作者: 蚊々
商会(パーティ)立ち上げ
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23/27

奴隷解放

 


 アマリリスに騙され、牢にと閉じこめられた昭人は考える事を放棄して地面に突っ伏していた。

 そこに室内から何かを引きずる音が聞こえ、首だけを音の方向に動かす。


「っ」


 相手もこちらが動いた事がわかったのか後ずさる音が再度聞こえる。昭人は突っ伏した体勢のまま相手を注目していると、目が慣れて暗闇から徐々に輪郭が浮かび上がって来る。昭人はその足音から一人だろうと思っていたが、この一室だけで七人の先客がいたようだ。



 人間の脳みそはおかしな物で人生を諦めるほど落ち込んでいても、いやそんな状況だからこそ奴隷同士――全員全裸なのでおそらくあっている――警戒心丸出しの今の状況に笑ってしまう。危険なのはアマリリスで、仲間とは言わずとも同じ境遇の人間が一人はぼろ雑巾にされ、もう一方は全裸の集団でお見合いをしている現状をはたから見たらシュールじゃね? っと馬鹿な思考が浮かぶと、ヘコんですらいられない。


「ダメだ馬鹿らし過ぎる。なぁあんたら名前は?」

 突然話しかけられた事に驚いたのか、尻で跳ぶ様に後ずさる七名。

 よく見ると、一人が昭人の首を凝視している。

「ほら首輪。奴隷同士気張ってるのも馬鹿らしいし、仲良くやろうぜ」


 ソフィアの事も今後の事も考えるのは一旦放棄し、奴隷の先輩達と仲良くなるべくゆっくりと近づく昭人。

 近づいた事でシルエットがより鮮明になり七名はいずれも小柄で、昭人の見た目八歳から十代前半までの男女で固められている。

 四つん這いで近づくと、びくびくしながら全員がまた後ずさる。そして壁にまで辿り着いてしまった七名は、少しでも恐怖から逃れようと互いにくっついて目を瞑りだす。

(そこまで過剰に反応されると、ショックなんだがな)

「言葉分かんないのか?俺、名前、アキヒト、おっけー?」

 昭人はそれ以上近づく事は諦め、大声にならない程度に明瞭な声で自己紹介を試みる。逃げ道が無くなったせいか、牢屋の隅で何やらしだす七人。それも話す事はせず目線や動きで会話している。

 ひとしきりゴソゴソしている様を昭人が見つめていると、一番体格の立派な子供が近づいてくる。それでもせいぜい十三歳程度で目元まで伸びた赤毛の男の子だ。その少年は、自分と昭人の中間ぐらいまで来ると地面に文字を書き始める。


『何故話せる? 俺達話せない』

 書き終わって後ろに下がるのを見てから文章を読むと、疑問に答える昭人。

「何故ってこの文字が読めるのに喋れない方が可笑しいだろ」

『命令。話すなって言われた』

 昭人が下がったのを見て再び少年が近づく。多少は慣れたのか、今度は下がらないので昭人はその文章を読むが、おかしい事に気づく。


「ここには見張りはいない。なのに話さないじゃなくて話せないのか?」

 脳裏に浮かんだ妄想。当たっていて欲しくないが、そうであろうと確信もある質問に少年は悲しそうに首を振る。

『命令、従わないと首輪痛い』

 やっぱりか。最悪だ。二つの考えが同時に口から出そうになる。人の言動を阻害する首輪。それは昭人が産まれてこれまで触れてきた中一番醜いモノで、無意識に自らの首輪に指を掛けると全力で外そうとする。


「……!!」

 狭い牢屋を全力で逃げ出す少年奴隷。それを見て、首輪から指を外す。どうやら昭人はしてはいけない事をしたらしい。


「まずい事したか?」

『命令をずっと聞かない、首輪外す、首輪爆発する』

 昭人の背中から大量の冷や汗が浮き出る。しかも首輪は外せない様に出来ている訳ではなく、留め金が緩んでおり後一息で外れてしまいそうだ。


 改めて昭人は自分が命令された事を思いかえす。その場面ですでに意識は朦朧としていたが、【逆らうな逃げるな話すな】だったと思い出す。

(話すなと確かに言われた記憶があるが、特に痛みも無いし首輪の不具合か?)


 そこで昭人の脳裏に一つの場面が思い浮かんだ。ソフィアに連れられて行ったヤンの店での話で、属性が無い人間はいない。それぞれ変えられない個人の色があると。

 首輪が起動するには、その色を登録する必要があるのかもしれない。口元の血を、紙にすり付けられた記憶もある。そして人間ではありえない無色の魔力に首輪が対応していなかったら? 

