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嘘つきの切り札  作者:


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第四話 天城誠

嘘は見抜ける。


だが。


本心は、時に嘘より厄介だ。

 三日後。


 神崎は高級ホテルの最上階にいた。


 黒崎の案内だった。


「本当に会えるんですか」


「会えます」


 黒崎は答える。


「何故なら」


 その時だった。


「お待たせしました」


 後ろから声がした。


 神崎は振り返る。


 男が立っていた。


 写真で見た顔。


 穏やかな笑顔。


 整ったスーツ。


 どこにでもいそうな成功者。


 だが。


 空気が違った。


「初めまして」


 男は微笑む。


「天城誠です」


 神崎は黙って見ていた。


 癖。


 歩幅。


 呼吸。


 視線。


 観察する。


 だが。


 妙だった。


 何も引っ掛からない。


「神崎悠真さんですね」


「そうです」


「お会いできて嬉しい」


「私もですよ」


 二人は握手する。


 その瞬間。


 神崎は違和感を覚えた。


 手が温かい。


 不自然なほど。


 まるで。


 最初から警戒心を解くために調整されているような。


「どうしました?」


 天城が聞く。


「いえ」


 神崎は笑った。


「思ったより普通だなと」


「よく言われます」


 天城も笑う。


 その笑顔に偽りはない。


 本当に楽しそうだった。


 三人は席につく。


 黒崎は無言。


 神崎は天城を見る。


 天城は紅茶を注文した。


「高橋義人さん」


 神崎が言った。


「亡くなりましたね」


「残念です」


 天城は静かに答えた。


「悲しい?」


「もちろん」


「泣きましたか?」


「いいえ」


「何故」


「泣けば悲しみが証明されるわけではないので」


 神崎は笑った。


 上手い。


 だが嘘ではない。


「最後に電話しましたね」


「しました」


「何を話した」


「人生についてです」


「詳しく」


「守秘義務があります」


 神崎は思わず吹き出した。


「詐欺師にも守秘義務が?」


「私は詐欺師ではありません」


 即答だった。


 迷いもない。


 そして。


 嘘の反応もない。


「なるほど」


 神崎は面白くなってきた。


「一つ聞いていいですか」


 天城が言う。


「どうぞ」


「私を犯人だと思っていますか?」


 神崎は即答した。


「思ってます」


 黒崎がむせた。


 だが。


 天城は笑った。


 心から。


「安心しました」


「何がです」


「あなたは正直だ」


 神崎は初めて目を細める。


 違和感。


 小さな違和感。


 天城は何も隠していない。


 だから読めない。


 人は隠すから読める。


 人は嘘をつくから見抜ける。


 だが。


 この男は違う。


「神崎さん」


 天城が言う。


「あなたは勘違いしている」


「何を」


「私は敵じゃありません」


 神崎は笑う。


「では味方ですか」


「それも違う」


「なら何だ」


 数秒。


 沈黙。


 そして。


 天城は静かに答えた。


「私は案内人です」


 その言葉を聞いた瞬間。


 神崎の背筋を何かが走った。


 初めてだった。


 この男に。


 ほんの少しだけ。


 不気味さを感じたのは。


 その時。


 天城のスマホが鳴った。


 画面を見る。


 そして。


 初めて。


 天城の笑顔が消えた。


「失礼」


 電話に出る。


 数秒。


 無言。


 そして。


「そうですか」


 それだけ言って切った。


「どうしました?」


 神崎が聞く。


 天城は立ち上がった。


 そして。


 静かに言った。


「二人目が死にました」


 空気が凍る。


 黒崎が立ち上がる。


「何ですって」


 だが。


 天城は神崎を見ていた。


 まるで。


 試すように。


「神崎さん」


 そして微笑む。


「急がないと手遅れになりますよ」

嘘をつかない男。


だが。


何も隠していないとは限らない。

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