装備はどうする?
都合の良い買い取り依頼を見つける事は出来なかったが、初日からギルドの買い取りカウンターを利用した二人は古代遺跡から引き揚げられた大量の商品を適正価格で、しかも一括売却する事が出来てホクホク顔で街を歩いていた。
歩いている場所は商業ギルドの有った大通りの整然とした雰囲気とは違い、過去には街壁として機能していたであろう土壁を抉り作った土地に店が開かれていたり家も一つ一つが寄り添うように密集している。
「戦闘に使えるような装備を用意するなら青色地区ね」
「青色地区?」
「今歩いている所がそうよ。わかりやすい言葉だと、貧困地区。だけど一攫千金を掴みとった冒険者達の大半はお上品な富裕地区よりも、喧騒や猥雑さが好きで貧困地区に住み続けたの。そんなお金を持っている冒険者を目当てに鍛冶屋なんかも増えだして付けられた名前が、『大金持ちもいる貧困地区=青色地区』。
そういえば気になってたんだけど、さっきのは話はなんだったの? 同業者でもライバルとは限らないって言ってた話」
「ああ簡単な話だよ。店持ちの利点ってのは、多少の損害で逃げる訳にはいかないから商売相手に信用されやすい。それに次世代に店を継がせる事が出来る。これは分かるよな?」
祖父の会社経営を見て育ち、店を潰した反面教師の父を持ったソフィアにはわかりやすいようですぐに頷く。
「交易商人の利点はその逆。店が無いからいつでも動けるし、そもそも継がせる固定資産が無いから信頼関係より利益追求を優先できるのさ」
「でも、そんなことしてたら商人として失格でしょ? 商売に一番大切なのは信用だってお爺ちゃんが言ってたよ」
「信用が大事なのは、数十年以上その地で商売を続ける店持ちならその信用が利益になるからだ。winwinの関係がベストなのは間違いじゃないし、自分の利益を優先させる商人は信用されない。
かといって交易商人は2世代3世代とその街に居着く訳じゃない。商談が成立すればすぐに他の町に移動する。下手すれば二度と会わない人間と、その場の損と引き替えに信用を得ても価値がないだろ」
ギルド職員の反応から、大きく外れていない。いやそれどころか資本の少ない交易商人にとって一世一代の大勝負でも店側からすれば毎日行われる商談。利益に拘るぐらい気合いの入った人間でなければ同業者からの信用は得られないと、昭人は考えていた。
「言っている事はわかったけど、嫌われてまでお金を稼ごうとする根性が私に持てるかな」
「この話は、交易商人では高ランクにはいけない。店を持って更にDランク以上って言う一流を目指そうとするならって話で、俺もそこまで拘る気はないよ。俺達は砂海を行く冒険家になるんだろう?」
それはソフィアが夢に思い描く理想の人生ではあったが、何の因果か商会を組んだ仲間の夢であれば路を違えるまでは一緒に夢を追いかけるのも悪くないだろう。と、昭人は笑みを浮かべる。
「わっわたくしも着いてい行きますよ~『双鋏使い』とか二つ名付けられちゃったらどうしましょう? サインの練習しておいた方がいいでしょうかね」
二人と一匹が着いたのは金属鎧と何本も剣が軒先に飾られた鍛冶屋。
「おやっさんまた来てやったぜ」
「いきなりどうした。早くもキャラ変更か?」
「わたくしも未来の英雄として、行きつけの鍛冶屋ぐらい有った方が……正直もっと目立ちたい時があるでござるニャ」
「メメタァ発言やめい。」
「……商売の邪魔だから、漫才なら余所でやってくれんか」
ザリガニの予想通り、カウンターの奥からTHE鍛冶屋のおやじ然とした店主が煩わしそうに出てくる。
流石にばつの悪そうな顔をする一同だったが、いち早く復帰したソフィアが用件を伝えた。
「失礼しました。今日は彼の装備一式を揃えようかと思いまして」
「ほう、嬢ちゃんは話出来そうだな。で、希望はあるかい?」
「ん〜片手で使えそうな剣と、防具は鎧を着けた事もないから、動き易いのが一番だな。後、素材に使えそうな物持っているんだが見て貰えるか? ザリガニ。積み荷を持って来てくれ」
「ウィムッシュ、マイマスター」
おかしなテンションのザリガニが牽く大八車に積まれた木箱から、損傷が激しくギルドで高値が付かなかったカニ型機械を取り出す。
鍛冶屋のおやじは商人の目つきから職人としてのそれに変え、指の腹で撫でながら素材としての価値を探っていく。
「ふむ……遺跡品か。純度の高い、良い金属じゃ。これを利用するなら胸当てと篭手と脛当て、後はオヌシが持っている木製の盾に貼るぐらいなら使えるだろう。これなら初心者にはもったいないぐらいのもんが出来るぞ」
「結局発掘品はギルドで売っちゃったし、俺にしか使えない物の為にお金使って大丈夫なのか?」
「私が着ているローブは、魔物の繊維で織られた逸品で、下手な金属鎧よりも性能がいいのよ。大丈夫、使った分働いてもらうから気にしないで」
「後は武器か。魔獣相手に片手剣では威力が足りないじゃろうし、叩き斬るバスタードソードはどうだ? こいつは重心をかなり手元に近づけておるから、片手でも両手でも使える上に長さの割に操り易く造ってある」
「ほう。確かに軽く感じるな。けどその分力が乗らないんじゃないか?」
「今のお前さんの筋肉じゃ、それ以上は扱えんよ。物足りなくなったら買い換えればいい」
もっともな台詞を言われてしまい、昭人は剣を受け取る。防具は、既製品では無かった為出来上がるのは五日後になるそうで、半券を受け取り店を後にする。
「んじゃ用事は済んだし飯行くか」
「私はもうちょっと見物してから帰るわ。宿は取ってあるし、朝集合までは別行動で大丈夫よね?」
「お子様が子供扱いすんな。いいけど、それなら飯代くれよ」
十代に財布を握られた三十代の哀れな台詞と共に、二人は別行動する事となった。