私は、きっと悪になるのだろう
妹を泣かせてしまった。
今年の春にママが連れてきた妹は目もあかない赤ん坊で、真っ赤な顔と短い指が可愛い、目に入れても痛くないほどの愛らしさであった。
「今日からあなたはこの子のお兄ちゃんよ。ミクちゃんのこと、見ててあげてね」
ママにそう言われればお兄ちゃんとして、守るべき存在として僕はミクの傍にいよう。頷くようにミクを抱くママの手にそっと自分の手を重ね、鼻先をミクに擦り付けた。絶対この子を守り抜くと誓ったあの日のことは今でも忘れられない。
ミクは驚くほどのスピードで成長し、ハイハイやラグの上にぺたんと座ることができるようになった。
ママが家事に勤しむ中、ミクの子守りを任された僕は、ミクと一緒にボール遊びをしていた。
けれど、僕がミクにボールを咥えて持ってこようとした時、勢い余ってミクに突っ込み、ドン!と押し倒してしまったのだ。
しまった!と思った時にはもう遅く、ミクはしゃっくりを上げて泣き出し、洗濯物を干していたママが飛んできた、という訳だ。
わざとじゃないとはいえ、守るべき妹を泣かせてしまった。ママとの約束だったのに…。ミクを泣かせてしまった、怪我をさせてしまった。僕は悪いお兄ちゃんだ…。ショックで項垂れていると、ミクをあやして泣き止ませたママがそっと僕の頭を撫でた。
「大丈夫よ、ジャック。ジャックもわざとした訳じゃないんでしょ?ミクに怪我はなかったわ。驚いて泣いちゃっただけよ」
優しく微笑むママに僕は目頭が熱くなった。
本当に?まだ僕はミクのお兄ちゃんでいていい?
くぅ…ん、と鼻を鳴らしてママに擦り寄るとママは僕の頭をわしゃわしゃと撫で回して「次は気をつけましょうね」と言ってくれた。
僕はその言葉に返事をするように小さく「ワフ!」と吠えてみた。
僕の名前はジャック。犬種はラブラドール。ママとパパ、そして妹のミクが大好きな大型犬。
今度はミクを泣かせない。なんて言ったってお兄ちゃんなんだから。




