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星の導きの元に  作者: 音頭
囚われの蜘蛛

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10/10

消えた双子

研修が終わった後、俺は着替えを済ませ、ある部屋へと案内された。

そこは、ふかふかのソファに豪華なベッドまで備えられた、まるで貴族が住んでいるかのような部屋だった。

しかし、肝心の住人の姿が見当たらない。

部屋の中を見渡しても誰もいない。扉の外にも見張りらしき人間はいなかった。


(……留守か?)


まあ、双子にも何か用事があるのだろう。

(外出中なら仕方ない。帰ってくるまで待っておこう)

俺はソファに寝転がり、目を閉じた。

……それにしても、いい部屋だ。


 ♦


「……はっ! 今何時?」


どうやら眠ってしまっていたらしい。

懐から懐中時計を取り出す。時刻は十五時を回っていた。


ぎゅるるるるー。


腹の虫が鳴った。

(昼食は食堂に行けばいいんだったかな? いや、違った気もする……)

研修で何か説明されたような気はするが、正直あまり覚えていない。


「ま、いいか。食堂に行くか。」


俺はソファから起き上がり、食堂へ向かった。


 ♦


「食堂、閉まってた……」


俺は悲哀の声を上げた。

(しまった、寝すぎた! しくじった!)

あまりにも寝心地がよかったせいで、すっかり爆睡してしまった。

そういえば、食堂の利用時間は十五時までだとか言っていた気がする。

(そもそも、俺って目覚ましで起きたことがないんだよな。いつも姉ちゃんに起こしてもらっていたし……)


……振り返れば振り返るほど、姉依存だったような気がする。

いや、今は考えないでおこう。


「それにしても、誰もいないんだな。」


部屋に戻ってみても、やはり誰もいなかった。

まあ、不思議ではない。

こんな豪華な部屋に住んでいるお嬢様たちだ。どこかでお茶会でもしているのかもしれない。


(それならそれで、一言くらい伝えておいてほしいけどな。)


「何もしないってのも落ち着かないしな……。」


俺は懐から地図を取り出した。

広げてみると、施設全体の見取り図が記されていた。


(行くとしたら、図書室、資料室、訓練室、実験室……あとは運動場か。)

ただし、運動場は受刑者が使用する場所らしい。俺が勝手に使うわけにはいかないだろう。

(それ以外だと、面会室、処刑室、拷問室、検死室……)

……見なかったことにしておこう。

時にはダークでバイオレンスなものを見てみたい気もするが、今はそんな気分じゃない。


「……図書室だな。それ以外は特に用もないし。」


今のところ、興味があるのは図書室くらいだ。

誰にも何も伝えずに部屋を出るのは、後で怒られそうな気もする。


「…まあいっか。」


部屋には誰もいなかったのだ。俺に一言も伝えずに出かけた方にも責任はあるだろう。

……うん。きっと許してくれるっしょ。

俺はそう自分に言い聞かせ、責任を放棄した。


 ♦


「来たはいいけど……これはデカすぎるな。」


図書室の扉を開けた瞬間、目の前に広がる光景に思わず足を止めた。

二階分の高さまで伸びる本棚が、視界いっぱいに並んでいる。予想以上の規模だ。まさに壮観だった。

図書室には大勢の人がいて、思い思いに本を読んだり、調べ物をしたりしている。

その中には制帽姿の職員だけでなく、一般の人間もいた。

(角が生えている人や、耳が長い人……人間じゃない種族もたくさんいるな)

彼らの手には、受刑者に付けられているようなリングも見当たらない。

つまり、この国の一般市民ということだろう。改めて、ここが異世界なのだと思い知らされる。

同時に研修で聞いた話を思い出した。

(そうだ。ここは一般棟だった。)

この施設は、大きく三つの区域に分かれている。

地下二階から地上六階まであり、地下二階と地下一階が執行棟、一階から三階までが一般棟、四階から六階までが統制棟だ。

執行棟は受刑者の収容や刑の執行を行う場所。

一般棟には役所や図書室、面会室などが設けられている。

そして統制棟は、機関長室をはじめとした機密性の高い部屋が集まる区域だ。

ちなみに、俺の仕事場も統制棟にある。

 ……そういえば、双子に関する情報も機密扱いだったはずだ。

(ん? 機密……あ。)

 俺はその場で固まった。

(……俺、部屋から出ちゃダメだって言われてなかったか?)

研修のとき、確かそんな話を聞いた気がする。


……今、俺がいるのは一般棟だ。つまり、機密扱いの双子を任された俺が、勝手に部屋を抜け出しているということになる。


(…………)

背中に冷たいものが走った。次の瞬間、滝のような汗が流れ始める。


(……もう遅い。堂々としておけばいいや。)

こういうときは、何事もなかったかのように振る舞うのが一番だ。見つからなければ問題ない。

……そう、見つからなければ。


「アンレイル。読書か。」


そう。見つからなければ――。


……あ。


俺に話しかけてきた人物を見た瞬間、汗が止まらなくなった。

なぜなら、目の前にいたのは――。


「カ、カミシロさん……。」


今、最も会いたくなかった人物だった。


「ん? どうした?」

「い、いえ。その……」


何と言い訳しようか考えていると、


ぎゅるるるるー。


「…………」


こんなときに限って、腹の虫が鳴った。


(おい!いい加減にしてくれ!これ以上、余計な問題を増やさないでくれ!)


「す、すみません。」

「何故謝る? 生理現象だろう。」

「いや、そうじゃなくて……」


俺は観念して、部屋を勝手に出てきたことを正直に話した。

ところが、カミシロから返ってきたのは意外な言葉だった。


「そんなこと、私は指示していないぞ。」

「……へ?」

「部屋から出るなとは言っていない。」

「でも研修で……」

「研修?そんなものを行うよう頼んだ覚えはないが?」

「…………え?」


おっと?これはどういうことだ?俺の記憶違い……というわけでもなさそうだ。

カミシロの表情は冗談を言っているようには見えなかった。


「ここでは話しづらい。私の部屋に来い」

「あ……はい」


 ♦


「なるほど。そういうことか。しかし、顔は思い出せないか。」

「すみません。」


カミシロの部屋に移動した俺は、これまでの経緯を包み隠さず話した。

研修で聞いた内容。案内された部屋の様子。そして、今日ここへ来るまでにあったこと。

ただ、研修を担当していた人物の顔だけは、どうしても思い出せなかった。


「お前のことは、統制機関の職員全員に通達してある。だが部屋の状況といい、研修の内容といい……私が把握している情報とは食い違いが多すぎる。」


カミシロは腕を組み、険しい表情を浮かべた。


「彼女たちは、誘拐された可能性がある。」

「……誘拐?」


 その言葉を聞いて、ようやく事態の異常さを理解した。


「アンレイル。」

「は、はい。」

「お前には、彼女たちの捜索をしてもらう。」

「……え?」


いや、ちょっと待ってくれ。

そんな重大なことを、そんなにあっさり言われても困るんだけど。

迷子の猫を探してくれ、くらいのノリで言われても……。


「いいか。この件は誰にも話すな。私からの指示があるまで、他言無用だ」

「へい。」


断れないから仕方ない。しかし何やら大変なことになってきた。でも何とかなるだろう。

俺はまだ、この事態の重大さを十分に理解していなかった。




追記

活動報告に裏設定・小ネタなどを今後記載していくので、そちらも良かったら見てください!

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