【あの多忙(たぼう)な日々(ひび)を駆け抜けて(かけぬけて)】プロローグ(楔子)
【未来のファンタジー、時空の彼方へ】人類が居住するこの地球は、人口の爆発的な増加と資源の極度な枯渇という冷酷な現実に直面していた。西暦2100年、人類は生存の突破口を求め(もとめ)、未知なる外宇宙へと探査の針を進め(すすめ)、新たな植民地となる惑星を探し(さがし)始めた(はじめた)。数え切れ(かぞえきれ)ないほどの血と汗にまみれた努力の末、西暦2350年頃、ついに人類の生存に最適なユートピアとも言える星系──『繁星星系』を発見する。その後、地球の民はこぞってこの『繁星星系』へと大移動を開始した。なぜなら、ここには人類の生活に適合する環境が、それこそ過江の(かこうの)鯽(じなぎ、過江之鯽:数え切れないほど多くあること)のごとく無限に存在していたからだ。居住可能な大小の惑星や衛星は掃いて(はいて)捨てる(すてる)ほどあり、ほぼどの星に降り立とう(ふりたとう)とも、そこには生命を育む(はぐくむ)温和な気候が広がり(ひろがり)、人々(ひとびと)の心を芯から満たした(みたした)。一度でもこの楽園に足を踏み入れた(ふみいれた)者は、誰もが(だれもが)この地に(このちに)永住することを強く(つよく)望んだ(のぞんだ)のである。時の経過とともに、同じ(おなじ)国家の出自を持つ(もつ)者や、同じ(おなじ)言語を操る(あやつる)者たちが、自然と一所に集まり(あつまり)始めた(はじめた)。それぞれの惑星は整然とした統治の軌道に乗り(のり)、星と星との間で活発な交流と交易の護城河(ごじょうが、貿易ルート)が構築されていく。そんな中、ある者が旧時代の『国連』をさらに高次元へと昇華させた、新たなる再編計画を上申した。複数の巨大な星群による熱狂的な議論を経て、西暦2537年、あの『国連(UN)』に類似した最高統治機関が繁星の地に(のちに)降臨した。その名は──『星際連邦(せいさいれんぽう:インター・ステラー・フェデレーション)』。すべての惑星が、まるで春の息吹のごとく欣々向栄(きんきんこうえい:青々と生い茂り栄えること)の繁栄を謳歌していたその矢先、暗黒の悪の勢力が、辺境の『D星群』付近で静か(しずか)に、そして不気味に台頭し始めて(はじめて)いた。起始の段階では、彼ら(かれら)はただ各惑星を往来する交通船を奇襲し、略奪を繰り返す(くりかえす)烏合の衆に過ぎなかった。しかし、その声勢が強大化するにつれ、彼ら(かれら)は傲慢にも武装の極めて(きわめて)脆弱な惑星へと押し入り(おしいり)、白昼堂々(どうどう)と打家劫舎(たかけいしゃ:家に押し入って財産を強奪すること)を働く(はたらく)ようになったのだ。数回の不法な成功に味をしめた略奪者たちは、ついにあの大星群の莫大な富にまで歪んだ(ゆがんだ)野心の牙を剥け(むけ)始めた(はじめた)。何度かの中規模な武力衝突という名のノイズを経て、各星群はついに深刻な防衛対抗策の議論を余儀なく(よぎなく)されたが、根本的な解決には至らず(いたらず)、悪の勢力はさらに凶悪に肥大化していった。エスカレートし続ける略奪に、各星群の堪忍袋の緒がついに切れた(きれた)。連邦への悲痛な陳情が殺到し、西暦2598年の年末、星際連邦は害悪を根こそぎ(ねこそぎ)斬草除根(ざんそうじょこん:根絶やしにすること)にするため、緊急代表会議を招集。火線のごとき速さ(はやさ)で決議を可決した。最終決定として、『A星群』(白人種を中心とする欧米言語圏の星群)および『C星群』(黄色人種を中心とするアジア言語圏の星群)の精鋭武力を徴用し、この不法の徒を討伐する鉄槌を下した(くだした)のである。西暦2599年3月、連合艦隊はその編制を完全に完了するやいなや、即座に出兵。正規部隊の圧倒的な大軍の前に、あの略奪者どもの烏合の衆が抗える(あらがえる)はずもなかった。大半の宇宙艇と人員は艦隊の火網によって完全に殲滅されたが、極めて(きわめて)一握り(ひとにぎり)の残党が暗黒の宇宙へと逃亡した。しかし、この壮絶な征戦は、辺境に位置する混合言語圏の惑星──『D7星』に、想像を絶する(ぜっする)壊滅的な大惨事をもたらしてしまったのだ。原因は、討伐の際に大爆発を起こした宇宙艇の巨大な残骸破片が、惑星へと高速で墜落したことだった。この多民族が雑居するD7星の住民のほとんどは、社会の底辺に喘ぐ(あえぐ)低所得の貧民層だった。当然のごとく、対空防衛シェルターなどのインフラは完全に『皆無』である。高速で大気圏を突き破った(つきやぶった)戦艦の残骸は、防盾を持たない(もたない)地表へと激突し、生き(いき)地獄のごとき凄惨な結果を招いた(まねいた)のである。この劇烈な災変を前に、星際連邦も冷酷に黙殺し続けることはできなかった。連邦は即座に生存者を救出して本隊へと連れ戻し(つれもどし)、各星群に対して、最高規格のセーフティネットを用いて(もちいて)この不幸な人々(ひとびと)を最優先で安置することを厳命した。物語の主人公──クリスティーナ・ホフマン(Christina Hoffman)。彼女は元々(もともと)、A2英語星系の美しき(うつくしき)大地に暮らす(くらす)アフリカ系の混血の末裔だった。しかし、ある日襲い(おそい)かかった巨大な竜巻という名のシステムエラーによって、すべての愛する(あいする)家族を奪われ(うばわれ)、彷徨の末にあの辺境の惑星D7星へと流れ着いた(ながれついた)のである。そして、今回のあの凄惨な大流血の災変に巻き込まれ(まきこまれ)、最終的に救搜隊によって奇跡的に救い上げ(すくいあげ)られた。これこそが、彼女がここから紡ぎ(つむぎ)出す(だす)、真実の軌跡の物語である……。