 そこまで考えた所で一旦止めておく。鉄格子のはまった牢屋で検証出来るのは首輪を外すぐらいしかなかったからだ。流石に賭に出るには情報が足りていない。


「字を書くのはいいのか?」

『命令されてないから大丈夫』


 筆談で時間は掛かってしまったが、少年の名前はリュート。ここに入っているのは優秀な能力を持つ奴隷の子供達が集められた牢で、貧しいながら食事も出され虐待も無いらしい。そしてリュートはアマリリスの護衛を勤めていた奴隷の子供で、売ってしまうと命令の網を潜り抜けた自爆攻撃の可能性が有るためにここで監禁されていた。

 どれほど気絶していたかわからず、多少緊張がほぐれたのか全身の痛みがぶり返し昭人は体を伸ばす。それに反応してまたリュート達が逃げ出す。


「そんな毎回ビビるなよ。俺だって……

 カチャ

 ……え?」

 後ろに着いた手に金属が当たる感触がする。そこには留め金が壊れ地面に落ちた首輪がカラカラと回っていた。


 昭人の魔力がオカシいのか首輪が元々壊れていたのか結局わからなかった、とりあえず自由に動ける様になった昭人。今だ牢屋の中ではあったが。






 その日の夜。執務室にて。


「夜に呼び出すって言ってたから、首輪も応急処置しておいてやったんだ。さて覚悟出来てるだろうな」

「おっお前達、【この生意気な奴隷を取り押さ……」


 最後まで発する事が出来ず倒れ込むアマリリスの背後に姿を現したのは。



「のちの世に伝説となる『双挟使い』爆っ誕!」



 天高く掲げたザリガニの鋏は今だに電気スパークが放出されバチバチと唸っている。そして崩れ落ちたアマリリスの足首には真新しい焦げ跡が出来ていた。


「いつの間に来たんだ?!」

 昭人が驚くのも無理は無いだろう。執務室に入るには一つしかない扉か、窓しかない。

「そんな事より速く逃げるわよ」

 開け放たれた窓から風が舞い込み、カーテンが激しく揺れている。

 当然声を掛けたのはソフィアだ。なびく髪を邪魔そうに後ろへなで付けると、窓枠を越えて執務室へと進入しようとする。

「お前達ちょっと待て!」

 これまでアマリリスがやられようと身動き一つしなかった護衛役の奴隷の一人が叫ぶ。全員が警戒をする中、一行を素通りし、机の後ろ、金庫の前に立ち言葉を繋げる

「【不審人物が部屋に侵入して来たら命をかけて排除しなさい】【私の邪魔するな】と命令されているから不審人物がこの部屋に入ったら撃退しないといけない」


 今の緊迫した状況に見合わない、意味が無い言葉に全員が固まるが、奴隷として半日を過ごした昭人には意味が通じた。

「ちょっとソフィア、そこから絶対に動くなよ。奴隷のおっさん。俺は取り押さえなくていいのか?」


「アマリリス様は【私の邪魔するな】との命令、お前とのお楽しみの邪魔は出来ない。その不思議な生き物は【不審人物】とはとても言えない。困ったなぁ、金庫の中には奴隷達の契約書が保管されているはずなのに、【金庫に触れるな】とは言われているが、アマリリス様は金庫を守るように命令して下さらなかった」


 不敵な笑みを浮かべる奴隷の言いたい事を全員が理解する。ソフィアは窓枠から手を離し、部屋に侵入する事を諦める。【人物】では無いザリガニも、他の命令に触れる可能性を避けて無駄な行動――勝利のポーズ――を止めた。

 昭人は電気ショックで気絶しているアマリリスのネックレスをひきちぎり、付けられた鍵を使って金庫の中の書類をすべて破り捨てる。

 すると護衛の奴隷二人の首輪が光り、外れる。

「助かった、しかし従業員達がいつまでも気付かない訳が無い。速く逃げな」

「おっさんは逃げないのか?」

「息子や他の奴隷達をまとめてから逃げる。心配しなくても首輪さえなけりゃこっちは大丈夫だ。元より奴隷契約書も違法だから一度逃げちまえば追ってはこれない。だが、不法侵入したお前の連れは現行犯で捕まると流石にマズイ。こっちが騒ぎ立ててるうちに行くんだ」

「わかった。あんた名前は」


 いつもの一方的な打撃音とは違うアマリリスの悲鳴を聞きつけて商会に詰めていた私兵が入ってくる。すると、これまで無言だった奴隷が開いた扉を蹴る。私兵の一人が扉と衝突し、倒れると相手から剣を奪い喉に突き刺す。あっと言う間の出来事だった。

「俺は『赤腕のイワン』そっちの無口なのは『鋼のハニハニ』だ」

「名前を呼ぶな! 殺すぞ」

「うっせぇお前のせいで俺まで変な二つ名付けられたんじゃねぇか。アキヒトだな。この借りはいつか必ず返す」

「冒険商社砂海航路の『双鋏使い』だ、よろしく!」

 ザリガニが二人に向けて鋏をV字にしてやがるが、頑張ったので放置してやる事にした昭人は、ソフィアが掴んでいたロープを伝い外へと降りる。はずだった。幸い敷地内とは言え周囲には見回りの姿も無かったので、無事脱出出来る。はずだった。


「きゃーーーーーーーーー!!」

 ソフィアが絶叫し、ロープを掴もうと窓枠から外に出た昭人を蹴り飛ばす、そこは地上三階。窮地を救いにきてくれた味方からの突然の攻撃に昭人は重力にその身を引かれ落ちていく。

「なんで全裸なのよ! ばっかじゃない?! 変態は死ね!! ……あれ? 昭人?」

 ソフィアが左右をきょろきょろと探すが、当然昭人は見つからない。

「お嬢様、ご主人様でしたら下に。ご無事の様ですよ」



 ソフィアとザリガニが素早く地上へと降りたった時には絶叫を聞きつけた見回りが、蜂の巣をつついた様に騒ぎ始めていた。その場に留まっていれば、見つかるのは時間の問題だろう。


「街の中で隠れていてもいずれ見つかるわ、海に出ましょう」

「人を突き落としておいて俺の事は無視かよ」

「変態は近づかないで」



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